経済諸会議の動向(3)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2021年1月14日


はじめに

中央経済工作会議終了後、各官庁は全国会議を開催し、政策各論を議論している。本稿では、1月4日にビデオ形式で開催された中国人民銀行工作会議の概要を紹介したい。

1.2020年の総括

2020年は、平凡ならざる一年であった。重大リスク・試練に対し、人民銀行系統組織は、習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、党中央・国務院の政策決定・手配を断固貫徹実施し、金融系統組織の統一指揮の下、困難に立ち向かい、主動的に成果を出し、穏健な金融政策を実施し、企業の安定による雇用保障を全力で支援し、重大金融リスク防止・解消堅塁攻略戦を引き続きしっかり戦い、金融の改革開放を一層深化させ、国務院金融安定発展委員会弁公室の職責を真剣に履行し、各政策はかなり好い成績を得た。

(1)穏健な金融政策を更に柔軟・適度にした

「総量政策を適度にし、資金調達コストを引き下げ、実体経済を支援する」3大政策方向を堅持し、サイクルを跨る設計をしっかり行った。

3回預金準備率を引き下げ、1.75兆元の長期流動性を提供した。累計で、9兆元余りの金融政策支措置を打ち出した。展望性をもって金利引下げを誘導し、金融システムの実体経への1.5兆元の利益移譲の目標の実現を推進した。

人民元レートの合理的な均衡水準での基本的安定を維持した。わが国は世界で率先してプラス成長を実現した主要経済体であり、正常な金融政策を実施する少数の主要経済体の一つでもある。

(2)企業を安定させて雇用を保障することへの金融支援は、予期した効果を得た

経済ルールを遵守し、レベルを分けて段階的に金融支援政策を制定した。

3000億元の疫病対策・供給保障特別再貸出、5000億元の業務・生産再開再貸出・再割引を設立し、1兆元の包摂的な再貸出・再割引制度を増やし、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの元本償還・利払い猶予と小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスの2つの実体経済に直接到達する金融政策手段を打ち出した。

精確な貧困支援、製造業、グリーン産業等への貸出支援を強化した。

(3)マクロプルーデンス政策の枠組を一層健全にした

要素が完備されたマクロプルーデンス政策の枠組を引き続き構築した。カウンターシクリカルな資本への衝撃緩和メカニズムを確立した。マクロプルーデンスのストレステストを段階的に実施し、システミックリスクのモニタリング・評価・事前警告システムを整備した。クロスボーダー資金流動への健全なマクロプルーデンス管理の枠組を確立した。システム上重要な金融機関と金融持株会社への統一監督管理は、重大な進展を得た。

(4)金融リスク堅塁攻略戦は重要な段階的成果を得た

市場化・法治化を動揺させないことを堅持し、情勢の変化に応じ、異なる段階の金融リスク処理の重点と優先順位を適時調整した。

2018年、インターネット金融・シャドーバンキング等の分野の金融の乱れた現象に集中的に対策を実施し、堅塁攻略戦に勝つための良好なスタートを切った。

2019年、銀行保険監督管理委員会と共に、法に基づき包商銀行を果断に引継・管理し、一部中小銀行のリスクを適切に処理した。

2020年、銀行保険監督管理委員会・証券監督管理委員会との協調を牽引して、「明天系」傘下の9つのコア金融機関を順調に引継・管理し、債券市場のデフォルトリスクに適切に対応した。

集中的な堅塁攻略を経て、システミック金融リスクの上昇の勢いは有効に歯止めがかかり、金融が実体経済から乖離しバーチャル経済に向かう盲目的な拡張を根本的に転換させた。

(5)国際金融協力を強化し、金融業のハイレベルな対外開放を秩序立てて拡大した

疫病下の国際マクロ政策の協調を強化し、主動的に国際組織と主要中央銀行に疫病動態・防止措置を通報し、疫病対策の経験をシェアし、多国間の疫病防止・救済・治療に積極的に参加した。

G20債務緩和イニシアティブに全面参加し、関係国の債務緩和申請を全面実施し、IMFによるSDRの普遍的分配の展開を推進し、低所得国の疫病の衝撃への対応を支援した。

RCEPに関連する金融業の交渉に全面参加し、新たな金融サービス・金融情報移転をFTAのルールに初めて組み入れた。国際グリーン金融協力を引き続き主動的に推進した。

(6)金融改革は新たな進展を得た

国務院金融安定発展委員会弁公室の地方協調メカニズムを全面的に確立した。2つの26条金融改革開放措置を打ち出し推進した。人民元の国際化は新たな段階に上った。外為分野の改革開放を深く推進した。外貨準備の経営管理を不断に整備し、準備の規模は安定を維持した。

社債のデフォルト処理と情報公開ルールを段階的に統一し、債券市場インフラの相互直結を引き続き推進し、外資が保有する中国債券の総規模は3兆元に達した。預金保険会社と預金保険機関の機能をしっかり果たした。開発性・政策性金融業務の分類管理を持続的に推進した。資産管理業務の過渡期の整理・改善を積極的に推進した。

(7)金融サービスと管理は新たなライトスポットを示した

疫病防御の需要に基づき、金融サービス「グリーン優先レーン」を適時開通した。金融業の重要立法の職責を統一し有効に履行した。金融業の総合統計を一層深化させた。地域金融改革テストを深く推進した。

支払決済の監督管理とサービス水準を一層向上させた。世界取引主体識別コード(LEI)の国内でコードをもつ機関は3万社を突破した。人民元現金管理とデジタル人民元のテストを着実に推進した。国庫サービスの質が引き続き向上した。

信用情報収集システム計画が総体として完成した。マネーロンダリングの監督管理が積極的成果を得た。消費者の金融情報の安全を侵害する行為を引き続き取り締まった。参事の建言・献策の質・効率が高まった。

(8)内部管理を引き続き整備した

人民銀行系統組織自身の疫病防止・コントロールを統一的にしっかり行った。支分機関の管理体制改革を推進した。内部の会計検査・監督管理、後方勤務、安全保衛、集中調達、離退職幹部へのサポート等の水準が不断に上昇した1

2.2021年の金融政策

当面の経済・金融情勢を深く分析する基礎の上に、2021年、人民銀行系統組織は、習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとして、党19期5中全会と中央経済工作会議精神を全面貫徹し、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、新たな発展段階に立脚し、新発展理念を貫徹しなければならない。質の高い発展を推進することをテーマとし、サプライサイド構造改革の深化を主線とし、改革・イノベーションを根本動力とし、人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要を満足させることを根本目的としなければならない。「穏」(穏健・安定)の字を筆頭に置き、重点にしっかり取り組み、最低ラインをしっかり守り、大胆に責任を担い、国務院金融安定発展委員会弁公室の職責を真剣に履行し、現代中央銀行制度を建設し、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)政策を引き続きしっかり行い、新たな発展の枠組を早急に構築するために、有力・有効な金融支援を提供しなければならない。

(1)穏健な金融政策は柔軟・精確、合理的・適度でなければならない

マネーサプライのコントロールメカニズムを整備し、M2・社会資金調達規模を名目成長率と基本的に釣り合うよう維持する。市場化した健全な金利形成・伝達メカニズムを整備し、貸出プライムレート改革を深化させ、預金金利の市場化を牽引する。

人民元レートの市場化改革を深化させ、マクロプルーデンス管理を強化し、市場の予想を誘導し、人民元レートの合理的均衡水準での基本的安定を維持する。

(2)構造的金融政策手段と貸出政策の精確な点滴灌漑作用を引き続き好く発揮させる

小型・零細企業等の実体経済を金融が有効に支援する体制メカニズムを整備する。小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの元本償還・利払い猶予と小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスの2つの実体経済に直接到達する金融政策手段を引き続き実施する。

包摂的な再貸出・再割引政策を引き続き運用し、金融機関が「三農」、科学技術イノベーション、小型・零細企業、民営企業等国民経済の重点分野と脆弱部分への支援を強化するよう誘導し、小型・零細企業への金融支援の合成力の発揮を牽引する。脱貧困堅塁攻略と農村振興への金融サービスの有効なリンクをしっかり行う。

(3)炭素のピーク到達・カーボンニュートラルの政策決定・手配を実施する

グリーン金融政策の枠組とインセンティブメカニズムを整備する。政策の設計・計画をしっかり行い、金融資源のグリーン発展分野への傾斜を誘導し、気候変動に関連するリスクへの金融システムの管理能力を増強し、炭素排出の合理的価格決定のために炭素排出権取引市場の建設を推進する。

グリーン金融の健全な基準体系を段階的に整備し、金融機関への監督管理と情報開示要求を明確にし、政策によるインセンティブ・制約システムを確立し、グリーン金融商品と市場システムを整備し、グリーン金融の国際協力を引き続き推進する。

(4)マクロプルーデンス政策の枠組の整備を加速し、金融活動・金融機関・金融市場・金融インフラをマクロプルーデンス管理に組み入れる

システミック金融リスクのモニタリング・評価を強化し、マクロプルーデンス・ストレステストのシステムの確立を段階的に推進し、クロスボーダー資本流動等の重点分野の健全なマクロプルーデンス管理の枠組の確立を加速する。金融持株会社の監督管理の制度体系を整備する。

(5)金融リスクを引き続き防止・解消する

リスクの洗い出しを強化し、リスク対応をしっかり行う。リスクの防止・処理の長期有効なメカニズムを整備する。金融機関と株主の主体責任、地方政府の管轄地責任、金融監督管理部門の監督管理責任と最後の貸し手としての責任を徹底する。預金保険制度の建設と機関の設置を整備する。

インターネットプラットフォーム会社の金融活動へのプルーデンス管理を強化する。「反独占の強化と資本の無秩序な拡張の防止、金融の発展と金融の安全の統一」に関する党中央・国務院の政策決定・手配を断固実施し、監督管理の不足部分を早急に補充する。支払決済分野の監督管理を強化し、個人情報収集業務は看板を掲げて経営しなければならず、金融商品の過度な販売、過度な負債の誘導を厳禁し、金融消費者の合法な権益を侵害する法律・法規に反した行為を厳粛に調査・処分する。プルーデンス監督管理の前提下における金融イノベーションの発展を確保し、包摂的な金融サービスの質・競争力を安定の中で高める。

(6)グローバル金融ガバナンスに深く参加し、外部金融リスクを厳密に防御し、金融の双方向の開放を着実に拡大する

低所得国家の債務問題に適切に対応する。金融業のハイレベルの開放を一層拡大し、参入前国民待遇にネガティブリストを加えた管理制度の全面実施を推進する。グローバル金融ガバナンスに深く参加し、多国間主義を確実に擁護する。

(7)人民元の国際化を穏当かつ慎重に推進する

実体経済へのサービスに着眼し、勢いに乗じて成果を出し、貿易・投資の円滑化を促進する。人民元使用に関連する政策・制度を整備する。金融市場の質の高い双方向の開放を引き続き推進する。人民元・外貨、オフショア・中国大陸市場の良性の協調発展を促進する。

(8)金融市場・金融機関改革を深化させる

債券市場発展計画の制定を牽引し、債券市場の法制整備を推進し、インフラの相互連結を促進する。多くのルートの債券デフォルトの健全な処理メカニズムを整備する。債券市場の統一した法執行の枠組の整備を推進し、債券市場の債務逃れ・踏倒し、詐欺による発行など法律・法規に反した行為への調査・処分を強化する。

不動産の長期有効なメカニズムを実施し、不動産金融のプルーデンス管理制度を実施し、住宅賃貸政策体系への金融支援を整備する。

大型銀行がサービスの重心を下方に移し、中小銀行がコーポレートガバナンス整備を推進し、主たる職責・本業に焦点を絞るよう誘導する。

(9)外為管理・サービス引き続き改善する

資本項目の開放を適切・秩序立てて推進する。企業が外貨デリバティブを合理的・慎重・周到に運用して為替レートリスクを管理することを支援する。外為市場の「マクロプルーデンス+ミクロ監督管理」の一体化した管理の枠組の整備を加速する。一切容認しない態度をもって、外為分野の法律・法規に反した行為を厳しく取り締まる。外貨準備の経営管理を集約的に高い効率でしっかり行い、外貨準備の規模の基本的安定を擁護する。

(10)金融サービス・管理水準を高める

金融法治体系の建設を統一的に推進する。中央銀行の研究活動の影響力を一層高める。第14次5カ年計画「要綱」の金融重点内容と金融業の第14次5カ年計画の研究編成活動を着実にしっかり行う。金融業の総合統計を着実に推進する。現代中央銀行の財務制度を整備する。

支払決済業種のガバナンスの現代化を深く推進する。フィンテックの応用・管理水準を高める。デジタル人民元のテストを穏当に展開する。国庫の質の高い発展を推進する。デジタル金融と経済ガバナンスにおける情報収集の応用を深化させる。反マネーロンダリングの調査・モニタリングの効率を高める。内部管理の規範性と有効性を一層高める2

(参考) 人民銀行貨幣政策執行委員会2020年第4四半期例会(2020年12月25日)

2020年に入り、疫病防御と経済社会発展政策の統一は重大な成果を得て、経済運営は徐々に常態を回復した。

穏健な金融政策は展望性・精確性・一定期間の有効性を体現し、疫病防御、業務・生産の再開、実体経済の発展を大いに支援し、金融リスクは有効に防止・コントロールされ、実体経済への金融サービスの質・効率が徐々に高まった。

既存の変動貸出金利決定基準の転換は順調に達成され、貸出プライムレート改革のボーナス効果が引き続き発揮され、マネーの伝達効率が増強され、貸出金利が顕著に低下し、人民元レートは総体として安定し、双方向への変動の弾力性が増強され、マクロ経済の安定器としての機能を発揮した。

現在、国外の疫病と世界経済情勢は依然として複雑・峻厳であり、国内経済の内生的動力は増強されているが、疫病などの不安的・不確定要因の衝撃に直面してもおり、経済情勢の検討・判断・分析を強化し、国際マクロ経済政策の協調を強化し、精力を集中して自身の事柄にしっかり取り組み、サイクルを跨ぐ政策設計をしっかり行い、経済の質の高い発展を支援しなければならない。

穏健な金融政策を柔軟・精確、合理的・適度にし、金融政策の連続性・安定性・持続可能性を維持し、政策のタイミング・程度・効果をしっかり把握し、経済の回復に必要な支援の程度を維持する。

多様な金融政策手段を総合的に運用・刷新し、流動性の合理的充足を維持し、マネーサプライと社会資金調達規模の伸びを名目成長率と基本的に釣り合わせ、マクロレバレッジ率の基本的安定を維持する。

再貸出・再割引と実体経済に直接到達する金融政策手段の牽引作用を一層発揮させ、科学技術イノベーション、小型・零細企業、グリーン発展への金融支援を増やし、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの元本償還・利払い猶予政策と無担保貸出支援計画を継続する。

金融サプライサイド構造改革を深化させ、大銀行がサービスの重心を下方に移転し、中小銀行が主たる職責・本業に焦点を絞るよう誘導し、金融市場の活力・強靭性を増強し、高度な適応性・競争力・包摂性を備えた健全な現代金融システムを整備する。

マネー伝達の多様に塞がったポイントの打開に力を入れ、貸出金利の低下を促進する改革の潜在力を引き続き発揮させ、貸出実質金利水準引下げの成果を強固にし、企業の総合資金調達コストの安定の中での低下を促進する。

実体経済を金融が有効に支援する体制メカニズムを構築し、イノベーションへの金融支援体系を整備し、イノベーションチェーン・サプライチェーンを軸に資金チェーンを作り上げ、金融・科学技術・産業の良性循環と三角形の相互作用を形成し、金融機関が製造業向け中長期貸出を増やすよう誘導し、民営企業への金融支援を経済社会の発展への民営企業の貢献に適応させるよう努力し、炭素ピーク到達・カーボンニュートラルの実現促進を目標としてグリーン金融システムを整備する。

イノベーション駆動・質の高い供給により新たな需要をリード・創造し、国内大循環を主体とし、国内・国際の2つの循環が相互促進する新たな発展の枠組の構築を促進する。

金融のハイレベル・双方向の開放を推進し、開放の条件下、経済・金融の管理能力とリスク防止・コントロール能力を高める。

習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、党19期5中全会と中央経済工作会議精神を真剣に貫徹実施し、党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持しなければならない。「穏」(穏健・安定)の字を頭に置き、急転換を行わず、新たな発展段階に立脚し、新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築しなければならない。質の高い発展推進をテーマとし、サプライサイド構造改革を主線とし、内需拡大戦略を堅持し、疫病防御と経済社会発展の成果を強固にして拡大しなければならない。「6つの安定」政策を着実にしっかり実施し、「6つの保障」任務を全面実施し、質の高い発展により第14次5カ年計画を良好にスタートしなければならない。

金利・為替レートの市場化改革を深化させ、市場による健全な金利形成・伝達メカニズムを整備し、企業と金融機関が「リスク中立性」の理念を堅持するよう誘導し、市場の予想を安定させ、人民元レートの合理的水準での基本的安定を維持する。

経済回復とリスク防止の関係をしっかり処理し、システミック金融リスクを発生させない最低ラインをしっかり守る。

  1. このあと金融政策に対する党の集中・統一的な指導の成果が紹介されているが、政治的スローガンが中心であるので省略する。
  2. 以降は、党内統治・政治建設に関する事項となるので、省略する。