田中 修

中国経済レポート

新型肺炎とマクロ政策(68)

新領域研究センター 田中 修

2021年6月18日


はじめに

本稿では、6月2日の規制緩和に関する全国テレビ電話会議における李克強総理の重要講話、3日の全国就業・起業対策及び一般大学卒業生の就業・起業対策テレビ電話会議の概要を紹介する。

6月2日 「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を深化させ、市場主体の活力を育成し奮い立たせることに力を入れる全国テレビ電話会議

李克強総理の重要講話の要旨は、以下のとおりである1

2020年、多重の深刻な衝撃に直面し、我々は疫病対策と経済社会発展を統一し、市場主体の需要に向き合い、「バラマキ」式の強い刺激を行わないことを堅持し、市場主体の急な需要に的を絞り、マクロ政策を刷新して実施し、「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革と結びつけ、企業の困難緩和援助と活力を奮い立たせる措置を併せ打ち出し、経済のかなり速い回復・発展を有力に促進した。

年間に市場主体のための新たな税・費用引下げは2.6兆元を超え、同時に金融系統組織は、実体経済に合理的に1.5兆元の利潤移譲を推進した。我々はまた中央が新たに増やした財政資金の直接交付メカニズムを確立し、資金を一気に末端に送り、中間段階を大幅に減らし、省レベル財政と共同で迅速に、市・県末端が企業に利を与え人民に恩恵を与えるための財政力を補充した。これまで中央財政資金が様々なレベルに分解されて末端に下達されるには、平均で120日超かかったが、2020年は最も速くてわずか7日だった。我々はまた、金融政策の直接到達手段をうまく用いて、中小・零細企業と個人工商事業者を精確・迅速に支援した。

市場主体は、雇用・経済基盤をしっかり安定させるための有力な支えである。2020年、あのように困難な情況下、新たに設立した市場主体の数は1-3月期顕著に低下したが、年間では2500万社に達した。2021年1-4月は引き続き高速成長を維持し、新たに設立した市場主体は900万社近い。市場主体をしっかり保障することも、雇用をしっかり安定させることである。2020年の新規都市就業者は1186万人で、都市調査失業率は最高時2月の6.2%から年末の5.2%に下がった。雇用があれば所得があり、2020年の全国住民1人当たり可処分所得は実質2.1%増となり、経済成長と基本的に同歩調であった。

市場主体の新設が迅速であることは、重要な税収源となる。2013年、全国で新たに税を収めた市場主体の納税額は1600億元であったが、2020年までのここ数年、新たに税を収めた市場主体の納税額は累計で3.82兆元となり、2020年の全国税収の4分の1を超え、2020年の減税・費用引下げの規模を超える。多重の深刻な衝撃に直面し、億を上回る市場主体は強大な強靭性を示した。実践は、市場主体が経済社会発展の重要なパワーであり、人民が真の英雄であることを証明している。

2021年、わが国の経済運営は、引き続き安定の中で強固となり、安定の中で好転しているが、内外環境は依然として複雑・峻厳である。世界の疫病はなお継続し、大口取引商品の価格が上昇し、インフレ期待が上昇している。国内経済の回復はアンバランスであり、市場主体とりわけ中小・零細企業と個人工商事業者はなお少なからぬ困難に直面している。雇用圧力は依然かなり大きく、大学卒業生だけで909万人に達する。4月の全国都市調査失業率は5.1%に下がったが、8つの省は6%以上である。

我々は引き続き市場主体の面倒をみることを軸に、マクロ政策を科学的・精確に実施し、常態化した財政資金直接交付メカニズムと金融政策の直接到達手段をしっかり実施すると同時に、「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」等の重点改革を深化させ、市場主体が一層元気を回復し、経済発展動力を増強するよう助力し、経済運営を合理的区間に維持し、今後の発展のために堅実な基礎を打ち固めなければならない。

経済成長の安定・回復に鑑み、2021年、我々はもはや段階的緊急対策を実施しないが、急転換はせず、新たな構造的減税等のヘッジ政策を実施し、小型・零細企業、個人工商事業者へのインクルーシブファイナンス支援を増やしている。総体としてみると、これらの政策の実施は良好であるが、企業によっては、政策をよく知らず、申請手続が比較的繁雑等の原因により政策のメリットを享受していないことへの不満がある。一層サービス意識を増強し、政策の宣伝・紹介を強化し、政策実施メカニズムを最適化し、現代情報技術をうまく用いて、「人が政策を探す」から「政策が人を探す」への変換に努力し、企業優遇政策を推進して享受すべきものは全て享受させ、迅速に実現しなければならない。

市場主体は、経済社会発展の重要なパワーである。

「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革は、社会主義市場経済体制の整備の需要に適応し、人民大衆の就業・起業の需要に順応しており、市場主体を育成し、市場の活力と社会の創造力を奮い立たせることに着眼している。

市場主体は雇用を安定・拡大する「大黒柱」である。近年、わが国の新規都市就業者は毎年1300万人を超え、絶対多数は市場主体に吸収してもらっている。関連試算では、1つの市場主体で平均8~10人の雇用を牽引し、実際に運営している市場主体だけでも1億社以上を維持しており、わが国の規模が膨大な労働力の雇用の安定を維持するのに比較的充分である。とりわけ数が多く、範囲が広い中小・零細企業、個人工商事業者は、雇用の大きな器であり、彼らは85%の都市雇用を提供し、4.4憶の都市就業者、2.9憶の出稼ぎ農民の雇 用を相当程度支えている。

市場主体は富を創造する枯れない源泉であり、税収を提供する主要な源である。第13次5カ年計画期間に新たに税を収めた市場主体の過去5年合計の納税額は7.8兆元を超え、同期の減税・費用引下げの規模7.6兆元よりも大きい。

市場主体の弱点・難点を注力点とし、「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を一体的に推進し、市場主体のために一層権限を委譲しエネルギーを賦与し、不当な関与を減らし、公正な監督管理を強化し、公平な競争を促進し、公共サービスを最適化し、人民大衆に大胆に起業で奮闘させ、市場主体に大胆にイノベーションを進展させなければならない。

ビジネス環境は市場主体が生存・発展するための土壌である。

「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を掴みどころとし、引き続き市場化・法治化・国際化したビジネス環境を作り上げなければならない。

(1)市場化方面

行政簡素化の道を力行し、行政審査・許認可制度改革を深化させ、企業の発展を束縛する不合理な障碍を打破し、市場主体の参入・退出を更に迅速にし、市場の新陳代謝を促進しなければならない。

市場の監督管理を刷新・整備し、各種市場主体を同一視して、独占・不当競争に反対し、市場主体とりわけ小型・零細企業、個人工商事業者の合法権益と発展の空間を保護し、質と安全の最低ラインを断固しっかり守らなければならない。

政務サービスの最適化を推進し、制度と技術の方法を用いて市場主体がルールに基づき事業を行い、コネに頼まないことを常態とさせる。

(2)法治化方面

健全なビジネス環境の法規体系を確立し、財産権保護制度を整備し、公正で文明的な法執行を厳格に規範化しなければならない。

(3)国際化方面

開放拡大を堅持し、関係国際一般ルールとリンクさせ、RCEP加入に署名した契機をしっかり掴んで、貿易・投資の自由化・円滑化、知的財産権保護等の方面で、さらにハイレベルなルール実行を推進し、制度型開放において更に大きな歩みを踏み出さなければならない。

「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革は、刀の刃を内部に向ける政府の自己革命であり、各地方・各部門は習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、改革の責任負担を強化し、中央と地方の2つの積極性を発揮して、各方面のパワーを動員し、市場主体と人民大衆のために実務に取り組み難題を解決して、彼らの獲得観を不断に高めなければならない。

6月3日 全国就業・起業対策及び一般大学卒業生の就業・起業対策テレビ電話会議
(1)李克強総理の指示の概要

雇用は民生の本であり、社会の富が創造される源・社会の大局を安定させる重要な支えである。2020年の雇用を安定・拡大する任務は非常に困難・繁雑で荷が重い。

各地方・各部門は、習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、党中央・国務院の政策決定・手配を真剣に貫徹し、経済発展により雇用を導くことを堅持し、雇用優先政策を強化し、大学卒業生・退役軍人・出稼ぎ農民等の重点層の雇用対策を際立たせてしっかり取り組まなければならない。

減税・費用引下げ、インクルーシブファイナンス、雇用の安定・拡大等の政策をしっかりきめ細かく実施し、中小・零細企業、個人工商事業者等の市場主体が一層困難を緩和し、発展の活力を増強するよう支援し、更に多くの市場による就業・起業の機会を提供しなければならない。

「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を深化させ、大衆による起業・万人によるイノベーションを引き続き推進し、新たな就労形態の発展を支援・規範化し、起業により雇用を牽引する。

職業技能訓練の質と雇用サービス水準の向上に力を入れ、労働力・人材・日雇い市場の更に良好な発展を支援し、柔軟な就労者の基本権益を保障し、脱貧困者の雇用安定を支援し、就労困難者への援助をしっかり行い、失業者の基本生活を保障し、年間の雇用目標・任務の達成に努力して、経済社会の持続的で健全な発展を促進するために新たな貢献を行おう!

(2)会議の概要

経済発展により雇用を導き、市場主体の安定・発展、雇用の安定を支援し、新たな就労ポストを積極的に創造し、起業・イノベーションの支援に力を入れ、雇用の容量を安定・拡大しなければならない。

各種雇用サービス機関・組織の役割を十分発揮させ、公共サービス機関の基盤と最低ライン保障機能を一層強化し、市場において機関が専門的優位性を発揮するよう支援し、社会組織が雇用サービスに広範に参加するよう奨励・誘導し、健全な人材資源市場システムを整備しなければならない。

職業技能訓練を強化し、質と量を保障して職業技能向上キャンペーンの任務を達成し、各種訓練単位の積極性を有効に動員し、職業技能訓練の長期に有効なメカニズムの確立を推進し、構造的な雇用矛盾を緩和しなければならない。

大学卒業生の雇用対策に着実にしっかり取り組み、大学の籍を離れる前後のサービスの接続をしっかり行い、需給双方の情報のマッチングを促進し、多くのルートで卒業生の雇用を増やさなければならない。

大学卒業生の就業・起業対策を際立てて位置づけ、就職指導サービスの的確性を高め、卒業生が正確な就業観を樹立して、末端の一線で就業・起業するよう誘導し、彼らが求職中に遭遇した困難・問題の解決を援助し、大学からの離籍前のキャンパスにおける募集の熱気が減じることのないことを確保し、離籍後の就職サービスとリンクさせなければならない。

政策的なポストの雇用吸収作用を発揮させ、教師・医療従事者等のポストの募集期間を最適化・調整し、「三支一扶」(大学卒業生が農村の末端に行き、農業・教育・医療を支援し、貧困を扶助すること)、「特崗教師」(公募により大学卒業生を中西部の県以下の農村学校で義務教育の教員に就かせること)、「西部計画」(優秀な大学生を西部地域でボランティアにつかせること)等の末端就労プロジェクトをしっかり実施しなければならない。

市場による雇用ルートを開拓し、国家が負担を減じることにより事業を安定させ雇用を拡大する政策をしっかり用いて、企業が雇用を吸収することを奨励し、税・費用の減免、起業貸付等の政策支援を通じて、卒業生の起業を支援し、卒業生の更に充分で更に質の高い雇用を促進し、卓越した成績をもって党創立100周年を慶祝しなければならない。

  1. 新華社2021年6月2日北京電の要約をベースに、マクロ政策部分については、適宜同6月7日電の重要講話全文の内容を補充している。