田中 修

中国経済レポート

新型肺炎とマクロ政策(72)

新領域研究センター 田中 修

2021年8月12日


はじめに

本稿では、7月19日の李克強総理の国家自然科学基金委員会視察、27日の全国生育政策最適化テレビ電話会議での李克強総理の指示・孫春蘭副総理の発言、28~29日の人的資源サービス業発展大会での李克強総理の指示・胡春華副総理の発言、21日・28日の国務院常務会議の概要を紹介する。

7月19日 李克強総理の国家自然科学基金委員会視察

李克強総理の発言内容は、以下のとおりである。

習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、各関係方面は党中央・国務院の政策決定・手配を貫徹し、広範な科学技術者は奮闘努力して、わが国の科学技術イノベーションを推進し、不断に新たなブレークスルーを得ている。

習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとすることを堅持し、「新たな発展段階に立脚し、新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築し、質の高い発展を推進する」という要求を実施し、わが国現代化建設の全局におけるイノベーションの核心的地位を堅持し、改革の深化を通じて全社会のイノベーション・創造の積極性を更に大きく奮い立たせ、更に多くの科学技術の豊かな成果を生み出し、国家の発展と民生の改善のために有力なサポートを提供しなければならない。

現在、国際環境には大きな変化が発生しており、わが国の科学技術の発展には少なからぬ不足部分が存在し、多くの産業技術のボトルネックは、主としてオリジナルなイノベーションの脆弱性にある。

基礎研究は、オリジナルなイノベーションを推進し、科学技術と産業発展の高層ビルを構築する礎石である。わが国は、既に基礎研究の強化に力を入れるカギとなる時期に来ており、現実に立脚し、決してこのタイミングを逃してはならない。

緊迫感を増強し、現代化強国を建設することを軸に、基礎研究を大いに推進し、科学精神を高揚させ、実際に即して正確な方法を見出すことを堅持し、ルールを尊重し、厳格に洗練さを求め、科学研究者が、他の事に気を取られることなく科学研究を行い、永遠に満足せず、失敗を恐れず、国際協力を強化し、「十年1つの剣を磨く」根気強さと集中力をもって科学技術の高みに登ることを奨励しなければならない。

基礎研究に対する財政投入を安定・増加し、税制インセンティブ等の方式を運用して企業が基礎研究を展開し、基礎研究を応用する積極性を動員し、産業発展を制約する基礎理論問題の研究を強化しなければならない。専門資金を計上して、科学研究者が先端分野の重大問題を提起し、引き続き深く研究することを奨励する。学校教育の数学・物理・化学・生物等の基礎学科の教育水準を高め、更に多くの基礎研究人材を育成する。多くのルートで優秀な人材を引き入れ、基礎研究水準の向上を促進する。

長期にわたり科学技術の発展を束縛している体制メカニズムの障碍を打破し、科学技術分野の「行政の簡素化・権限の委譲、開放と管理の結合、サービスの最適化」改革を深化させなければならない。財政の科学研究項目の予算編成と査定の手続を簡素化し、予算調整、経費支出基準の確定、横断的経費管理等の権限を下方委譲する。間接費用と業績支出1 の割合を高め、とりわけ理論数学・物理等の純理論基礎研究項目を顕著に向上させなければならない。業績支出、科学技術成果の実用化の収益分配等の管理弁法を整備する。人材を高度に重視し、重大戦略のニーズと先端分野を軸に、科学者の手で研究課題・団体・経費の監督管理を自主的に確定する。業績志向を際立たせ、過程重視から結果重視へと転換する。

7月21日 国務院常務会議
(1)金融業の開放深化

近年、わが国の金融業の対外開放は順序立って推進されており、積極的な進展を得て、計100社余りの外資銀行・保険・証券・支払清算等の機関が批准・設立されている。

実体経済への金融サービス能力の増強を軸に、金融の改革開放を深化させ、内外の2つの市場・2つの資源をうまく用いて、中国が常に外資を吸引する「熱き大地」であるようにしなければならない。

①金融業の対外開放の約束履行に引き続きしっかり取り組み、開放の程度をかなり高い国際基準に自主的にベンチマーク化して、ネガティブリストを基礎とした更にハイレベルの金融開放の形成を推進する。

②外資銀行・保険等の金融機関の参入ハードルの要件を最適化し、金融機関の親会社・子会社間のクロスボーダー取引のルールを整備する。

外資が国内金融市場に参加するルート・方式を最適化する。実体経済に密接に関わる直接投資プロジェクトの管理要求の整備を推進する。人民元レートの合理的均衡水準での基本的安定を維持する。

③マクロプルーデンス政策の枠組を整備し、システミックな金融リスクのモニタリング・評価・事前警告メカニズムを構築し、金融市場の平穏な運営を維持する

(2)クロスボーダー貿易の円滑化改革

近年、クロスボーダー貿易の円滑化改革、ビジネス環境の最適化を通じて、全国の輸入・輸出全体の通関時間は、2017年と比べてそれぞれ60%・80%以上圧縮された。

今後、とりわけ7~12月の国際情勢・環境の変化に対して、通関港の疫病防御をしっかり実施すると同時に、通関の円滑化を統一的に推進し、輸出入の安定した伸びを維持しなければならない。

①通関効率を一層高める

輸出貨物の「抵港直装」2 と輸入貨物の「船辺直提」3 テストを拡大する。輸出税還付の円滑さを高めて、2021年末までに税還付処理の平均期間を7営業日以内に圧縮する。海外倉庫の建設を支援し、越境Eコマースの輸出返品政策を整備する。RCEPの中の貿易円滑化措置としっかりリンクさせる。

②輸出入段階の費用を一層引き下げる

通関港の料金徴収リスト公示制度を実施し、リスト外の料金を徴収してはならない。沿海港湾の水先案内料の基準を引き下げる。

③通関港の総合サービスを一層強化する

税関空港の再混載の時間効率を高める。水運から鉄道に積み替える輸送貨物について、「車船直取」4 方式の実行を模索する。国際物流の供給能力を高める。

7月27日 全国生育(出産)政策最適化テレビ電話会議
(1)李克強総理の指示

人口問題は、中華民族の発展に関わる基礎的・全局的・戦略的問題である。

3人目の子どもの出産を認める政策と関連支援措置の実施は、党中央・国務院がわが国の人口発展の情勢変化に基づいて行った重大政策決定であり、人口の長期にバランスのとれた発展を促進し、質の高い発展を推進する重大措置である。習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとすることを堅持し、人民を中心とする発展思想を堅持し、3人目の子どもの出産を認める政策をしっかり実施しなければならない。

優秀な子どもの出産・養育サポート水準を確実に高め、包摂的な託児保育サービス体系の建設を加速し、関係する経済社会政策と出産政策の組合せ・リンクを促進し、大衆の出産・養育・教育負担を軽減する。計画出産家庭の合法権益をしっかり擁護し、計画出産特殊家庭への健全な全方位の支援・保障制度を確立しなければならない。

各レベル政府及び関係部門は、具体的実施方案と関連政策措置を制定し、政策実施にしっかり取り組み、この国家と国民を利する好事をしっかり実施しなければならない。

(2)孫春蘭副総理の講話

習近平総書記の人口政策に関する重要指示精神を深く貫徹し、李克強総理の指示・要求を実施し、3人目の子どもの出産を認める政策及び関連支援措置の実施を重点とし、出産サービス体系の整備を支えとし、結婚・出産・養育・教育コストの引下げを保障として、人口の長期にバランスのとれた発展に影響を与える思想観念・政策法規・体制メカニズムを打破し、出産政策と関係する経済社会政策が同方向に力を発揮するよう促し、人口発展戦略目標の順調な実現を保障しなければならない。

関係法律法規の改正推進に急いで取り組み、社会扶養費等の規定を整理・廃止し、政策の調整・マッチングを強化しなければならない。

女性・幼児保健機関の標準化された建設を早急に推進し、母子への健康資源の供給を拡大し、重篤な妊産婦・新生児への救済治療能力を高め、優れた子どもの出産・養育サービス水準を高める。

託児保育サービス体系を整備し、計画・土地・住宅・財政等の支援政策を総合的に運用し、包摂的な託児保育サービスを発展させ、雇用単位等の社会(民間)パワーが多様な形式の託児保育サービスを提供することを奨励し、2025年に人口千人当たりの託児保育サービス施設の数を4.5カ所にする。

3歳以下の嬰児・幼児の面倒を見る費用を個人所得税付加控除に組み入れることを検討・推進し、包摂的な就学前教育資源の供給を拡大し、義務教育の質が優れバランスのとれた発展と都市・農村の一体化を推進し、差別化した家賃・住宅購入の優遇政策を検討・実施し、出産・養育・教育コストを引き下げる。

計画出産家庭の合法権益を保障し、女性が出産することの価値を尊重し、出産休暇・育児休暇等の制度を厳格に実施し、女性の労働と社会権益を法に基づき擁護する。

7月28日 国務院常務会議
(1)中央財政の科学研究経費管理の改革・整備

党中央・国務院の手配に基づき、新発展理念を深く貫徹し、わが国の現代化建設の全局におけるイノベーションの核心的地位を堅持し、科学研究者を際立てて気遣い、科学研究ルールに合致しない経費管理規定の廃除に力を入れ、科学研究者が研究に打ち込めるよう更に好く激励しなければならない。

中央財政の科学研究経費管理を一層改革・整備する措置を以下のように確定した。

①予算編成を簡素化し、予算科目を9以上から3以上に簡素化する

設備等の予算調整権を全部プロジェクト担当単位に下方委譲する。

基礎研究関連と人材関連プロジェクトについて、経費の経費請負制を推進する。

②科学研究者へのインセンティブを増やし、科学研究プロジェクトの間接費用の割合を高め、科学研究プロジェクト経費のうち人件費に50%以上用いることを認める。

数学等の純理論基礎研究プロジェクトについては、間接費用の割合を60%に引き上げることを認める。科学研究単位が、間接費用を全部業績支出に用いることを認める。

労務費の支出範囲を拡大し、プロジェクトの招聘者の社会保険補助・住宅公的積立金等を労務費支出に組み入れる。

科学技術成果の実用化の現金報奨は、所属機関の業績給与の総量制限を受けず、次年度の業績給与査定のベースとはしない。

③プロジェクト経費支出の進度を加速する

プロジェクト任務書締結後30日以内に、担当単位に経費を支払わなければならない。

プロジェクト完成後、残余資金はそのまま担当単位に使用させ、科学研究に直接使用する。

科学研究経費のうち国際協力・交流費用に計上されたものは、「公用海外出張、公用接待、公用自動車購入・維持」経費の範囲には入れない。

④科学研究経費への財政支援方式を刷新する

国家が確定した重点・範囲に基づき、科学者に研究テーマ・科学研究団体・経費使用を自主的に確定させる。

新しいタイプの研究開発機関が「予算+ネガティブリスト」管理方式を実行することを支援し、特殊な規定を除き、生み出した科学技術成果と知的財産権を、新しいタイプの研究開発機関が法に基づき取得し、実用化と普及・応用を自主的に決定することを財政資金が支援する。

⑤科学研究プロジェクトに関係方面から科学研究財務助手を配備し、予算編成・請求等の専門サービスを提供し、科学研究者の事務負担を軽減する

関連人件費は、プロジェクト経費を充てることを認める。

⑥科学研究経費への監督管理を改善する

実施中・事後の監督管理を強化し、法・規定に基づき会計検査による監督を展開する。

(2)豚の生産能力安定

現在、豚の生産能力は既に一度出現した深刻な滑落から、比較的速やかに正常な年の水準に回復している。当面の需給の変化に対し、経済ルールを遵守し、市場による方式を更に多く用いて「ピッグサイクル」の変動を緩和し、豚の供給と価格の安定を確保しなければならない。

①財政・金融・土地使用等の長期に有効な支援政策を確定し、養豚場(家)の積極性を保護する

養豚場(家)と食肉解体加工企業に対して、勝手に貸出の制限・貸し剥し・貸出停止を行ってはならない。法律・規定に違反して、養豚禁止地域の範囲を拡大してはならない。

大規模養豚場の飼育頭数を安定させ、中小養豚場(家)の養豚水準向上を支援する。

②豚生産のカウンターシクリカルなコントロールメカニズムを確立する

繁殖能力のある母豚の頭数が前年同月比で10%以上減少し、あるいは養豚が3カ月連続で深刻な赤字となった場合は、各地方が大規模養豚場に対し1回限りの臨時救助を与えることを認める。

③重大疫病防御にしっかり取り組み、豚肉備蓄の緊急調節を強化する

7月28~29日 人的資源サービス業発展大会
(1)李克強総理の指示

人的資源サービス業は、民間の力を利用した雇用を促進し、わが国の人的資源の優位性を更に好く発揮し、経済社会の発展をサポートすることにとって、重要な意義を有する。

習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとすることを堅持し、党中央・国務院の政策決定・手配を真剣に貫徹し、雇用優先戦略・人材強国戦略・農村振興戦略によりリードして、人的資源サービスの水準を一層高めなければならない。

労働力市場・人材市場・一時雇用市場の建設支援に力を入れ、雇用拡大と人的資源の配分最適化を更に好く促進し、億万の労働者と各種人材の起業・イノベーション活力を更に奮い立たせ、新たな動力エネルギーの成長を牽引して、「わが国経済の総合競争力を高め、民生を引き続き改善し、質の高い発展を促進する」ために有力なサポートを提供しなければならない。

(2)胡春華副総理の発言

習近平総書記の重要指示精神を真剣に学習・貫徹し、李克強総理の指示・要求を実施し、人的資源サービス業の発展に着実にしっかり取り組み、雇用の大局の安定と経済社会の発展のために、新たに貢献しなければならない。

近年、わが国の人的資源サービス業の発展は顕著な成果を収め、雇用の大局の安定を有力に促進し、サービスの内容・方式はますます豊富となり、業種規模は不断に拡大し、政策体系は徐々に整備されている。

新たな発展段階に立脚し、新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築し、質の高い発展を推進することは、人的資源サービス業に対して更に高い要求を提起し、更に広範な舞台も提供している。

雇用促進という根本をしっかり軸に、人的資源サービス業の発展を計画し、雇用サービスの規模と質を業種発展の成果を考量する主要な基準としなければならない。

雇用情勢の変化に順応し、人的資源サービス業の改革・イノベーションを加速し、労働者の技能・素質を不断に高め、労働力の円滑な流動・配置の最適化を促進し、構造的な雇用矛盾を有効に緩和しなければならない。

積極的に人的資源サービスのパワーを壮大に育成し、各種人的資源サービス機関の協調発展を支援し、人的資源サービスの水準を高めなければならない。

ハイレベルの人的資源市場システムの構築に力を入れ、多層レベル・多元化した人的資源市場の枠組を早急に形成し、市場信用体系の建設を強化しなければならない。

労働者に対する社会保障を確実に強化し、労働者の合法権益を有効に保護し、引き続き雇用の質を高めなければならない。

  1. 課題任務を引き受けた機関が、研究活動の業績を高めるために行う支出をさす(中国通信)。
  2. コンテナ積載の輸出貨物を、輸出業者が手配したコンテナトラックで船側まで直接運んで船積み作業を終えること(中国通信。)
  3. コンテナに積載された輸入貨物を、船側で船から輸入業者が手配したコンテナトラックに直接下ろして目的地に運ぶこと(中国通信)。
  4. 船舶の到着後、すぐに積み荷明細書の確認手続をとり、埠頭やヤードを経由しないで、通関許可後、荷主が税関の監督下で船から直接貨物を受け取れること(中国通信)。