新型肺炎とマクロ政策(59)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年11月26日


はじめに

本稿では、11月18日の国務院常務会議、20日の一部地方政府責任者ビデオ座談会、24日の1+6円卓対話会の概要を紹介する。

11月18日 国務院常務会議
(1)RCEP(東アジア地域包括的経済連携協定)実施のための国内関連政策

ハイレベルの制度型開放を深く推進しなければならない。

直前に締結されたRCEPは、アジア太平洋地域の国家が多国間主義と自由貿易を擁護する共同の意欲を体現している。この世界最大の自由貿易地域は、産業チェーン・サプライチェーンの安定、関係国家の人民の幸福に資するものである。

関係部門は、協定が確定したスケジュール表に基づき実施を加速し、改革深化にしっかり取り組み、協定実施推進のための国内関連政策をしっかり実施し、できるだけ早く約束を実現し、相互の開放拡大の中で互恵・ウインウインを実現しなければならない。

(2)消費振興

消費は、経済成長の主たるエンジンである。今年の消費は疫病の深刻な衝撃に遭遇し、正常な伸びの回復は少なからぬ困難がある。

党中央・国務院の手配に基づき、内需拡大戦略を断固実施し、一層大口消費・重点消費を促進し、農村の消費潜在力を更に大きく解き放たなければならない。

①自動車消費を安定・拡大しなければならない。

各地方が購入制限措置を調整・最適化し、ナンバープレートの発給を増やすことを奨励する。新たな自動車の農村普及・新旧交換を展開し、条件の整った地区で農村住民が3.5トン以下のトラック、1.6リットル以下の排気量の乗用車を購入し、個人が国の排ガス基準3以下の自動車を廃棄し新車を購入する場合には、補助を与えることを奨励する。駐車場・充電スタンドなどの施設建設を強化する。

②家電・家具・家の内装消費を促進しなければならない。

条件の整った地区で旧い家電・家具を廃棄し、グリーン・スマート家電、環境保護家具を購入する場合には、補助を与えることを奨励する。

③レストラン消費を振興しなければならない。

レストラン企業がメニューを豊富にし、向上させ、オンライン・オフラインの経営モデルを刷新することを奨励する。レストランのサービス基準を整備し、市場化の方式により質の優れた特色ある飲食の紹介・推薦を支援する。

④県域・郷鎮消費の拡大を掴みどころとして、農村消費を牽引しなければならない。

県域・郷鎮の商業施設と農村の物流拠点の建設を強化する。農村に立脚して、農民の身近な生活関連消費サービス総合施設の建設を支援する。法に基づき、偽物・劣悪品の製造販売を取り締まり、農村の消費環境を最適化する。

(3)「インターネット+観光」の発展支援

観光消費の潜在力は巨大である。常態化した疫病防御の下、観光業の健全な発展を促進するため、「インターネット+観光」の発展を支援する措置を確定した。

①スマート観光地の建設、電子地図・音声ガイド等のサービスの普及、特色ある観光地のデジタル展示館の建設等を支援し、道路・観光地のトイレ等のデジタル化を推進する。

②観光地のオンライン販売強化を奨励し、クラウド観光等の新業態の発展を誘導し、「インターネット+観光民宿」を規範的に発展させる措置を打ち出す。老人等特殊な人々のためにオフラインサービスを保留する。

③包摂的で慎重・周到な監督管理を整備し、観光の安全性のモニタリングとオンラインでの苦情処理を強化し、不正を取り締まる。

11月20日 一部地方政府責任者ビデオ座談会

李克強総理が主催し、座談会には、黒竜江省・山東省・湖南省・広東省・雲南省の政府責任者が出席した。李克強総理の発言の概要は、以下のとおりである(新華社北京電2020年11月22日)。

今年、巨大な試練に対して、習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、疫病防御は重大な戦略的成果を得て、経済はかなり速くプラス成長への回復を実現した。これは、上下が心を一つにして協力し、困難な時局を共に克服した結果である。国家のマクロ政策はタイムリー・果断で、有効・合理的であり、適度な政策の程度により予想を超える成果を得た。

各地方は、政策執行の中で主動的に力を加え、1億余りの市場主体に力を与え、強い強靭性を示した。同時に、経済の安定・回復を推進し、合理的区間に戻るには、なお非常に困難な努力を払う必要がある。

習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、党19期5中全会精神を貫徹し、新発展理念の実施・質の高い発展の推進・新たな発展の枠組の構築の要求を、経済社会発展の各方面の政策の中に貫徹し、中央・地方と各方面の積極性を更に好く発揮し、今年の発展の主要目標・任務の達成を確保し、経済の持続的で平穏な発展と民生の不断の改善を促進しなければならない。

当面の内外情勢は依然複雑・峻厳であり、大きな不確定性が存在することを十分認識し、実際に基づいて方法を考え、長期・短期を併せ考慮して今後の発展を計画し、政策の連続性・有効性・持続可能性を維持しなければならない。

合理的に政策の程度を把握し、政策手段を選択して、模索して得た経験は引き続き堅持し、今年行った有効な直接交付メカニズム等の改革措置で、堅持すべきものは堅持しなければならない。政策の注力点を引き続き、市場主体・基本民生に向け、資金を要の部分に用いなければならない。

雇用の安定・内需拡大に力を入れる。雇用・所得があってこそ、消費がある。雇用優先政策を強化し、更に多くの就業ポストを創造しなければならない。隘路を打開し、消費の正常な成長への回復を促進し、不足部分の補充を強化して様々なレベルの消費需要を更に好く満足させなければならない。

政府資金による誘導を強化し、社会(民間)投資の参加を奨励し、有効な投資を拡大する。

政府は、倹約を堅持し、市場主体の需要と情勢変化に応じて、適時政策を最適化し、市場の予測を安定させる。各地方は、現地の事情に応じて的確な措置を打ち出し、市場主体の困難解決を援助し、民生福祉を増進しなければならない。

改革開放を堅持し、市場主体の活力と社会の創造力を更に大きく奮い立たせなければならない。億を上回る市場主体は、成長の安定・雇用の保障の基礎である。人民大衆には勤労・知恵があり、多くの改革措置を打ち出して難題を解決し、「行政の簡素化・権限の委譲、開放と管理の結合、サービスの最適化」改革を深化させ、市場化・法治化・国際化したビジネス環境を作り上げなければならない。

各地方も実際から出発し、不合理な利益構造を大胆に打破し、更に多くの改革措置を引き続き推進し、更に大きく活力を奮い立たせ動力を増し、市場主体の活躍度を高め新たな市場主体を生み出すために、更に優れた環境を創造し、大衆の知恵・パワーを更に好く凝集し、発展の新動力エネルギーを育成しなければならない。

ハイレベルの対外開放を推進し、対外貿易・外資を安定させる政策を引き続きしっかり実施し、産業チェーン・サプライチェーンを安定させなければならない。RCEP達成の契機をしっかり掴み、関連規則と円滑化措置をうまく用いて、国際協力の新たな余地を積極的に開拓しなければならない。

なお、中国政府網2020年11月23日は、上記以外の李克強総理の発言を伝えている。 「今年の未曾有の疫病の衝撃に対応し、我々はタイムリーに組み合わせた政策を打ち出した。程度は合理的で、規模は適度であり、『バラマキ』は行わなかった。実践は、政策の実施が予想より好かったことを証明している」。

11月24日 1+6円卓対話会

李克強総理は、世界銀行・IMF・WTO・ILO・OECD・金融安定理事会(FSB)のトップと円卓対話会を開催した。

(1)李克強総理の発言の概要

新型コロナ肺炎疫病の深刻な衝撃に対して、我々は疫病防御と経済社会の発展を統一し、雇用と経済基盤をしっかり安定させた。中国経済は年間でプラス成長を実現できるが、これは十分容易ではない。

中国経済が安定し回復できるのは、我々が市場主体の保障を軸に、一連の企業の困難緩和を助ける政策を実施したことによるものである。市場主体をしっかり保障してこそ雇用をしっかり保障でき、雇用があってこそ所得・消費があり、経済成長を推進できるのである。

我々は市場化の手段を採用することを重視し、政策資源を集中して直接市場主体に対応し、とりわけ中小・零細企業と個人工商事業者の難関克服を援助した。減税・費用引下げを強化し、直接市・県・末端に交付し、直接企業・人民に恩恵を及ぼすメカニズムを確立し、マクロ政策の一定期間の有効性を高めた。

金融政策のカウンターシクリカルな調節を強化し、実体企業に直接到達する金融政策手段を刷新して打ち出した。雇用優先政策を全面強化し、市場化方式により雇用を安定・拡大することを重視した。

中国経済が安定し回復できるのは、我々が改革開放を並行して推進し、市場主体の活力と発展の内生動力を奮い立たせたことによるものでもある。「行政の簡素化・権限の委譲、開放と管理の結合、サービスの最適化」改革を深化させ、ビジネス環境を最適化し、大衆による起業・万人よるイノベーションが勢い盛んに発展し、現在1日当たり新設の市場主体の数は既に昨年を超えている。

疫病の衝撃を前にして、億を上回る市場主体と人民大衆が示した堅固な強靭性は、中国の経済基盤の最も有力な支えであり、我々が困難・試練に対応する最大の拠り所でもある。

中国経済が安定し回復できるのは、さらに我々の膨大な内需市場によるものである。中国は大国経済であり、最大の優位性は巨大な国内市場があることである。

今年打ち出した企業の困難緩和援助政策は、ある意味で、消費促進に有利な政策であり、とりわけ雇用を保障することで消費を有力に促進できるものである。

我々は故意に黒字を追求してはいないが、輸出と輸入を併せ重んじることを堅持し、質の優れた製品・サービスの輸入を積極的に拡大し、産業と消費のグレードアップの需要を更に好く満足させている。

第14次5カ年計画期間、我々は精力を集中して発展に取り組み、自身の事柄にしっかり取り組み、引き続きマクロ・コントロールを刷新・整備し、政策の連続性・有効性・持続可能性を維持する。改革・イノベーションを根本動力として、市場化・法治化・国際化したビジネス環境を早急に作り上げる。

我々は、新たな発展の枠組を構築し、内需拡大と対外開放を併進・相互促進し、強大な国内市場を建設し、国内大循環を円滑にし、更にハイレベルの対外開放を推進し、知的財産権の保護を強化し、内資・外資企業の公平な競争を奨励し、更に多くの外資を中国に吸収し、また中国企業を世界に進出させ、更に大きな互恵・ウインウインを実現する。

試練に対して、国際社会は団結・協力し、手を携えて対応しなければならない。経済のグローバル化の大勢は逆転できず、開放・協力はなお時代の潮流であり、各国は多国間主義と自由貿易を擁護し、国際経済のガバナンスシステムの整備を推進しなければならない。

中国はRCEP締結達成を歓迎し、各方面と同じ舟にのって助け合い、手を携えて開放型世界経済を推進したいと願っている。

(2)国際経済機関責任者の見解

中国が新型コロナ肺炎疫病対策で顕著な成果を得たことを積極評価する。現在、中国は、積極的に業務・生産を回復し、経済が強靭に回復しており、今年世界の主要経済体で唯一プラス成長を実現できる国家である。中国経済の成長は、世界経済の回復のために支援を提供しており、世界の疫病に打ち勝つ自信を奮い立たせている。

 第14次5カ年計画「建議」が、中国の将来発展の青写真を設定し、人を根本とする政策方向を採用していることは、改革の深化・開放の拡大を通じて、更にグリーン・持続可能な経済成長を実現することに資するものである。

中国が脱貧困堅塁攻略、気候変動対応、貿易・投資の自由化・円滑化促進等の方面で、積極的な貢献を行っていることを、積極評価する。疫病・経済のダブルの試練に対して、世界各国はマクロ経済政策協調を強化し、手を携えてポストコロナ時代の世界経済の回復を推進しなければならない。中国との関係・協力を高度に重視しており、金融・雇用・貧困削減・債務猶予等の分野で一層協力を深化させ、多国間主義を共同で支援し、世界の発展・繁栄を促進することを望む。