ボアオフォーラムにおける李克強総理の講演

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2019年4月10日


はじめに
3月28日、李克強総理は、ボアオフォーラム開幕式で講演を行った。本稿では、このうち、対外開放と経済情勢について触れた部分の概要を紹介する(新華社北京電2019年3月29日電)。
1.対外開放
(1)対外開放は、中国の基本国策である

閉幕したばかりの全人代は、外商投資法を通過させ、新時期の中国外商投資法律制度の基本的枠組みを確立し、外資の参入・促進・保護・管理等について統一的に規定した。これは、中国が法治化・国際化・円滑化されたビジネス環境を作り上げるための重要措置である。

(2)我々は、早急に外商投資法の関連法規を制定する

外商投資法の有効な実施を確保するため、現在中国政府は、既に関連法規・規程の制定活動を開始しており、外商投資法が確定した主要法律制度に基づき、オペレーション可能な具体的規則を形成している。これらの関連法規・規程は年末には完成し、2020年1月1日に外商投資法と同時実施を確保する。我々はさらに関連法規・規程・規範的文件について全面的整理を進め、およそ外商投資法と合致しないものは、全て断固として廃止あるいは改正しなければならない。

(3)我々は、外資の市場参入を一層緩和する

 参入前の国民待遇にネガティブリストを加えた管理制度を全面的に実施し、2019年6月末までに、我々は再度外資参入ネガティブリスト、自由貿易試験区外資参入ネガティブリスト、外資奨励産業目録を改正する。ネガティブリストの項目を一層縮減し、付加価値電信業務・医療機関・教育サービス等の現代サービス業及び交通運輸・インフラ・エネルギー・資源等の分野の対外開放を拡大する。  

我々のネガティブリストは引き算のみで、足し算は行わず、「禁じられていないものは即参入させる」ことを全面的に実施する。我々は、各種所有制企業を同一と見なし、公正な監督管理によって中国・外資企業の公平な競争・共同発展を保障する。我々は、貿易の円滑化レベルを早急に引き上げ、通関段階での手数料徴収の整理・プロセスの最適化を深く推進する。2019年は、通関コストを顕著に引き下げ、通関効率を高め、対外貿易の発展を促進しなければならない。

(4)我々は、金融業の対外開放を引き続き拡大する

銀行・証券・保険業への外資の市場参入の全面開放は急速に推進され、外資銀行業務の範囲を大幅に拡大し、外資証券会社と保険ブローカー業務の範囲については、今後独資の設立を制限せず、信用情報収集・信用評価サービス・銀行カード清算・ノンバンク決済への参入制限を大幅に緩和する。これらの措置は、必ず秩序立てて実施にこぎつける。  

我々は、外資企業のベンチャー投資・投資会社の設立に一層の便宜を図り、外国投資家の上場会社への戦略的投資、国内企業へのM&Aに資する関連規定を整備する。債券市場の対外開放を推進し、関連政策を打ち出し、国外投資家の中国債券に対する投資・取引のためにより便利な条件を創造する。

(5)我々は、外資の合法な権益の保護を確実に強化する

中国で登記した企業であれば、内資であろうが外資であろうが、我々はいずれも平等に扱い、各種企業の合法な権益を確実に擁護する。  

知的財産権の保護強化は、中国政府の一貫した立場である。現在、特許法改正案が既に全人代常務委員会の審議にかけられており、この改正法は懲罰を倍加した賠償メカニズムを導入している。この目的は、深刻に権利を侵害する偽物を製造・販売した者に、払いきれないほどの代償を担わせることにある。

外商投資法は行政手段を使用して技術を強制移転させてはならないことを明確に規定しており、我々は言ったことは必ず実行し、違法な者に対しては法に基づき厳格に処置する。我々は、外資企業の苦情申立ての健全なメカニズムを確立し、政府と外資の意思疎通・協調のルートをスムーズにすることで、これを外資企業の合法な権益を擁護するための有効なプラットホームとする。

(6)我々は、香港・マカオ・台湾の投資政策の連続性・安定性を維持する

広範な香港・マカオ・台湾資本の企業は、改革・開事業の重要な参加者であり、貢献者であり、受益者でもある。我々は、香港・マカオ・台湾資本の企業の発展をこれまで通り支援する。外商投資法の関連法規の中で、香港・マカオ・台湾の投資について明確・具体的に規定しており、香港・マカオ・台湾の投資した企業の合法な権益を有効に保護するのみならず、より多くの発展のチャンスを与えなければならない。  

我々は、香港・マカオ・台湾の投資に対し、市場参入を一層緩和し、金融・専業サービス・ハイエンド製造業等分野の開放を拡大する。我々は、さらに内地と香港・マカオの人員の往来と生産要素の流動を円滑にする政策措置を不断に打ち出さなければならない。投資で事業を興し、学習・生活環境が不断に改善されるに伴い、香港・マカオ・台湾の同胞は国家の開放・発展の新たなチャンスをより好く共に享受することになる。

2.経済情勢

2018年、習近平同志を核心とする党中央の指導の下、全国人民の奮闘による勝利を経て、サプライサイド構造改革を主線とし、質の高い発展を推進し、多くの政策を併せ打ち出して中国経済の平穏な運営を維持した。2019年の全人代で審議・通過した「政府活動報告」の中で、我々は内外情勢について全面的な分析を進め、2019年の中国発展が直面する環境がより複雑でより峻厳であることを強調した。経済の下振れ圧力に耐え抜き、安定した健全な発展を維持するには、激戦を戦うための十分な準備を行い、関連対応措置を制定しなければならない。  

今年に入り、中国経済は安定的に運営され、かついくらかの積極的変化が出現し、市場の予想が改善している。1-2月期のデータを見ると、雇用・物価・国際収支等の主要経済指標は比較的平穏であり、固定資産投資は着実に反転上昇し、消費者の信頼指数、製造業の新規受注指数は顕著に高まり、資本市場の取引が活発となっている。とりわけ、3月に入り、1日平均の発電量・電力消費量の伸びが2ケタに達し、輸出入・貨物輸送の伸びが加速している。  

現在中国経済の安定した態勢にも、我々がこれまでに実施した預金準備率引下げ・減税等の政策措置と最近発したマクロ政策のシグナル効果が現れており、市場主体の活躍度が安定の中で上昇している。今年2月末M2は前年同期比8%増、社会資金調達規模残高は10.1%増と、大体ここ2年の実質水準に相当するものであり、我々は量的緩和をしていない。  

中国政府の予算内投資が全社会投資に占めるウエイトは6%前後に過ぎず、内需の伸びが依拠するものは億を上回る市場主体であり、その中には7000万の個人商工業者の投資・起業・発展と14憶人近い人口の消費需要・市場の潜在力がある。我々は、マクロ政策の方向を変えぬことを堅持し、経済の平穏な運営のために条件を創造している。  

指摘しておくべきは、2019年は不確定・不安定要因が顕著に増大し、外部の輸入性リスクが上昇し、困難・試練はなお低評価できず、経済成長率に毎月あるいは四半期の間で一定の幅の変動が出現することは排除できない、ということである。年間の経済運営が総体として合理的区間を維持するには、我々は戦略的不動力を維持し、同時に情勢の変化に応じて遅滞なく事前調整・微調整を行わなければならない。当然、経済運営に予想を超えた変化が出現すれば、より有力な対応措置を採用するが、我々は「バラマキ」式の強い刺激政策を実施しないし、大風呂敷・粗放な成長という旧い道を歩むことはなく、短期的成長を維持するために長期発展に損害を与えるような措置を採用することはない。  

我々は断固としてサプライサイド構造改革を主線とし、改革・開放に依拠してイノベーションを行い、市場主体の活力を奮い立たせ、内生的発展動力を増強し、下振れ圧力に耐え抜き、経済運営を合理的区間に維持する。中国経済を観察し、マクロ政策の方向を判断するには、時間軸を伸ばして眺め、年間・全体・趨勢を見なければならない。  

我々は政策の実施を強化し、約束した大規模減税・費用引下げ等の措置を必ず実現しなければならない。減税・費用引下げは、公平で恩恵が普く及び、直接・有効な改革措置であり、2019年に市場主体の活力を奮い立たせ、経済の下振れ圧力に対応する重要措置である。  

2019年、減税と社会保険料引下げ措置は、企業の負担を2兆元近く軽減できる。これは企業に対する重大な利益となるが、政府にとっては巨大な圧力となる。財政赤字が顕著に高まっていない情況の下、企業に割引なしに実際の優遇を与えることができるかどうかは、財政収支の構造調整の程度によって決まる。我々は、各レベル政府自身が節約し、執行では質素を守り、うわべを飾ることを極力戒め、一般支出を大幅に縮減し、遊休資産・資金を活性化し、増加した収入・圧縮した支出は、主として減税・費用引下げに用いて、これにより企業収益の向上と市場活力の増強を手に入れ、財源を開拓して支出を抑制し、企業を優遇し国民を豊かにする新たな路線を歩みだすよう要求する。  

ビジネス環境は生産力であり、競争力である。我々は、ビジネス環境の最適化という先手の策を打ち出し、市場参入のネガティブリストはできるだけ短くし、審査・許認可事項をできるだけ減らす。競争中立性の原則を実施し、公正な監督管理を強化し、各種市場主体の公平な競争を促進する。資金調達難・資金調達コスト高の問題緩和に力を入れ、資金調達状況を顕著に改善し、資金調達コストを顕著に低下させなければならない。  

我々は生態を最適化・刷新し、科学技術の下支え能力を強化し、伝統産業の改造・グレードアップと新興産業の発展を促進し、イノベーション・起業のためにより大きな舞台を創造・建設し、イノベーション・起業を不断に深く推し進め、新たな動力エネルギーの発展・壮大化を強く後押ししなければならない。

民生の悩みの種・閉塞箇所をしっかり把握し、民生の難題を打破・解決し、社会(民間)パワーを誘導してサービス業とりわけコミュニティ・サービス業を発展させ、消費の潜在力を奮い立たせ、人民の生活水準を高め、経済発展と民生改善の良性の循環を形成しなければならない。

これらの政策は、直接市場活力と社会の創造力を緊密につなげ、発展の大局にとって、当面のみならず長期にも恩恵をもたらし、不断に新たな起点の上で前進しなければならない。