止まらないコロナの蔓延

ブラジル経済動向レポート(2020年6月)

地域研究センター 近田 亮平

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貿易収支:6月の貿易収支は、輸出額がUS$179.12億(前月比▲0.1%、前年同月比▲0.8%)、輸入額がUS$104.49億(同▲22.0%、同▲19.8%)で、貿易収支はUS$74.63億(同+64.1%、同+48.7%)の黒字額だった。年初からの累計は輸出額がUS$1024.30億(前年同期比▲6.7%)、輸入額がUS$793.95億(同▲5.2%)で、貿易黒字額はUS$230.35億(同▲11.5%)だった。

表1 2020年6月の分野別輸出入

表1 2020年6月の分野別輸出入

(出所)経済省


表2 2020年6月の地域・国別輸出入

表2 2020年6月の地域・国別輸出入

(出所)経済省


物価:発表された5月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は▲0.38%(前月比▲0.07%p、前年同月比▲0.51%p)で、2カ月連続のマイナスとなるとともに1998年8月(▲0.51%)以降で最大の下げ幅を記録した。年初累計も▲0.16%(前年同期比▲2.38%p)とマイナスで、直近12カ月(年率)は1.88%(前月同期比▲0.52%p)だった。

分野別では、新型コロナウィルス(以下、コロナ)で外出や飲食店の営業が規制された影響から、2カ月連続で高騰していた飲食料品分野が5月は0.24%(前月比▲1.55%p、前年同月比+0.80%p)と小幅な伸びにとどまった。タマネギ(4月34.83%→5月30.08%)、ジャガイモ(同22.81 %→16.39%)、フェイジョン豆(carioca同17.29 %→8.66%)は前月に続き高い伸びとなったが、ニンジン(▲14.95%)や果物(▲2.10%)が大きく値下がりしたこともあり、家庭内での飲食料品(同2.24%→0.33%)は落ち着いた数値となった。また、それ以外の分野ではコロナの影響で消費が落ち込んだため、運輸交通(同▲2.66%→▲1.90%)、衣料(同0.10%→▲0.58%)、住宅(同▲0.10%→▲0.25%)、保健・個人ケア(同▲0.22%→▲0.10%)、個人消費(同▲0.14%→▲0.04%)の5分野でマイナスを記録した。一方、自宅で過ごす時間が多くなった影響もありテレビ・AV機器(4.57%)が大幅に値上がりしたため、家財分野(同▲1.37%→0.58%)は大きな伸びとなった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は17日、3.00%だったSelicを2.75%に引き下げることを全会一致で決定した(グラフ1)。今回で最低水準を再び更新し8回連続となったSelicの引き下げは、コロナ蔓延の影響から予想されていた。ただし、多くの市場関係者が0.50%p以下の引き下げを予測していたのに対して、それを上回る0.75%pの引き下げが2回連続で行われたため驚きをもって受け止められた。ブラジルでコロナの爆発的な感染拡大が止まらない一方、物価(IPCA)が2カ月連続でマイナスとなっている状況を鑑み、Copomは今後もSelicを引き下げる可能性に言及したが、利下げ幅は0.25%pに縮小されるとの見方が多くされている。

グラフ1 政策金利Selicの推移(2001年以降)

グラフ1 政策金利Selicの推移(2001年以降)

(出所)ブラジル中央銀行


為替市場:6月のドル・レアル為替相場は、ブラジルで止まらないコロナの蔓延やBolsonaro大統領と司法や議会との対立が続いたこともあり、ドル高レアル安が進んだ(グラフ2)。月の初旬、世界的な経済活動再開への期待などによる株価上昇や米国の雇用統計が予想ほど悪くなかったことから、リスクテイクの動きが強まりレアルが買われた。

しかし、その後はレアルが売られる展開となった。その要因としては、OECDがコロナの影響で今年の世界のGDP成長率が6%以上のマイナスになると予測したことや、世界各国が経済活動を再開するなかでコロナの第2波への懸念が高まったことなど、コロナをめぐる世界経済の状況が挙げられる。中央銀行の為替介入でレアル高に振れる場面もあったが、史上最低値を更新し続けている政策金利のSelicが3.00%から2.25%へと引き下げられ、ドルなどとの金利差がさらに縮小したこと、コロナの感染者数が100万人を超えたブラジルや米国で蔓延が止まらないこと、中央銀行がブラジルの2020年のGDP成長率予測を0%から▲6.4%へ大幅に下方修正したことなど、国内的な要素もレアル売りの材料となった。そして、月末は前月末比でドルが0.92%上昇し、月内のレアル最安値となるUS$1=R$ 5.4760(売値)で6月の取引を終えた。

グラフ2 2020年の通貨レアルの対ドル為替相場の推移

グラフ2 2020年の通貨レアルの対ドル為替相場の推移

(出所)ブラジル中央銀行


株式市場:6月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、新たな冷戦と呼ばれる米中の対立や米国での人種差別に対する抗議デモの拡散という懸念材料があるものの、コロナで停止していた経済活動再開やウィルス開発への期待から、月の初旬は右肩上がりで上昇した。20%程度が予想されていた米国の5月の失業率が13.3%だったことや、コロナ後を見据えた世界的な株価と原油価格が上昇したことも好感された。そして株価は8日に97,645pの月内最高値を記録した。

しかし月の半ば、コロナの影響で米国の今年のGDP成長率が6.5%のマイナスになるとの予測を金融当局が発表したことに加え、ブラジルでのコロナの死者数が4万人超の英国を抜いて世界第2位になるなど蔓延が止まらない状況を嫌気して下落。その後、米国の5月の小売売上高が17.7%で過去最大の伸びを記録したこと、大手通信アプリのWhatsAppが利用者数の多いブラジルで電子決済を可能にすると発表したこと、0.50%p以上の引き下げが予想されていた政策金利のSelicが0.75%p引き下げられたことなどから、株価は再び上昇した。ただし、WhatsAppによる電子決済がブラジルの中央銀行により差し止められたことで関連企業の株が大きく売れられたり、多くの市場関係者が▲6%台と予測するブラジルの2020年GDP成長率をIMFが▲9.1%としたため、株価は軟調な推移となった。そして、月末は前月末比で8.76%の上昇となる95,056pで6月の取引を終了した(グラフ3)。

グラフ3 2020年の株式相場(Bovespa指数)の推移

グラフ3 2020年の株式相場(Bovespa指数)の推移

(出所)サンパウロ株式市場