新型肺炎とマクロ政策(50)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年9月24日


はじめに

本稿では、9月17日の国務院常務会議、基層(末端)代表座談会における習近平総書記の重要講話、22日の国連総会一般討論における習近平国家主席の演説の概要を紹介する。

9月17日 国務院常務会議
(1)省を跨ぐ事務処理

企業の発展・大衆の生活と密接に関係する頻度の高い事項の省を跨ぐ処理を推進することは、「行政の簡素化・権限委譲、管理と開放の結合、サービスの最適化」改革を深化させ、ビジネス環境を最適化するための重要措置であり、各種(生産)要素の自由な流動、全国統一の大市場の確立に資するものである。

現行のオフライン下の行政サービスをオンライン処理に転換し、省内処理にしっかり取り組むと同時に、年末前に、市場主体の登記、年金保険関係の移転・接続、職業資格証書の審査、学歴公証、運転免許の公証等58項目の事項の他の地での処理を実現し、来年末前に工業製品の生産許可証、健康保険の費用清算届、社会保険カード申請、戸籍移転等の74項目の事項の他の地での処理を実現する。

今後、さらに新生児の入籍、社会保険加入・保険料徴収照会等の省を跨ぐ処理を早急に実現する。オンライン処理方式を最適化し、省を跨ぐ一貫事務処理を迅速・簡単に操作できるようにしなければならない。同時に、少数者のオフライン処理の需要を保障しなければならない。データの安全と個人のプライバシーを保護する。

(2)国有企業・民営企業の改革・発展支援

党中央・国務院の手配を貫徹し、「いささかも動揺することなく、公有制経済を強固にし発展させ、いささかも動揺することなく、非公有制経済の発展を奨励・支援・誘導する」ことを堅持し、国有企業・民営企業の改革・発展を支援しなければならない。

今後、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)政策をしっかり実施し、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障する)任務を実施することを軸に、

①国有企業の質・効率の向上を引き続き推進し、コアコンピタンスを高め、発展の持続力を増強し、国民経済における支えとしての役割を更に好く発揮させる。

国有企業改革3カ年行動を着実に推進し、今年企業の社会機能を分離する施策を基本的に完成し、混合所有制改革の深化・現代企業制度の建設推進・市場化された健全な経営メカニズムの整備に力を入れる。

基礎研究とオリジナルなイノベーションを支援し、カギとなる技術の難関攻略を強化し、「起業・イノベーション」を深く推進する。

非本業の分離を加速し、本業の強化に力を入れる。

②一層民営企業の発展のために公平な競争環境を創造し、雇用拡大を牽引する。

市場参入を引き続き緩和し、電力網企業から装置製造等の競争性業務の分離を加速し、石油・ガスインフラの各種所有制企業への公平な開放を推進する。

民営企業が重大鉄道プロジェクトの建設と乗客・貨物駅・ヤードの開発・経営に参加することを支援する。

重大科学研究インフラの民営企業への一層の開放を推進し、民営企業に対する国家企業技術センター認定を加速し、民営企業の技術人材の肩書審査ルートを円滑にする。

中小民営企業連合が工業用地の公開入札に参加することを認める。

各地方が中小・零細企業向け貸出リスクの分担メカニズムを確立することを奨励する。

9月17日 基層(末端)代表座談会

湖南省を視察していた習近平総書記は、9月17日、長沙市で基層(末端)座談会を開催し、第14次5カ年計画について意見・建議を聴取し、重要講話を行った。重要講話のうち、経済に関連する内容は以下のとおりである。

(1)発展の良好な局面を重視し、発展の良好な勢いを強固にする

第14次5カ年計画期間は、わが国が小康社会を全面的に建設した基礎の上に、社会主義現代化国家の新たな征途をスタートさせる第一の5年である。当面及び今後一時期、わが国の発展は依然として重要な戦略的チャンスの時期にあるが、チャンスと試練はいずれも新たな発展・変化がある。

現在、世界は正に百年未曾有の大変局を経験しており、新型コロナ肺炎の疫病は大変局の変化を激化させた。国際環境は日増しに複雑化し、経済のグローバル化は逆流に遭遇し、一部の国家の一国主義・保護主義が横行している。我々は更に不安定・不確定な世界において、わが国の発展を求めなければならない。

わが国は既に質の高い発展段階に入っており、経済発展の見通しが好転していると同時に、発展がアンバランス・不十分であるという問題が依然として際立っており、質の高い発展を実現するにはなお多くの不足・脆弱部分がある。

困難と試練、阻止力と変数に対し、我々はこれを隠蔽・回避し、見て見ぬふりをしてはならず、うろたえて方向を見失い、浮足立ってはならない。私は常に、「中華民族の偉大な復興は楽なものではなく、鳴り物入りで必死に頑張ってこそ実現できる」と言っている。艱難汝を玉にす。どの国家・民族の現代化も、順当に実現できるものではない。

国際・国内情勢に深刻・複雑な変化が発生したとはいえ、①わが国の経済は安定の中で好転しており、長期に好い方向へ向かうというファンダメンタルズに変わりはなく、②わが国経済の潜在力は十分で、強靭性が高く、活力が強く、挽回の余地は大きく、政策手段が多いという基本的特徴に変わりはなく、③わが国の発展が有する多方面の優位性と条件に変わりはない。

わが国は世界で最も完全で、最も規模が大きい工業システムを有し、強大な生産能力・完備された生産サポート能力・超大規模な内需市場を有しており、投資需要の潜在力は巨大である。

我々は情勢を科学的に分析し、発展の大勢を把握し、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、発展と安全を統一的に企画し、国内大循環を主体とし、国内・国際の2つの循環が相互に促進する新たな発展の枠組みを早急に形成しなければならない。

(2)人民と中心とする発展思想の貫徹を堅持する

民心は最大の政治である。我が党は誠心誠意人民のために奉仕する党であり、「立党は公のため、執政は民のため」を堅持し、人民の素晴らしい生活への願望を終始変わらず奮闘目標とすることを堅持する。百年近い奮闘の歴史の中でわが党は常に有言実行であった。

(中略)新型コロナ肺炎の疫病迎撃闘争において、我々は最初から人民の生命の安全と身体の健康を第一とすることを鮮明に提起した。疫病の蔓延に最大限度歯止めをかけるため、我々は全国の範囲で最も優秀な医者・最も先進の設備・最も必要な資源を動員し、全力で疫病の救済・治療にあたり、その費用は全て国家が負担した。

第14次5カ年計画期間の発展を計画する際は、「発展は人民のためであり、発展の成果は人民が共に享受する」ことを堅持し、質の高い発展を推進するプロセスにおいて、努力して各民生事業にしっかり取り組み、民生分野の不足を補填しなければならない。人民大衆が普遍的に関心をもつ民生問題に更に焦点を絞り、更に的確な措置を採用して、1つ1つ実施に取り組み、1年1年続けて実施し、人民大衆に獲得感・幸福感・安全感を得させ、それを更に充実し、更に保障し、更に持続可能なものにしなければならない。

(3)末端党組織と末端政権の建設を強化する(省略)

(末端社会のガバナンスを強化・刷新し、都市・農村のコミュニティ建設を強化し、ネットワーク化された管理・サービスを強化し、社会の矛盾・紛争を多元的に予防・調整・処理・解消する総合的なメカニズムを整備し、矛盾を確実に末端で解消して、社会の安定を擁護しなければならない、としている。)

(4)末端代表は牽引者としての役割を更に好く発揮しなければならない

小康社会の全面実現は終点ではなく、新たな生活・新たな奮闘の起点である。

人民大衆の中には、豊富な知恵と無限の創造力が包含されている。広範な末端大衆を組織し、動員し、結集させて、人民大衆の積極性・主動性・創造性を十分奮い立たせなければならない。

党員・幹部は、先鋒・模範としての役割を更に十分発揮し、人代代表は大衆と更に密接に連携し、政協委員は所在する業界別の大衆に更に好く連携・サービスし、農村の富裕なリーダーは「先に富んだ者が、後の者の富裕化を助ける」という役割を積極的に発揮し、広範な末端大衆を団結・結集させて、更に素晴らしい新生活を創造するために努力・奮闘しなければならない。

9月22日 国連総会一般討論における習近平国家主席の演説

経済関連の概要は以下のとおりである。

人類社会の発展史は、各種の試練・困難に不断に戦勝した歴史である。新型コロナ肺炎の疫病の世界大流行と、世界の百年未曾有の大変局が相互に影響しているが、平和・発展の時代のテーマに変わりはなく、各国人民の平和発展の協力・ウインウインへの期待は更に強烈になっている。新型コロナ肺炎の疫病は、人類が直面する最後の危機ではなく、我々は手を携えて更に多くのグローバルな試練を迎え受ける準備をしなければならない。

(1)今回の疫病が我々に与えた啓示は、我々の生活は相互に連結し、禍福を共にする地球村にあるということである。

各国は緊密につながり、人類は運命を共にしている。いかなる国家も他国の困難から利益を得ることはできず、他国の動揺から安定を得ることはできない。もし災難を他国に押し付け、対岸の火事とすれば、他国の脅威は遅かれ早かれ自国の試練へと変わるだろう。

我々は、持ちつ持たれつの運命共同体の意識を樹立し、小ブロック圏思考・ゼロサム思考から抜け出し、大家庭・協力ウインウインの理念を樹立し、イデオロギー論争を放棄し、文明の衝突の陥穽を乗り越え、各国が自主的に選択した発展の道・モデルを相互に尊重し、世界の多様性を人類社会の進歩の尽きない動力とし、人類文明の多彩で自然な形態としなければならない。

(2)今回の疫病が我々に与えた啓示は、経済のグローバル化は客観的な現実であり、歴史の潮流だということである。

経済のグローバル化の大勢に対して、ダチョウのように頭を砂に埋めて見て見ぬふりをし、あるいはドンキホーテのように長い槍を振り回して抑え込もうとすることは、いずれも歴史法則に反するものである。

世界は互いに封鎖した孤立状態に戻ることはできず、ましてや互いを切り裂くことは不可能である。

我々は経済のグローバル化がもたらした試練を回避することはできず、貧富の格差・発展の格差等の重大問題に直面しなければならない。

我々は政府と市場、公平と効率、成長と分配、技術と雇用の関係をうまく処理して、発展をバランスがとれ十分なものとし、発展の成果が異なる国家・異なる階層・異なる人びとに公平に及ぶようにしなければならない。

我々は公平・包摂の理念を堅持し、断固として開放型世界経済を構築し、WTOを基盤とした多国間の貿易体制を擁護し、一国主義・保護主義への反対を旗色鮮明にし、グローバル産業チェーン・サプライチェーンの安定・円滑を擁護しなければならない。

(3)今回の疫病が我々に与えた啓示は、人類は自己革命により、グリーンな発展方式と生活方式を早急に形成し、生態文明と美しい地球を建設する必要があるということである。

人類は大自然の1つ1つの警告を軽視してはならず、収奪のみを重視して投入を重視せず、発展のみを重視して保護を重視せず、利用のみを重視して修復を重視しない旧い道を歩んではならない。

気候変動「パリ協定」に代表される世界的なグリーン・低炭素への転換という大方向に対応することは、地球の家を擁護するために採用が必要な最低限の行動であり、各国は決定的な歩みを踏み出さなければならない。

中国は国家としての自主貢献を強化し、更に有力な政策・措置を採用して、二酸化炭素排出を2030年までにピークに達するようにし、2060年までに炭素中和の実現を勝ち取るよう努力する。

各国は、「イノベーション・協調・グリーン・開放・発展の成果を共に享受する」という新発展理念を樹立し、新たな科学技術革命と産業変革の歴史的チャンスをしっかり掴み、疫病後の世界経済の「グリーン(環境に配慮した)回復」を推進し、持続可能な発展の強大な合成力を結集しなければならない。

(4)今回の疫病が我々に与えた啓示は、グローバルガバナンスシステムの改革・整備が必要だということである。

疫病は各国の執政能力に対する試験であるだけでなく、グローバルガバナンスシステムへの検査でもある。

我々は多国間主義の道を堅持し、国連を核心とした国際システムを擁護しなければならない。

グローバルガバナンスは「共に協議し、共に建設し、共に成果を享受する」という原則を堅持し、各国の「権利の平等・機会の平等・ルールの平等」を推進することにより、グローバルガバナンスシステムを、変化した世界政治経済に合致させ、グローバルな試練に対応する現実需要を満足させ、平和発展・協力ウインウインの歴史的趨勢に順応させなければならない。

国家間の意見の相違は正常なことであり、対話・協議を通じて適切に解消しなければならない。国家の間には競争があってよいが、ポジティブで良性のものでなければならず、道徳の最低ラインと国際規範をしっかり守らなければならない。

大国は更に大国としての構えをすべきで、更に多くのグローバル公共財を提供し、大国としての責任を担い、大国の責任感を示さなければならない。

今年に入り、14億の中国人民は困難を恐れず、上下心を一つにして、全力で疫病の影響を克服し、生産生活秩序を急速に回復している。我々は、期限どおり小康社会を全面的に実現し、期限どおり現行基準における農村貧困人口の全部脱貧困を実現し、10年前倒しで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」貧困削減目標を実現する自信がある。

中国は世界最大の発展途上国であり、「平和発展・開放発展・協力発展・協同発展」の道を歩み、永遠に覇を唱えず、拡張せず、勢力圏を求めず、いかなる国家とも冷戦・熱戦を行うつもりはなく、対話により意見の相違を埋め、交渉により紛争を解消することを堅持する。

我々は自国のみ優れることを追求せず、一人勝ちをせず、門戸を閉ざした閉鎖的運営を行わず、国内大循環を主体とし、国内・国際の2つの循環が相互に促進する新たな発展の枠組みを徐々に形成し、中国経済の発展のために空間を切り拓き、世界経済の回復・成長のために動力を添加する。

中国は引き続き、世界平和の建設者・グローバルな発展の貢献者・国際秩序の擁護者となる。国連が国際事務において核心的な役割を発揮することを支援するため、私は以下を宣言する。

①中国は国連新型コロナ肺炎疫病グローバル人道主義対応計画に対し、さらに5000万ドルの支援を提供する。

②中国は、5000万ドル規模の第3期中国・FAO(国連食糧農業機関)南南協力信託基金を設立する。

③中国・国連平和・発展基金を2025年の期限到来後、さらに5年延長する。

④中国は国連グローバル地理情報知識・イノベーションセンターと持続可能な発展ビッグデータ国際研究センターを設立し、「国連持続可能な発展のための2030年アジェンダ」に新たな助力を提供する。

歴史のバトンは既に我々の世代の手中にあり、我々は人民と歴史に恥じない選択をしなければならない。我々は団結し、平和・発展・公平・正義・民生・自由という全人類の共同価値を堅く守り、新しいタイプの国際関係構築を推進し、人類運命共同体の構築を推進し、世界の更に素晴らしい未来を共同で創造しよう。