新型肺炎とマクロ政策(48)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年9月15日


はじめに

本稿では、9月10日の「市場主体保障への金融支援」の情況に関する金融当局記者会見、11日の「行政の簡素化・権限委譲、管理と開放の結合、サービスの最適化」改革を深化させ、ビジネス環境を最適化する全国テレビ電話会議における李克強総理の重要講話の概要を紹介する。

9月10日 「市場主体保障への金融支援」の情況に関する金融当局記者会見
(1)概況

今年は、主として3方面で政策を展開した。

①金融により企業を優遇する金融保障措置を迅速に打ち出し、銀行が貸出を精確に増やすよう指導した。

疫病の打撃の下、小型・零細企業の資金回転が直面している際立った困難に対して、人民銀行等の部門と共同で、貸出の元本償還・利払いの段階的猶予政策を制定した。一部の省でテストを行い、緊急貸出政策を推進した。

産業チェーンを業務・生産再開と協同させることへの金融支援を大いに推進し、条件の整った銀行が、産業チェーン業務系統組織と、コア企業・政府部門関係系統組織とのマッチングを進めることを奨励し、川上・川下の小型・零細企業のためにサプライチェーン融資サービスを提供した。

②段階的な困難緩和と長期に有効なメカニズムの建設を結びつけ、監督管理による奨励・制約を一層強化した。

小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの不良債権比率が、各貸出の不良債権比率より3ポイント以内で高まることを容認するという基準を明確にし、銀行が疫病の影響が深刻な地域の支店に対し、内部考課において容認限度を適切に高めるよう督促した。

疫病の影響により発生した小型・零細企業向け不良債権について、十分証拠があれば不可抗力と見なし、関係者への責任追及を免じた。

この種の貸出損失については、内部認定手続を適切に簡略化することを認め、償却を強化した。同時に、「商業銀行の小型・零細企業向け金融サービス監督管理評価弁法」を打ち出し、商業銀行が「長所を鍛錬強化し、短所を補強」し、小型・零細企業向けサービス能力を高めるよう誘導・奨励した。

③多くの部門と連携し、共同で力を発揮し、外部からの関連支援を一層最適化した。

小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの利息収入について、財政・税務部門は引き続き増値税免除を推進した。

国家税務総局、国家発展・改革委員会等の部門と「銀税の連動」「信用力による容易な貸出」関連政策を深化し、地方政府が信用情報総合サービスプラットフォームを構築することを推進し、データの整理合理化・共有を増やし、銀行のために法・規定に基づき企業関連データにアクセスする簡便なルートを提供した。

7月末までに、全国小型・零細企業向け貸出残高は40.83兆元で、年初より10.62%増となった。うち、1社当たり与信総額1000万元以下の小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス残高は13.91兆元で、2018年初から2年余りの時間で、残高は2倍近くとなり、20年初より19.2%増、各貸出の伸びより10.43ポイント高かった。

貸出残高件数は、2397.16万社で、年初より285.23万社増であり、伸びと件数を「2つ増やす」目標を段階的に実現した。

5つの大型銀行の小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの伸びは37.1%増であり、年間で「政府活動報告」が提起した40%増の目標実現が見込まれる。2020年1-7月、全国銀行業が新たに出した小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの貸出金利は5.93%で、昨年の年間金利水準より0.77ポイント低下した。うち5つの大型銀行が新たに貸したこの種の貸出金利は4.25%で、コスト引下げをリードする役割をより好く体現した。

今後銀行保険監督管理委員会は、引き続き銀行業が内部メカニズム体制を整備するよう督促し、企業安定・企業優遇の各金融支援政策が精確に実施されることを確保し、小型・零細企業向け金融サービスを不断に深化させる。

(2)小型・零細企業への貸し惜しみ・貸し渋り問題

銀行末端機関と人員はなぜ貸し惜しみ、貸したくないのか? 特典がなく、業績が低く、あるいは業績効果がないとされるからである。なぜ貸すのを恐れ、貸そうとしないのか? 不良債権が増え、問責を恐れるからである。

このため、小型・零細企業に大胆に貸し、貸したいと思うメカニズムを確立するには、最終的に、小型・零細企業に銀行がサービスするための内生的動力の問題の解決に帰着する。

銀行保険監督管理委員会は近年、一連の差別化した監督管理・奨励政策と誘導措置を打ち出したが、これはこれらの問題を1つずつ解決するためのものであり、かつ銀行の長期有効なメカニズムの形成を促進するためにほかならない。我々は、主として4つの方面の差別化した手配で体現している。

①資金サイドの差別化

商業銀行の内部の資金移転の金利決定において、小型・零細企業向け貸出に優遇を与えるよう誘導することを通じて、銀行末端が小型・零細企業向け貸出の特典がない問題を解決する。

現在、全国性商業銀行の小型・零細企業向け貸出は、内部の資金移転の金利決定において、いずれも50ベーシスポイントを下回らない優遇を与えており、一部銀行の優遇程度は100ベーシスポイント以上に達している。

②内部考課の差別化

商業銀行がその支店の業績効果を評定する際に、インクルーシブファイナンスの指標のウエイトを10%以上に高めるよう要求し、小型・零細企業向け貸出に業績効果がないという問題を解決する。株式制銀行の中には、このウエイトを既に20%に高めているものもある。

同時に、評定の内容を合理的に設定し、小型・零細企業向け貸出の利潤・中間業務収入への評定を引き下げ、重点を有効なサービスを行った顧客数、カバー率、貸出増額におかなければならない。

多くの銀行は、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスへの内部の資金転換優遇、経済資本の活用、税減免優遇等を支店の収益に計上しており、小型・零細企業向け貸出額を特別に保障し、小型・零細企業向け貸出計画の達成度がかなり好い支店に対して、特別な奨励を与えている。

③不良債権比率が高まるという問題に対して、リスク管理の差別化を実行

監督管理上、既に小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの不良債権比率が、各貸出の不良債権比率より3ポイント以内で高まることを容認限度とする旨を明確にしている。これは、最も基本的な要求である。

この基礎の上に、我々は、銀行が異なる支店の実際情況に応じて、内部の容認限度を差別化して制定することをも考慮しており、今年の疫病の影響において、商業銀行が疫病の影響が深刻な地域の支店に対し、不良債権の容認限度を適切に高めることを認める旨を特別に提起している。

④「問責を恐れる」ことに対し、職責を尽くせば免責するという差別化を実行

銀行保険監督管理委員会は、小型・零細企業向け与信で職責を尽くせば免責される政策について、監督管理の指導的文件を制定し、商業銀行が、与信で職責を尽くせば免責される内部制度を細分化し、明確な政策メカニズムと異議申し立てのルートを確立し、末端職員のために小型・零細企業向け貸出の後顧の憂いを解除するよう要求した。

上述の差別化した誘導政策と要求は、我々は「商業銀行による小型・零細企業向けサービスの監督管理・評価弁法」において、いずれも専門的に指標を設け評定を進め、監督管理の指揮棒によって銀行が「脆弱部分を補強し、長所を鍛え」、体制メカニズムの建設を不断に深化させるよう督促している。

銀行保険監督管理委員会も、引き続き監督管理・奨励政策を検討・深化させ、商業銀行が小型・零細企業向けサービスのための内生的動力を打ち固めるよう支援する。

9月11日 「行政の簡素化・権限委譲、管理と開放の結合、サービスの最適化」改革を深化させ、ビジネス環境を最適化する全国テレビ電話会議

李克強総理の重要講話の概要は、次のとおりである。

「行政の簡素化・権限委譲、管理と開放の結合、サービスの最適化」改革を深化させ、ビジネス環境を最適化することは、市場主体の活力と発展動力を奮い立たせるカギとなるアクションである。

ここ数年、「行政の簡素化・権限委譲、管理と開放の結合、サービスの最適化」の3つがそろって相互に支え合い、市場主体と就労ポストの大幅な増加を推進し、大衆による起業・万人によるイノベーションが勢い盛んに発展し、新業態・新モデルの急速な成長を生み出し、経済の強靭性と発展動力が不断に増強され、今年、疫病を迎撃し、経済の回復・成長を促進することに重要な役割を発揮した。

現在、わが国の発展は未曾有の試練に直面しており、習近平「新時代の特色ある社会主義」思想を導きとし、疫病防御と経済社会発展を統一し、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)政策をしっかり実施し、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障する)任務を実施することを軸に、かつマクロ政策と「行政の簡素化・権限委譲、管理と開放の結合、サービスの最適化」改革の深化を併せ重視して、企業の困難緩和を助けるのみならず、市場主体の活力を奮い立たせて、経済の基盤をしっかり安定させ、年間の発展目標・任務の達成に努力し、質の高い発展を推進して、新たな発展の枠組みを構築しなければならない。

「行政の簡素化・権限委譲、管理と開放の結合、サービスの最適化」改革の方法を用いて、マクロ政策実施の一定期間の有効性と精確性を高めることは、今年、マクロ・コントロール方式を刷新する重要措置である。

財政資金を直接交付するメカニズムをしっかり実施し、減税・費用引下げの実効を確保し、雇用・民生・市場主体保障等のために支えを提供しなければならない。

貸出サービスモデルを刷新し、企業とりわけ中小・零細企業の資金調達を更に便利にし、優遇する。

雇用とりわけ新たな雇用形態への不合理な規制を打破し、土地に応じて施策を実施し、柔軟な就労を発展させる。

「行政の簡素化・権限委譲、管理と開放の結合、サービスの最適化」改革を引き続き深化させる際、「行政の簡素化・権限委譲」により活力・創造力を引き出さなければならない。参入のハードルを一層引き下げ、重複した審査・許認可、不必要な審査・許認可を早急に廃止し、「事業許可証と営業許可証の分離」1改革を深化させ、生産許可・プロジェクト投資・証明事項等の分野で約束制2を進める。

「管理と開放の結合」により、公平を図り、質を高めなければならない。「参入を厳しくし、管理を緩くする」から「参入を緩くし、管理を厳しくする」への転換を推進する。「サンプル検査の対象を無作為に決め、検査要員を無作為に選び、検査結果を一般に公表する」監督管理、「インターネット+監督管理」等を整備する。ワクチン・薬品・特殊設備等について、すべての主体・全品目・すべてのチェーンへの厳格な監督管理を実行する。包摂的で慎重・周到な監督管理を刷新し、新興産業の更に大きな発展を促進する。

「サービスの最適化」により便宜を図り、実際の恩恵を与えなければならない。非対面の事務処理を全面推進し、更に多くの事項の省を跨いだ処理を推進し、来年年末までに頻度の高い事項の全面非対面化を基本的に実現すると同時に、データの安全を保障し、プライバシーを保護する。困窮大衆を主動的に発見するメカニズムを確立し、「人が政策を探す」を「政策が人を探す」に転換し、困窮大衆が遅滞なく保障を得るようにする。

ビジネス環境の競争力は、即ち国際競争力である。外商投資法及び関連法規・外資参入ネガティブリストを実施し、関心事項に対応し、更に優れて開放的な環境を作り上げ、中国の開放の決意により外資を安心させ、開放の政策により外資に恩恵を与えなければならない。

各地方・各部門は、習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、党中央・国務院の政策決定・手配を貫徹実施し、中央と地方の2つの積極性を好く発揮し、奮闘して成果を出し、実務にしっかり励み、実際と結びつけて「行政の簡素化・権限委譲、管理と開放の結合、サービスの最適化」改革の深化を模索し、協同性・的確性を増強し、部門の利益と地方保護主義の障碍を打破し、更に多くの企業と大衆が満足する改革成果を上げ、経済社会の発展のために動力を添加しなければならない。          

  1. 原文は「証照分離」。「証」は、関連の各業界主管官庁が交付する許認可証(事業免許)。「照」は、商工業行政官庁が交付する許認可証(営業免許)。最近は、照が証に優先されるようになっている。
  2. 行政機関が申請事務を処理する際、まず書面(電子テキストを含む)形式で法律・法規の定める証明義務や照明内容を申請者に告知し、申請者が告知された条件・基準・要件にかなうことを書面で約束し、約束違反の法的責任をとると表明すれば、所定の証明を求めないで、書面での約束を基に関連事務を処理すること(中国通信)。