田中 修

中国経済レポート

下半期の金融政策

新領域研究センター 田中 修

2021年8月6日


はじめに

7月30日、党中央政治局が下半期の経済政策の基本方針を決定したことを受け、人民銀行は「2021年下半期工作会議」を開催し、下半期の金融政策の考え方を明らかにした。本稿では、その概要を紹介する。

2021年下半期、人民銀行系統組織は習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、習近平総書記の「7月1日」重要講話精神を深く学習・貫徹し、経済情勢に対する党中央の判断と政策決定・手配に、思想と行動を確実に統一し、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、マクロ政策の安定性を維持し、「バラマキ」を行わないことを堅持し、展望性・有効性を増強し、穏健な金融政策は引き続き実体経済の支援に焦点を絞らなければならない。

改革開放の推進に力を入れ、公正な監督管理を強化し、独占と不当競争に反対し、対外貿易・外資の安定した伸びを促進し、経済の安定の中で好転する態勢を強固にし、年間の発展の主要目標・任務の達成を確保し、新たな発展の枠組を早急に構築するために、有力・有効な金融支援を提供しなければならない。

(1)「穏」(穏健・安定)の字を頭に置くことを堅持し、穏健な金融政策は柔軟・精確、合理的で適度でなければならない

周期を跨ぐ政策設計をしっかり行い、政策実施のテンポ・程度をしっかり把握する。

多様な金融政策手段を総合的に運用して、流動性の合理的充足を維持し、貸出の合理的伸びを誘導し、マネーサプライと社会資金調達規模の伸びを名目成長率と基本的に釣り合わせ、マクロレバレッジ率の基本的安定を維持する。

金利の市場化改革を引き続き深化させ、実質貸出金利の安定の中での低下を促進する。

人民元レートの形成メカニズム改革を深化させ、人民元レートの合理的均衡水準での基本的安定を維持する。

金融機関が、小型・零細企業、「三農」、製造業等の重点分野と脆弱部分への支援を強化するよう誘導する。

インクルーシブファイナンスとグリーン融資、科学技術イノベーション融資、サプライチェーン融資等の融合発展を統一的に推進し、科学技術イノベーションを金融支援する政策体系を整備する。

農村振興への金融サポートと貧困への金融支援を引き続きしっかり行う。

(2)全体で協同し、グリーン金融システムの整備を加速する

炭素排出削減推進支援手段を実施し効果を上げ、条件に合致した金融機関に低コスト資金を提供し、金融機関が顕著な排出削減効果のある重点分野のために、優遇金利融資を提供するよう誘導する。炭素排出の情報開示とグリーン融資の評価を着実に推進する。

気候リスク管理を強化し、気候リスクのストレステストを秩序立てて展開する。グリーン融資の重点問題に対する調査研究を強化する。

(3)重大リスクを確実に防止・解消する

重点分野のリスクポイントを密接にモニタリングし、洗い出す。重大金融リスクの問責、金融リスクの通報等の制度を実施する。

地方の党委員会・政府のリスク処理の現地責任を強化する。重点省のハイリスク機関の数を圧縮する取組みを推進する。

(4)マクロプルーデンス管理を引き続き強化する

健全なマクロプルーデンス政策の枠組を整備する。マクロプルーデンス政策ガイドラインを速やかに公布する。マクロプルーデンスのストレステストを段階的に展開し、カウンターシクリカルな資本緩衝(CCyB)1の評価メカニズムを確立し、年度評価を展開する。

不動産融資のプルーデンス管理制度をしっかり実施する。金融持株会社への監督管理を推進する。システム上重要な金融機関への監督管理を強化する。

(5)金融開放を一層秩序立てて推進する

金融業の対外開放の約束履行に引き続きしっかり取り組み、国際的に高い基準を主動的にベンチマークとして、ネガティブリストを基礎とした更にハイレベルな金融開放の形成を推進する。

全国的な開放、自由貿易試験区での開放、FTAを通じて行う二国間あるいは地域的な開放政策を統一・協調させ、しっかり実施する。グリーン融資の国際協力を引き続き推進する。

(6)重点分野の金融改革を深化させる

人民元の国際化、対外通貨協力の深化を引き続き穏当・慎重に推進し、オフショア人民元市場を発展させる。クロスボーダー貿易・投資のハイレベルな開放テストを展開する。

貿易収支円滑化テストを拡大し、更に多くの地域とりわけ中西部地域のテスト参加を支援する。

外債登記管理改革を推進し、国外機関が中国で発行する債券の管理政策を整備する。

デジタル人民元の研究開発テストを適切に推進する。

(7)プラットフォーム企業が監督管理要求に基づき全面的に整理・改革を行うよう督促・指導し、仮想通貨の取引・投機に対して強いプレッシャーをかける態勢を維持する

同類業務・同類機関を同じと見なすことを堅持し、期限どおりに質を維持しながら整理・改革を実施することを確保し、業務の連続性と企業の正常経営を維持し、広範な人民大衆への金融サービスの質が低下しないことを維持する。

市場化・法治化・国際化を堅持し、「2つのいささかも揺るがない」2を堅持し、財産権・知的財産権を保護し、公平な市場環境を創造する。

(8)引き続き金融サービスと管理にしっかり取り組む

「行政の簡素化・権限の委譲、開放と管理の結合、サービスの最適化」改革を深化させる。金融業総合統計に係る各作業に引き続きしっかり取り組む。支払決済サービスの手数料引下げを積極的に推進し効果を上げる。フィンテックによる農村振興権限賦与モデルプロジェクト、金融データ総合応用テストをしっかり実施する。北京冬季オリンピックに係る各金融サービス任務をしっかり実施する。

現金受領拒否を深く取り締まる。国庫管理制度の整備を加速する。情報化推進に力を入れる。「情報収集業務管理弁法」を打ち出して推進し、個人データと情報主体の権益保護を強化する。反マネーロンダリングの政策協調メカニズムを整備する。金融消費者の合法権益を侵害する行為を厳しく取り締まる。

  1. バーゼル協議による最低自己資本比率の監督規制。経済が好調なときに高めの自己資本比率を要求することにより、経済後退期の自己資本比率低下情況に備えるもの。
  2. いささかも揺るぐことなく公有制経済を打ち固め、発展させ、いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励し、支援し、導かなければならない。