新型肺炎とマクロ政策(26)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年5月12日


はじめに

本稿では、5月8日の党中央党外人士座談会、11 日の国務院党外人士座談会の概要を紹介する。近い時期に、習近平総書記と李克強総理が、それぞれ党外人士を呼んで座談会を主催するのは珍しい。

5月8日 党中央党外人士座談会

習近平総書記が主催した。新型肺炎疫病防御について、民主諸党派中央、全国工商聯、無党派人士から意見・建議を聴取し、習近平総書記が重要講話を行った。重要講話の概要は、以下のとおりである。

非常に困難で卓絶した努力を経て、武漢防衛戦・湖北防衛戦は決定的成果を得て、疫病防御迎撃戦は重大な戦略的成果を得て、疫病防御と経済社会発展政策の統一的企画・推進はポジティブな成果を得た。

我々は引き続き各政策に早急にしっかり取り組み、疫病防御の手綱を緩めず、業務・生産・学校再開を着実に推進し、脱貧困堅塁攻略決戦・決勝の目標・任務の達成を確保し、小康社会を全面的に実現しなければならない。

突如やって来た疫病に対し、党中央は高度に重視し、人民の生命の安全と身体の健康を第一とし、全局を統一的に企画し、沈着に対応し、一連の防御・救済措置を果断に採用して、1カ月余りの時間を用いて疫病の蔓延の勢いに歯止めをかけ、2カ月前後の時間を用いて本土の毎日新たに増える病例を1ケタ以内に抑制し、3カ月前後の時間を用いて武漢防衛戦・湖北防衛戦の決定的成果を勝ち取った。わが国のような14億の人口を有する大国にとって、このような成績は容易ではなかった。

疫病防御闘争において、我々は中国共産党の集中・統一的指導を堅持し、党・政府・軍・人民・学校、東西南北・中央が一体として行動し、各地方・各部門は即座に反応し、疫病防御の人民戦争・総力戦・迎撃戦を開始した。

(中略)

我々はパワーを集中し、大事をなす制度的優位性を発揮し、全国一丸となって、全社会のパワーを動員し、各方面の資源を動員し、疫病対策の強大な合成力を迅速に形成し、中国のパワー・中国の精神・中国の効率を示した。

我々は、総合国力を統一的に企画・運用し、全方位の人力組織戦・物資保障戦・科学技術突撃戦・資源動員戦を展開した。

(中略)

我々が社会主義核心価値観を高揚させ、全国各民族・人民が苦労を共にし、心を合わせ協力し、愛国主義・集団主義・社会主義精神を広く高揚させ、多くの英雄模範が涌き出でて、一致団結して強大な精神防衛線を作り上げたことは、社会主義精神文明建設を強化し、社会主義核心価値観を高揚させることの重大意義を十分示し、中華の優秀な伝統文化の強大なパワーを十分示した。

我々は、国際交流・協力を強化し、関係国と国際組織に力の及ぶ限りの支援を主動的に提供し、責任ある大国として責任を担うことを明らかにした。

疫病防御闘争の実践は、中国共産党の指導とわが国の社会主義制度、わが国の国家ガバナンスが強大な生命力と顕著な優越性を有しており、いかなる困難・危険にも戦勝でき、人類文明の進歩のために重大な貢献ができることを、再び証明した1

今回の新型肺炎疫病対応は、わが国の重大な疫病防御体制メカニズム、公共衛生システム等の方面にいくらかの脆弱さが存在することを暴露しており、疾病予防・コントロールのシステムを改革・整備し、平時・戦時を結びつけた重大疫病防御救済システムを不断に整備し、突発重大公共衛生事件に対応する能力・水準を確実に高めなければならない。

現在、国外の疫病の爆発的な拡大の態勢は、なお続いており、わが国は外からの疫病の輸入圧力が増大し、国内での疫病の再流行のリスクが常に存在している。

外からの疫病輸入防止対策を精確・有効にしっかり実施し、重点地域の疫病防御対策にしっかり取り組み、常態化した疫病防御措置を整備・実施し、宣伝・誘導を強化し、大衆が自ら防護・管理する意識を強化し、疫病再流行の出現を厳密に防止しなければならない。

次の3点を希望する。

①中国の特色ある社会主義の道を断固として歩み、政治的立場をしっかり安定させ、「4つの自信」2を確固とし、引き続き中国共産党と手を携えて前進し、困難な局面を共に克服してもらいたい。

②疫病を防ぎ、発展を促すために、引き続き積極的役割を発揮し、深く調査研究し、展望性をもった計画と規律ある思考を強化し、正確で明快な見解を提起し、「6つの安定」(雇用、金融、貿易、外資、投資、予想を安定させる)政策をしっかり実施・推進し、「6つの維持」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧及びエネルギーの安全、産業チェーンとサプライチェーンの安定、末端の運営を維持する)任務を実施してほしい。

③協力して良好な輿論の雰囲気を作り上げ、社会情勢・民意に密接に注意を払い、疑惑を解消する活動を遅滞なく展開し、中国の疫病対策の物語をしっかり語り、好い声を発し、プラスのエネルギーを伝播させてほしい3

5月11日 李克強総理主催座談会

李克強総理が主催した。こちらも、民主諸党派中央、全国工商聯責任者、無党派人士から、「政府活動報告(意見徴求稿)」に対する意見・建議を聴取した。なお、こちらは「党外人士座談会」という名称は使用していない。

会議における李克強総理の発言は、以下のとおりである。

疫病の深刻な衝撃と世界経済の衰退の影響を受けて、わが国の発展は、未曾有の困難・試練に直面している。

習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとすることを堅持し、情勢の変化を遅滞なくフォロー・分析し、マクロ・コントロールを強化しなければならない。

政策調節の注力点を「6つの安定」「6つの維持」におき、庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧及びエネルギーの安全、産業チェーンとサプライチェーンの安定、末端の運営を維持することを際立たせる。「維持」とは、新情勢に対する積極的措置であり、維持すべき最低ラインをしっかり守ってこそ、経済基盤をしっかり安定させ、小康社会の全面実現のために基礎を打ち固めることができるのである。

中小・零細企業は、経済社会の発展をつなぎとめる根本基盤であり、民生・雇用を涵養する土壌である。中小・零細企業の難関克服を支援することを、マクロ政策の重要な内容としなければならない。

改革開放に依拠することを堅持し、市場の活力と社会(民間)の創造力を更に大きく奮い立たせ、経済社会発展の目標・任務の実現に努力しなければならない。

  1. 太字は筆者。おそらく、これが習近平総書記が最も強調したい点であると思われる。
  2. 中国の特色ある社会主義の道・理論・制度・文化への自信。
  3. 自画自賛とは裏腹に、新型肺炎の流行が収まった後、輿論が急激に悪化することを指導部が大変心配していることが分かる。