人民銀行行長インタビュー

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2021年1月14日


はじめに

易綱人民銀行行長は、1月8日、新華社のインタビューに応じた。これは、同社の財政部長インタビューと対となり、中国のマクロ経済政策を解説したものと考えられる。本稿では、インタビューの概要を紹介する。

1.穏健な金融政策をどのように実施するか。経済回復に必要な支援の程度を維持するのか?

2021年の金融政策は、「穏」(穏健・安定)の字を頭に置き、正常な金融政策の余地の持続可能性をしっかり維持する。

総量方面では、各種の金融政策手段を総合的に運用し、流動性の合理的充足を維持し、M2と社会資金調達規模の伸びを名目経済成長率と基本的に釣り合わせることを維持する。

構造方面では、金融政策手段の精確な点滴灌漑作用を好く発揮させ、科学技術イノベーション、小型・零細企業、グリーン発展等の重点任務への金融支援を増やす。同時に、金利と為替レートの市場化改革を深化させ、貸出実質金利の引下げの成果を強固にし、人民元レートの弾力性を増強する。

2.疫病期間の特殊・段階的な政策は、使命達成後退出する。政策退出の相乗効果をいかに回避するか?

中国は、ゼロ金利さらにはマイナス金利を採用していないし、量的緩和政策も実施していない。中国は、正常な金融政策を実施している少数の主要経済体の一つであり、一貫して「バラマキ」を行っていない。

このため、中国の金融政策について言えば、退出問題は比較的小さい。

3.2020年上半期、わが国のマクロレバレッジ率は段階的に上昇した。21年、経済回復とリスク防止をどのようにバランスさせるのか?

マクロ面では、マクロレバレッジ率をしっかり安定させなければならない。2020年、疫病の衝撃でGDP成長率がかなり低く、わが国のマクロレバレッジ率(総負債の対GDP比)も顕著に上昇した。2020年7-9月期以降、マクロレバレッジ率の伸びは既に鈍化しており、21年は基本的に安定軌道に戻すことができると予想している。

実体経済の発展を支援すると同時に、金融リスクの累積に注意している。個別機関のリスクと重点分野のリスクを適切に処理し、金融リスクの健全な予防・事前警告・処理・問責制度の体系を整備し、各方面の責任を一層徹底させ、監督管理制度の不足部分を補強しなければならない。リスク処理のプロセスは、「法に基づきルールに合致し、適切で秩序立っている」ことを堅持する。リスク処理の長期有効なメカニズムを整備し、多くのルートで中小銀行の資本金を補充する。行為の監督管理を強化し、法律・法規に反した行為を厳しく調査・処分する。

4.2021年は、金融サービスの包摂性をどのように高め、実体経済とりわけ小型・零細企業の発展を更に好く支援するのか?

金融系統組織は、実体経済を金融が有効に支援する体制メカニズムを一層強化し、市場化・法治化・国際化の原則に基づき、高度な適応性・競争力を備えた、包摂型の健全な現代金融システムを整備し、インセンティブ・制約メカニズムを整備し、構造的金融政策手段を設計・刷新し、実体経済とりわけ小型・零細企業の発展を引き続きしっかり支援する。

2021年は4方面の政策を重点的にしっかり行う。

(1)小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの猶予支援と小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスの支援計画を引き続き実施し、2つの手段の支援の程度を不変に維持する

包摂的な再貸出・再割引政策を引き続き運用し、金融機関が「三農」、小型・零細企業、民営企業等の分野への支援を強化するよう誘導する。

(2)商業銀行の中小・零細企業への金融サービス能力向上プロジェクトを引き続き展開し、商業銀行が「三農」、小型・零細企業、製造業への貸出を拡大することを支援する

小型・零細企業の信用リスク水準を、銀行が総合的に評価することを奨励し、担保への依存を引き下げる。

(3)民営企業の債券による資金調達支援手段の牽引作用を引き続き発揮させ、銀行が小型・零細企業特別金融債券を発行することを支援し、サプライチェーン手形と売掛金の使用権確認を普及させ、企業の債券発行による資金調達を促進する

市場を誘導し、更に多くのサプライチェーン金融商品の供給を推進し、産業チェーンの川上・川下小型・零細企業の資金調達を支援する。

(4)健全な農村金融サービスシステムを整備する

脱貧困堅塁攻略の成果を強固にして拡大することを、農村振興と有効にリンクさせるための金融サービスをしっかり行い、脱貧困地域の金融支援政策の総体としての安定を維持する。種業の発展等農業の重点分野への貸出を増やす。農業・農村の担保の範囲を拡大し、リスク評価メカニズムを最適化し、条件に合致した主体が株・債券等を通じて直接資金調達を行うことを支援する。

5.既存の変動金利貸出の金利決定基準の転換は、既に2020年に順調に完成し、最近人民元レートの動向もかなり多くの関心を引き起こしている。21年、金利・為替レートの市場化改革でどのような措置を打ち出すのか?
(1)金利

2021年、人民銀行は貸出プライムレートの貸出金利への伝達ルートを一層円滑化し、貸出プライムレート改革の深化を通じて、預金金利の段階的市場化を推進する。インターネットプラットホーム預金と遠隔地預金への管理を強化する。預金市場の秩序を擁護し、銀行の負債コストを安定させる。中央銀行の政策金利体系と短期金融市場の基準金利を一層健全化する。

(2)為替レート

2020年、人民元レートの弾力性が増強され、マクロ経済と国際収支の自動安定器としての役割をかなり好く発揮し、金融政策の自主性を高めた。

20年、人民元レートはある程度上昇したが、これは主として中国経済のファンダメンタルズを反映したものである。中国は率先して疫病をしっかりコントロールし、率先して業務・生産を再開し、率先してプラス成長を実現しており、ファンダメンタルズはその他の主要経済体よりも良好である。

同時に、人民元レートが強含みの動向を示していることは、米ドル指数の動向が弱いこととも関係している。

2021年は、引き続き人民元レートの形成における市場の決定的役割を発揮させ、金融資源の配分を最適化する。管理された変動為替レート制度を堅持する。予想の誘導を重視する。人民元レートの合理的均衡水準での基本的安定を実現する。

6.人民銀行は、今後どのようにして金融のハイレベルの開放を推進するのか?

金融業の開放は、新たな発展の枠組を構築するための必然的要求である。今後、参入前の国民待遇にネガティブリストを加えた管理制度を全面実施し、開放の理念を確実に転換し、システム化・制度化された開放を推進する。金融分野の各付帯制度を一層整備し、監督管理モデルと制度体系の国際一般ルールへのマッチングを促進する。金融業の開放、人民元レートの形成メカニズムの改革、人民元の国際化を統一的に推進する。

開放拡大後は、相応の金融監督管理がフォローしなければならない。ハイレベルの開放に適応した監督管理の枠組とリスク防止・コントロールシステムを構築しなければならない。監督管理の協調を強化し、監督管理の合成力を形成する。クロスボーダー資本流動のモニタリングを整備し、金融監督管理の専門性・有効性を高め、金融の安定をしっかり擁護する。

7.グリーン発展のサポート、関連目標の実現促進の方面で、金融業をどのように手配するのか?

炭素のピーク到達・カーボンニュートラルの目標を実現することは、産業構造・エネルギー構造・投資構造・生活方式等の各方面で、わが国に深刻な転換が発生することを意味する。炭素のピーク到達・カーボンニュートラルをしっかりサポートする戦略を手配することは、2021年及び今後一時期の金融政策の重点の一つである。

中国のグリーン金融の歩み出しはかなり早く、既に比較的良好な基礎がある。現在、中国のグリーン貸出残高は11兆元を超え、世界第一である。グリーン債券残高は1兆元余りであり、世界第二である。今後のカギは、グリーン金融政策の設計・計画をしっかり行い、金融支援によりグリーン発展の3大機能(資源配分・リスク管理・市場による価格決定)を発揮させることである。

グリーン金融システムの5大支柱を段階的に整備しなければならない。

①グリーン金融の健全な基準体系を整備し、統計・評価・監督等の活動をしっかり行う。

②金融機関の監督管理と情報開示の要求を整備し、社会に対して炭素排出情報を公開・開示する。

③政策によるインセンティブ・制約体系を構築し、炭素排出削減のための優遇貸出を増やし、グリーン資産のリスクウエイト等を科学的に設ける。

④グリーン金融商品と市場システムを不断に整備し、グリーン貸出・グリーン債券・グリーンファンド等の商品を発展させ、炭素市場を建設し、炭素先物を発展させる。

⑤グリーン金融の国際協力を強化し、グリーン金融基準は「国内を統一し、国際とマッチング」しなければならず、年内に「中欧グリーン金融共同分類目録」を完成するよう努力する。