田中 修

中国経済レポート

新型肺炎とマクロ政策(67)

新領域研究センター 田中 修

2021年6月17日


はじめに

本稿では、5月21日の世界健康サミットにおける習近平国家主席の演説、国務院金融安定発展委員会、権利侵害・偽物製造販売全国取締テレビ電話会議への李克強総理指示、26日の国務院常務会議の概要を紹介する。

5月21日 世界健康サミットにおける習近平国家主席の演説

経済関連部分は、以下のとおりである。

この史上前例のない疫病対策闘争において、中国は多くの国家の支援・援助を得、中国も大規模・グローバルな人道主義行動を展開した。

2020年5月、私は第73回WHO総会において、中国はグローバルな疫病対策協力を支援する5つの措置を宣言し、実施に早急に取り組んでいるところである。

生産能力に限りがあり、自身の需要が巨大な情況下、中国は約束を履行し、80余りの緊急需要のある発展途上国にワクチン援助を提供し、43の国家にワクチンを輸出した。

中国は既に疫病の影響を受けた発展途上国の疫病対策と経済社会の発展回復のために20億ドルの援助を提供し、150の国家と13の国際組織に疫病対策の物資援助を提供し、世界に2800億枚余りのマスク、34億着余りの防護服、40億個余りの検査試薬キットを供給した。

中国・アフリカ諸国は41の一対一病院協力メカニズムを確立し、中国が建設を援助したアフリカ疾病コントロール本部ビルプロジェクトは、既に20年末に正式に着工した。

中国が国連と協力して中国に設立した、グローバル人道主義緊急対応倉庫・ハブも、重要な進展をみている。

中国は、G20の「最貧国国家債務返済一時猶予イニシアティブ」を全面実施し、総額は13億ドルを超えており、G20構成員中、債務猶予実施金額が最大の国家である。

世界の団結・疫病対策を引き続き支援するため、私は以下を宣言する。

①中国は将来3年内に、30億ドルの国際援助を再び提供し、発展途上国の疫病対策と経済社会の発展回復支援に用いる。

②中国は既に世界に3億回分のワクチンを供給しており、今後もできる限り更に多くのワクチンを対外提供する。

③中国は、自国のワクチン企業が発展途上国に技術移転を進めることを支援し、生産協力を展開する。

④中国は既に新型コロナワクチンの知的財産権保護免除支援を宣言しており、WTO等の国際機関が早急にこれについて決定することをも支援する。

⑤中国はワクチン協力国際フォーラムを設立し、ワクチンを生産・研究・開発する国家・企業・利害関係者と共に、グローバルにワクチンの公平・合理的な分配をどのように推進するかを検討することを提唱する。

5月21日 国務院金融安定発展委員会

劉鶴副総理が主催し、今後の金融分野の重点政策を検討・手配した。

金融系統組織は、党中央・国務院の政策決定・手配を断固貫徹し、実体経済に対する支援を強化し、穏健な金融政策を柔軟・適度とし、貸出政策を市場主体の需要に精確に適応させ、流動性を合理的に充足し、金融サービスの水準を高め、疫病防御と経済社会発展への金融支援で顕著な実効を上げる。

金融系統組織は大局意識を堅持し、「穏」(穏健・安定)の字を頭に置くことを堅持し、マクロコントロールを科学的・精確に実施し、程度をしっかり把握しなくてはならず、急転換してはならない。

多様な金融政策手段を総合運用して、流動性の合理的充足を維持し、金融リスクを有効に防止・解消し、経済・金融の良性の循環を促進しなければならない。

①実態経済に一層サービスする

穏健な金融政策を柔軟・精確、合理的で適度にし、実体経済に直接到達する政策手段を引き続き実施し、ミクロ主体の活力を増強し、企業を安定させて雇用を保障し、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス、農村振興、製造業、科学技術イノベーション、発展のグリーン転換の支援に力を入れなければならない。

②金融リスクを断固防止・解消する

(最悪事態を想定して)最低ラインを保障する考え方を堅持し、金融リスクの全方位的な見渡しと事前警告を強化し、中小金融機関の改革・リスク解消を推進し、信用リスクの引下げに力を入れ、プラットフォーム企業の金融活動への監督管理を強化し、ビットコインのマイニングと取引行為を取り締まり、個別リスクが社会分野に伝播することを断固防止する。

株式・債券・外為市場の平穏な運営を擁護し、証券の違法行為を厳格に取り締まり、金融の違法な犯罪活動を厳しく懲罰しなければならない。

外部リスクの衝撃を厳密に防止し、輸入性インフレに有効に対応し、予想の管理を強化し、市場の監督管理を強化し、事前対応案と政策蓄積をしっかり行わなければならない。

③改革開放を引き続き深化させる

金利・為替レートの市場化改革を一層推進し、人民元レートの合理的均衡水準における基本的安定を維持する。

資本市場改革を加速し、債券市場の質の高い発展を推進する。

金融機関改革を深化させ、原点に回帰させ、位置づけを堅守させ、グリーン理念を遵守して投融資行為を展開させる。

引き続きハイレベルの金融開放を拡大する。

5月21日 権利侵害・偽物製造販売全国取締テレビ電話会議

李克強総理の指示は以下のとおりである。

知的財産権保護、権利侵害・偽物製造販売取締りは、イノベーション型国家建設と人民大衆の健康・安全に関わるものである。

近年、各地方・各部門は、権利侵害・偽物製造販売取締りを積極的に推進し、権利侵害・偽物製造販売の違法犯罪行為を断固取り締まり、全社会のイノベーション活力を奮い立たせてきたが、存在する問題についてはなお軽視できない。

習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、党中央・国務院の政策決定・手配を真剣に貫徹し、一層計画の統一を強化し、法律・法規を整備し、責任を各レベルで徹底させ、重点分野・重点段階の権利侵害・偽物製造販売特別対策を引き続き展開しなければならない。

行政の法執行と司法をリンクさせ、「双随機、一公開」(検査官と検査対象を無作為に抽出し、検査過程や処理結果を随時公開する)の監督管理、信用の監督管理、部門を跨ぐ協同監督管理等の有効な方法を整備し、国際交流・協力を深化させ、知的財産権の全チェーンの保護を強化し、市場化・法治化・国際化したビジネス環境を作り上げることに力を入れ、公平な競争の市場秩序を擁護し、市場主体の活力と社会の創造力を更に大きく奮い立たせ、起業・イノベーションの促進、質の高い発展の推進、民生の保障・改善のために、新たな貢献を行おう!

5月26日 国務院常務会議

(小型・零細企業、個人工商事業者の困難緩和・発展を一層支援)

数が多く範囲が広い小型・零細企業、個人工商事業者は、わが国経済の強靭性・雇用の強靭性の重要な支えである。

党中央・国務院の手配に基づき、ここ数年「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革の継続推進、とりわけ20年に実施した一連の包摂的な困難緩和政策を通じて、小型・零細企業、個人工商事業者の発展を有力に促進した。

4月末までに、全国小型・零細企業の総数は4400万社を超え、個人工商事業者は9500万件を超え、わが国の雇用の主力軍となっている。

現在、内外環境は複雑・峻厳であり、小型・零細企業、個人工商事業者の生産経営はなお困難に直面しており、引き続き支援を的確に強化しなければならない。

(1)「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)を一層実施し、必要な支援の程度を維持する

減税・費用引下げ措置をしっかりきめ細かく実施する。

小型・零細企業、個人工商事業者等へのインクルーシブファイナンスを強化し、無担保貸出・初回貸出・中長期貸出・元本無償還継続貸出業務の規模を拡大するよう誘導し、随時借り入れ随時償還する貸出(リボルビングローン)を普及させる。

商業手形の期間を1年から6カ月に短縮し、企業の資金繰り負担を軽減する。

(2)多くの措置を併せ打ち出して、川上の原材料価格上昇の影響への小型・零細企業、個人工商事業者の対応を援助する

大型企業が重点業種の産業チェーン需給マッチングプラットフォームを立ち上げることを支援し、市場化の方法を用いて、サプライチェーン川上・川下の原材料供給の安定と生産・販売の協調・協力を誘導し、供給の保障・価格の安定にしっかり取り組む。

買占め・売惜しみ、価格吊り上げ等の行為を取り締まる。

各地方が規定に基づき、小型・零細企業、個人工商事業者に対し、雇用安定補助を与えることを支援する。

プラットフォームが、高すぎる手数料徴収・割り前や新規出店コミッション及び販売促進費の比率を引き下げるよう督促・誘導する。

(3)公正な監督管理を強化する

公平な競争の審査制度を厳格に実施し、各種市場主体を同一視して、各種市場主体が市場経済活動に参加することを差別・妨害する政策・放棄を整理・廃止する。

反独占・反不当競争の法執行を深く推進し、優位な地位にある企業による市場のシェア獲得のための悪意の補助・低価格ダンピング等の行為を法に基づき調査・処分する。

各種のみだりに費用を徴収し、みだりに罰金を科す行為を取り締まる。

同時に、基本保障の最低ラインを確保し、個人工商事業者と柔軟な就労者の社会保険加入を推進し、就労地で保険加入する際の戸籍規制を開放し、柔軟な就労者を労災保険の範囲に組み入れることを模索する。