新型肺炎とマクロ政策(27)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年5月15日


はじめに

本稿では、5月12日の大学卒業生の就職促進に関する教育部の記者会見、13 日の国務院常務会議、14日の党中央政治局常務委員会の概要を紹介する。

5月12日 教育部記者会見
(1)これまで実施した政策

教育部は、大学卒業生の就職・起業を全力でラストスパートをかけて促進している。

2020年度、大学卒業生は874万人であり、前年比40万人増え、卒業生数はさらに史上最高となる。現在、新型肺炎疫病、経済の下振れ圧力等の多様な要因の相乗的な影響を受け、雇用情勢は複雑・峻厳である。

党中央・国務院は、大学卒業生の就職活動を高度に重視している。新型肺炎疫病発生以来、習近平総書記は一連の重要指示で、「大学卒業生の就職を重点中の重点とし、卒業・募集・試験・採用等の関連活動を統一的にしっかり企画し、彼らを順調に卒業させ、できるだけ早く就職させなければならない」と強調している。

中央の政策決定・手配を貫徹し、今年の複雑・峻厳な雇用情勢に積極的に対応するため、これまで教育部は関係部門と共に、重点5方面を全力で推進した。

①進学・募集拡大方面

修士・博士課程の学生募集規模を拡大し、前年比8.9万人増やした。

専門学校から大学本科に進学する規模を拡大し、前年比32.2万人増やした。最近教育部は文件を出し、2020年の専門学校から大学本科への進学をしっかり行うよう手配し、主として予防医学・応急管理・老人ケア管理・電子ビジネス等に傾斜させることとし、各地方に質と量を維持しながら募集拡大任務をしっかり達成するよう要求した。

同時に、教育部は関係部門と学士入学の募集拡大推進を検討している。

②ルート開拓方面

「特別ポスト計画」の実施を拡大し、今年は10.5万人を募集し、前年比5000人増やす。高校・中学校・小学校と幼稚園教師の配備を一層強化し、「まずポストに就けた後、検証する」措置を採用し、40万人余りの卒業生を高校・中学校・小学校と幼稚園の教師陣に計画的に吸収する。

関係部門と共に、大学卒業生を農村末端や西部に行かせて教育・農業・医療・貧困支援に従事させる、中央の末端就職プロジェクトの規模を適切に拡大する。

国有企業、中小・零細企業による大学生吸収を推進する。今年度卒業生の軍隊募集規模を拡大する。末端医療・コミュニティサービス等の分野の卒業生募集・採用を一層強化する。科学研究助手のポストをより多く新設する。

③就職サービス方面

2月28日、教育部は関連民間募集サイトと連携して「24365キャンパス・インターネット募集サービスプラットホーム」を推進している。これは、1日24時間、1年365日、切れ目・休みなしの就職サービスプラットホームであり、現在まで既に1千万件近いポスト情報を提供し、登録者は累計200万人、略歴を送ってきた者は延べ1500万人余りとなっている。

各地方・各大学は、疫病がもたらした不利な影響を努力して克服し、2カ月で毎日開催したインターネット募集会は2000回以上となっている。このほか、教育部は関係地方及び大学と、大学卒業生オンライン契約プラットホームを推進しており、卒業生のオンライン契約のために便宜を提供している。

④就職指導強化方面

この2カ月、教育部は各地方・各大学と「就職+インターネット」公益生放送講義の一連の講座を組織的に展開しており、累計延べ1000万人超が受講した。この公益講座は、主として卒業生が雇用情勢を分析し、関連政策を理解することを手助けし、経験・方法を伝授し、彼らが目標を明確にし、自信を確立し、主動的に求職することを支援するものである。

⑤湖北支援方面

今年湖北省の大学卒業生は全部で44.9万人であり、湖北籍で他の省で学んでいる卒業生は6.4万人である。我々は関係部門と湖北省その他の省と共に、「中央+地方」「10項目」の「政策パッケージ」を制定し、湖北を支援しており、現在関連施策の項目ごとの実施を推進している。

そのうち、湖北のために一連の専門サイトでの募集・採用活動を組織し、既にポスト情報を32.4万件提供した。我々は他の省の大学の湖北省の大学への「1対1支援」キャンペーンを共同で展開し、主として就職情報・就職指導等の6方面をシェアし、現在既にいくらかの卒業生が支援活動を通じて就職活動を実施して仕事を得ている。

(2)今後の政策

これまでの政策の基礎の上に、大学卒業生の就職活動を一層強力に推進するため、5月初~8月中旬、教育部、人力資源社会保障部、工業・情報化部、国有資産監督管理委員会、中央ラジオ・テレビ総台、共青団中央等の6部門は、共同して2020年大学卒業生就職「百日ラストスパート」キャンペーンを展開しており、10の具体的措置を提起した。

これには、①進学・募集拡大による吸収キャンペーン、②末端充実のための特別計画キャンペーン、③卒業生の軍入隊拡大キャンペーン、④科学研究・コミュニティ・医療等末端ポストの新設注力キャンペーン、⑤企業による雇用安定・拡大推進キャンペーン、⑥オンライン就職サービスの継続展開キャンペーン、⑦起業による就職牽引推進キャンペーン、⑧湖北省の重点支援展開キャンペーン、⑨脱貧困堅塁攻略への助力キャンペーン、⑩責任実施への取組みキャンペーンが含まれる。

「百日ラストスパート」キャンペーンは、政府・企業等の各方面の資源を十分結集し、あらゆる手を尽くして社会各界の支援を勝ち取り、ルート開拓、サービス強化、イノベーション・起業、重点支援等の方面で一層力を発揮し、大学卒業生の「雇用安定」「雇用維持」の目標・任務の実現に努力する。

5月13 日 国務院常務会議
(1)全人代・全国政協(両会)期間の全人代代表・政協委員の意見・建議聴取1

毎年全国両会期間、国務院各部門責任者は、全人代・全国政協関連会議に列席し、あるいは傍聴して、人代代表と政協委員の政府活動への意見・建議を真剣に聴取し、すぐに回答している。これは、政府が人民の監督を受け、社会のコンセンサスを増進・凝集し、科学的・民主的な政策決定を推進するための重要な内容・体現である。

今年極めて峻厳・複雑な情勢に対し、政府活動をしっかり行うには、代表・委員の衆知・総力を結集し、彼らの意見・建議を政策成果に確実に転化させ、難題打破・困難克服を促進しなければならない。

現在、なお疫病の常態化した防御という特殊な情況にあることを考慮すると、代表・委員の意見・建議の聴取の方式を刷新し、ビデオ・電話・インターネット等を通じて代表・委員の不満の実情、とりわけ市場主体と人民大衆の希望を了解しなければならない。

全国両会の関連手配に基づき、次のように確定する。

①関係部門は、ビデオ・オンラインを通じて、政府活動報告を全人代代表が審議する各小組会議の生中継を傍聴し、全プロセスの意見・建議を聴取する。

自分の部門の職責に関わるものについては、各部門は真剣に検討して、回答しなければならない。

②各部門は、いずれも部門責任者がリードして両会対応の専門チームを作り、代表・委員とのホットラインを設置し、専任の職員が電話番をして対応しなければならない。

代表・委員からの電話を真剣に記録し、大会閉幕前に説明・回答を行う。

③国務院弁公庁は、全人代・全国政協会議のブリーフィングの中で、政府活動に関わる事項を収集・整理し、代表・委員が提起した意見・建議を真剣に検討し、処理を要するものはすぐに関係部門に回して処理させ、しっかりフィードバック・回答させなければならない。

社会が遍く関心を寄せているホットイシュー・難しい問題について、各部門はすぐに検討・回答しなければならない。

上述の活動を通じて、代表・委員の提案・建議を真剣に処理し、政府活動により十分に民意を反映させ、活動水準を高める。

(2)「6つの維持」「6つの安定」2

今年の未曾有の困難・試練に対して、党中央・国務院の手配に基づき、「6つの安定」(雇用、金融、貿易、外資、投資、予想を安定させる)政策を着実にしっかり実施し、庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧及びエネルギーの安全、産業チェーンとサプライチェーンの安定、末端の運営を維持する「6つの維持」の任務を実施しなければならない。

不確定性が増加すればするほど、「維持」の意義はより大きくなる。「6つの維持」は、いずれも現在の際立った矛盾とリスクの隠れた弊害に向けられたものであり、困難・試練に向き合い、これを克服するための積極措置であり、政府の責任は重い。

「6つの維持」を「6つの安定」の注力点・支えにしなければならない。雇用・基本民生・市場主体をしっかり安定させれば、所得が生まれ、消費を牽引し、市場需要を拡大することになる。

「維持」というこの最低ラインをしっかり守り、経済の基盤をしっかり安定させれば、難関克服のために時間を稼ぎ、条件を創造し、「安定の中で前進を求める」ことを実現し、小康社会の全面実現のために、基礎を打ち固めることができる。

このため、マクロ・コントロールによるヘッジを強化し、財政・金融・社会保障・雇用等の政策の合成力を十分発揮し、「6つの維持」「6つの安定」を軸に更に精確なコントロールを実施しなければならない。

改革開放を強化し、末端のパイオニア精神を尊重し、基礎を打ち立て長期に利する制度メカニズムの整備に努力し、市場主体の活力と社会の創造力をより大きく奮い立たせなければならない。

開放拡大を通じて、各方面の協力・ウインウインを促進する中で、産業チェーン・サプライチェーンを安定させ、経済発展の強靭性と潜在能力を不断に増強しなければならない。

5月14日 党中央政治局常務委員会

経済関連の概要は以下のとおりである。

(1)習近平総書記の重要講話

現在、全国疫病防御情勢は総体として良好であるが、同時に国外疫病情勢は峻厳・複雑であり、国内の疫病再流行防止任務は依然として非常に困難で荷が重い。油断・厭戦気分・射幸心・気の緩みを断固克服し、国外からの疫病輸入防止、国内での疫病再流行防止活動に引き続きしっかりと堅実にきめ細かく取り組み、容易でなかった疫病防御の成果を決して台無しにしてはならず、脱貧困堅塁攻略決戦・決勝の目標・任務の達成を確保し、小康社会を全面的に実現しなければならない。

(2)会議の概要

サプライサイド構造改革を深化させ、わが国の超大規模な市場の優位性と内需の潜在力 を十分発揮させ、国内・国際の2つの循環を相互促進する新たな発展構造を構築しなければならない。

産業の基礎の再構築と産業チェーンの向上プロジェクトを実施し、伝統産業の優位性を強固にし、優位性のある産業のリーダーとしての地位を強化し、戦略性新興産業・未来産業の配置にしっかり取り組み、産業の基礎の高級化・産業チェーンの現代化水準を引き上げなければならない。

新しいタイプの挙国体制の優位性を発揮させ、科学技術イノベーションと技術の難関攻略を強化し、カギとなる部分・分野・製品の保障能力を強化しなければならない。

常態化した疫病防御をしっかり行う前提の下、引き続き重点産業チェーン、リーダー企業、重大投資プロジェクトを軸に、隘路を広げ、断裂をつなぎ、生産要素の保障を強化し、川上・川下、生産・供給・販売、大中小企業が協同した業務再開・本格生産を促進しなければならない。

各種ショッピングモール、マーケット、生活関連サービス業の正常な水準への回復を早急に推進し、産業循環・市場循環・経済社会循環を円滑にしなければならない。

国際協調・協力を強化し、国際産業チェーン・サプライチェーンの安全・安定を共同で擁護しなければならない。

  1. 今回は、新型肺炎拡大と経済の下振れという大きな問題を抱える中、両会の開催が大幅に遅れ、しかも会期が短縮されたため、代表・委員のフラストレーションが相当たまっているものと思われ、会議が紛糾せずにスムーズに流れるよう、細心の配慮が必要なのであろう。
  2. 李克強総理が再度「6つの安定」と「6つの維持」に言及したのは、これまで「6つの安定」が強調されてきた中で、4月17日の党中央政治局会議が唐突に「6つの維持」を打ち出したため、両者の関係について地方政府や現場に混乱が生じ、両会でも議論となることが予想されたため、あらかじめ政府としての見解を明らかにしたのではないか。