新型肺炎とマクロ政策(55)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年10月20日


はじめに

本稿では、10月14日のG20財務大臣・中央銀行総裁会議における財政部長・人民銀行行長の発言、15日の「全国大衆起業・万人イノベーション活動ウイーク」における李克強総理の重要講話、16日の党中央政治局会議、17日の国家貧困支援デーにおける習近平総書記・李克強総理の指示の概要を紹介する。

10月14日 G20財務大臣・中央銀行総裁会議
(1)劉昆財政部長の発言

新型コロナ肺炎疫病はなお世界に蔓延しており、世界経済の回復にはアンバランス・不確定性が存在し、下振れリスクがかなり際立っている。

中国は、G20が更新を承認した「G20アクションプラン」を支持する。経済のデジタル化に対応する課税というチャレンジングな施策で顕著な進展をみたことを歓迎し、引き続き開放的な態度で、各方面が受け容れる多国間のコンセンサスによる解決案の実現のために努力したいと願っている。

G20は、国際マクロ経済政策協調のプラットホームとして、政治によるリードと原則による指導に着眼しなければならず、債務処理技術の細部にまで過度に関わるべきではない1

多国間の開発銀行は、財務の健全性を保障する前提の下、債務処理に積極的に参加し、低所得国の債務の脆弱性に対応するためパワーを貢献しなければならない。

疫病発生以来、中国政府は疫病防御と経済社会発展を統一し、経済は着実に回復しており、主要指標は伸びの回復を示している。

中国政府は、引き続き改革開放を深化させ、財政の機能・役割を積極的に発揮し、国内・国際2つの循環が相互促進する新たな発展の枠組の形成を推進し、年間の経済社会発展の目標・任務の達成に努力する。

(2)易綱人民銀行行長の発言

中国経済が有力に回復していることは、主として中国が疫病を有効に防止・コントロールすると同時に、一連のマクロ刺激政策を打ち出したことによって得たものである。

人民銀行は、数量・金利・構造手段を総合的に運用し、中小・零細企業支援を特に重視して、経済の回復のために有力な支援を提供した。

同時に、人民銀行は、潜在金融リスクを積極的に防止・解消する。

当面の情勢下、G20は引き続き多国間主義を堅持し、政策協調を強化しなければならない。各方面は、引き続きSDRの普遍的な分配を推進し、IMFが第16回シェア検証を早急に推進することを支援し、新型コロナ肺炎疫病がもたらす衝撃への新興市場と発展途上国の対応を、更に好く支援しなければならない。

10月15日 「全国大衆起業・万人イノベーション活動ウイーク」スタート

李克強総理が人民大会堂で行った重要講話の概要は、以下のとおりである。

「近年、錯綜し複雑な内外情勢に対して、習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、我々は引き続き改革開放を深化させ、イノベーション駆動による発展戦略を深く実施し、『大衆による起業・万人によるイノベーション』を広範に展開し、顕著な成果を収めた。『大衆による起業・万人によるイノベーション』は、多くの広範な市場主体を生み出し、大量の雇用ポストを創造した。

今年は、疫病と世界経済の衰退の衝撃の下、わが国経済は基盤をしっかり安定させ、成長の回復をかなり速く実現し、億を上回る市場主体の強大な強靭性が基礎的な支えの役割を発揮した。

ここ数カ月、新たに増えた市場主体・初めて創設された企業が大幅に増え、雇用を有力に支えており、その中で『大衆による起業・万人によるイノベーション』は重要な役割を発揮している。

『大衆による起業・万人によるイノベーション』は、持続的で有力な新動力エネルギーを育成し、中小・零細企業は勢い盛んに発展し、多くの大企業が『大衆による起業・万人によるイノベーション』を通じて各方面の資源を集め、急速にグレードアップしている。

『大衆による起業・万人によるイノベーション』は、新しいものを打ち建てることにより旧いものの除去を推進し、『行政の簡素化・権限の委譲、管理と開放の結合、サービスの最適化』改革を促進し、イノベーションの効率と能力を高めるための重要な掴みどころとなっている。

当面、わが国の発展は、複雑・峻厳な環境に直面しているのみならず、強大な強靭性と潜在力を備えてもいる。自信を確固として発展させ、困難・試練を正視し、発展という第一の重要任務に断固しっかり取り組み、改革を推進し、開放を拡大し、発展の動力を増強しなければならない。「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)政策をしっかり実施し、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障する)任務を実施し、質の高い発展を推進し、国内大循環を主体とし、国内・国際2つの循環が相互促進する新たな発展の枠組を構築しなければならない。

今後、経済成長の安定・回復の態勢を強固にし、年間のプラス成長を実現するには、なお億を上回る市場主体をしっかり保障する基礎の上に、彼らを一層活躍させなければならない。このようにしてこそ成長の支えができるのである。この方面で、『大衆による起業・万人によるイノベーション』は、独特で重要な役割を発揮できる。

大規模な困難緩和政策をしっかり実施し、広範な中小・零細企業、個人工商事業者、『大衆による起業・万人によるイノベーション』の主体への援助を増やさなければならない。

大企業は優位性を発揮して、更に多くの『大衆による起業・万人によるイノベーション』のプラットホームを構築し、中小・零細企業、メイカーと助け合ってイノベーションを進め、『大衆による起業・万人によるイノベーション』の質・効率を高めなければならない。

『行政の簡素化・権限の委譲、管理と開放の結合、サービスの最適化』改革を深化させ、市場化・法治化・国際化したビジネス環境を作り上げ、引き続き開放水準を高め、中国資本・外資企業を同等と見なし、中国を常に世界の起業・イノベーションの沃土としなければならない。

起業・イノベーションは、国家が未来を勝ち取るための基礎・カギである。『大衆による起業・万人によるイノベーション』は、大衆によって厚みと勢いを増し、イノベーションによって蛹が蝶に成長する。

毎回の起業を心から支援し、毎回のイノベーションを心から保護することにより、格闘の中で更に多くの創意を成果に結びつけ、奮闘から更に多くのメイカーの人生に精彩を与え、ますます多くの人びとが大胆に起業し、うまくイノベーションを進めるよう激励しなければならない。

各地方・各部門は、習近平『新時代の中国の特色ある社会主義』思想を導きとし、党中央・国務院の政策決定・手配を真剣に貫徹し、イノベーションによる駆動を強化し、発展の持続力を増強して、経済の長期安定を推進しなければならない」。

10月16日 党中央政治局会議

「成都・重慶地域2大都市経済圏建設計画要綱」を審議した。会議の概要は、以下のとおりである。

現在、わが国発展の内外環境は、引き続き深刻・複雑な変化が発生しており、成都・重慶地域2大都市経済圏建設を推進することは、優位性を相互補完し、発展の質が高い地域経済構造を形成するのに有益であり、市場の空間を開拓し、産業チェーン・サプライチェーンの最適化・安定に有益であり、国内大循環を主体とし、国内・国際2つの循環が相互促進する新たな発展の枠組を構築するための重大措置である。

党中央・国務院の政策決定・手配を全面的に貫徹し、重慶・成都の2つの中心都市の協同による牽引を際立たせ、地域の優位性と特色を体現させることを重視し、成都・重慶地域を全国への影響力を備えた重要な経済センター・科学技術イノベーションセンター・改革開放の新高地・質の高い生活居住地として、全国の質の高い発展を牽引する、重要な成長の極・新たな動力源を作り上げなければならない。

成都・重慶地域は、一体化した思想・発展理念を牢固に樹立し、健全な協力メカニズムを整備し、地域協力のハイレベルな模範を作り上げなければならない。「双都市」の名を掲げ、手を携えて内陸の改革開放の高地を作り上げ、ハイレベルの市場システムを共同で建設し、一流のビジネス環境を作り上げ、「一帯一路」共同建設をリード役とし、西部陸海新ルートをしっかり建設し、国内・国際2つの循環に積極的に参加しなければならない。

生態環境保護にたゆまずしっかり取り組むことを堅持し、生態優先・グリーン発展の新たな道を歩み、人と自然の調和・共生を推進しなければならない。

中心と地域の関係をうまく処理し、重慶と成都の発展エネルギーレベルと総合競争力の向上に力を入れ、都市の発展の外延への拡張から内部の向上への転換を推進し、点により面を牽引し、バランスのとれた発展を図り、周辺市県と発展が一体化した都市圏を形成しなければならない。

10月17日 国家貧困支援デーにおける習近平総書記・李克強総理の指示
(1)習近平総書記の重要指示

2020年は、小康社会の全面実現決勝・脱貧困堅塁攻略決戦の年である。

新型コロナ肺炎疫病と深刻な洪水・冠水災害の試練に対して、断固期限通りに脱貧困堅塁攻略目標を達成するという、党中央の決意に揺るぎはなく、全党・全社会は力と心を一つにして実務に励み、貧困地域の広範な幹部・大衆は頑強に奮闘して堅塁を攻略・難関を克服し、脱貧困堅塁攻略は決定的成果を得た。

現在、脱貧困堅塁攻略は最後の段階に達し、各レベル党委員会と政府は、堅塁攻略の態勢を維持し、最初から最後までうまく成し遂げ、全面勝利を得るまでは兵を収めてはならない。

各地方・各部門は、脱貧困堅塁攻略の経験を総括し、脱貧困堅塁攻略体制メカニズムの役割を発揮し、脱貧困堅塁攻略の成果の定着・発展と、農村振興との有効なリンクを引き続き推進しなければならない。

貧困地域の貧困人口の内生的動力を奮い立たせ、労働能力のある低所得人口が勤労により富裕に至ることを奨励し、人民全体の共同富裕を段階的に実現する目標に向けて、引き続き前進しなければならない。

(2)李克強総理の指示

各地方・各部門は、習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、党中央・国務院の政策決定・手配を真剣に貫徹し、現行の支援政策の総体としての安定を維持し、貧困の深い堡塁の攻略を幟を立てて督戦し、特色ある産業の発展促進により大衆の所得増加を牽引し、転地による貧困支援の後続支援を強化し、貧困労働力の雇用をしっかり安定させ、「貧困に戻り、貧困に陥る」リスクのある人口に対して、前もって的確な支援を強化し、脱貧困堅塁攻略の目標・任務の高い質で期日通りの達成を確保しなければならない。

脱貧困堅塁攻略の実施と農村振興戦略の実施を有機的にリンクさせ、持続的な努力を通じて、貧困の指定を脱却した地域の農村全面振興を推進し、人民大衆の福祉増進、経済社会の持続的で健全な発展の促進のために、更に大きな貢献を行わなければならない。

  1. 中国が、低所得国への債務償還猶予の実施対象機関に中国国家開発銀行を「民間」という理由で加えていないことに対して、G7諸国から批判が出ていることを意識したものと思われる