コロナ危機中で2大臣が去ったBolsonaro政権
ブラジル経済動向レポート(2020年4月)
地域研究センター 近田 亮平
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貿易収支:4月の貿易収支は、輸出額がUS$183.12億(前月比▲4.8%、前年同月比▲5.7%)、輸入額がUS$116.11億(同▲20.1%、同▲14.8%)で、貿易収支はUS$67.02億(同+42.2%、同+15.7%)の黒字額だった。年初からの累計は輸出額がUS$678.33億(前年同期比▲4.6%)、輸入額がUS$555.69億(同▲0.4%)で、貿易黒字額はUS$122.64億(同▲20.0%)だった。
なお、2020年4月からブラジル政府の貿易収支の発表形式が変更されたため、本レポートもそれを反映させ、貿易収支の概要を下記の如く表にまとめることにした。
表1 2020年4月の分野別輸出入(単位:百万米ドル)
(出所)経済省
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表2 2020年4月の地域・国別輸出入(単位:百万米ドル)
(出所)経済省
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物価:発表された3月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.07%(前月比▲0.18%p、前年同月比▲0.68%p)であった。また、年初累計は0.53%(前年同期比▲0.98%p)、直近12カ月(年率)は3.30%(前月同期比▲0.71%p)だった。
分野別では、飲食料品分野が1.13%(前月比+1.02%p、前年同月比▲0.24%p)と急騰した。消費量の多い牛肉(2月▲3.53%→3月▲0.30%)は前月に続き値下がりしたが、ニンジン(同19.83%→20.39%)とタマネギ(20.31%)が20%超、トマト(同18.86%→15.74%)が15%超も値上がりするなど、全体として高い伸びとなった。ブラジルでも新型コロナウィルスの感染が拡大し、多くの市民が外出を自粛したことにより、家庭内での飲食料品(同0.06%→1.40%)の需要が高まったことが影響した。一方、新型コロナウィルスをめぐる外出自粛で消費が落ち込んだため、家財分野(同▲0.08%→▲1.08%)、運輸交通分野(同▲0.23%→▲0.90%)、個人消費分野(同0.31%→▲0.23%)の3分野ではマイナスを記録し、その他の分野も低い伸びとなった。
金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、4月は開催されなかった。次回のCopomは5月5日と6日に開催予定。
為替市場:4月のドル・レアル為替相場は、前月までと同様の新型コロナウィルスに加えBolsonaro政権をめぐる混乱に影響を受けるかたちとなった(グラフ1)。月のはじめ、米国の雇用保険申請件数が2週間で1000万件を超え過去最多となったり3月の就業者数が9年半ぶりのマイナスとなる▲70万人超に達したり、新型コロナウィルスの世界経済への影響懸念が高まり、安定通貨のドルが買われた。しかしその後、リスク回避で買われていたドルを売る動きや、米国の金融当局(FRB)が発表した新型コロナウィルスをめぐる新たな経済支援策が好感され、リスクテイクの動きからレアル高が進んだ。
月の半ば、新型コロナウィルス対策をめぐり経済優先のBolsonaro大統領とそれに反対する保健大臣との間で対立が深まるとともに、国内外でBolsonaro大統領への批判が高まる一方で経済活動の再開を求めるデモがサンパウロで行われるなど、国内の政治経済的な混乱が嫌気されレアルが売られる展開となった。新型コロナウィルスの感染拡大により世界中で需要が減少し原油価格が大幅に下落したことも、産油国ブラジルの通貨レアルが売られる要因となった。また、5月5日と6日に開催予定のCopom(通貨政策委員会)で政策金利のSelicが引き下げられ、米国などとの金利差が更に縮小するとの見方も、レアル安局面で材料視された。さらに、政権内で重要なポストであり国民からの人気が高いMoro法務・公安大臣とBolsonaro大統領の関係が悪化し、同大臣が辞任の可能性を示唆。その後、Bolsonaro大統領が自身の息子たちの疑惑捜査に政治介入したことに反発しMoro大臣が辞任する事態となり、Bolsonaro大統領の弾劾裁判を求める動きが強まったことで、24日にUS$1=R$5.6510(売値)のレアル最安値を記録した。
ただし月の下旬、中央銀行が連日為替介入を行ったことに加え、欧州を中心に一部の国で外出規制の緩和や経済活動の再開が段階的に行われ始めたことを好感し、大幅安のレアルを買う動きが強まった。そして、月末は前月末比でドルが4.39%の上昇となるUS$1=R$ 5.4270(売値)で4月の取引を終えた。
グラフ1 通貨レアルの対ドル為替相場の推移(2019年以降)
(出所)ブラジル中央銀行
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株式市場:4月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は月の前半、新型コロナウィルスの感染拡大による石油減産に関して、サウジアラビアとロシアの間の対立が収まるとの見方や、米国で新型コロナウィルスの感染が緩慢化する兆しが見られ株価が反発したことで上昇。一方、米国の就業者数が3月に70万人以上も減少したことや、ブラジルでの新型コロナウィルスの感染拡大が強まったことで下落。また、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟国の協調減産の合意により、Petrobrasなどのエネルギー関連株が売られた。
月の半ば、新型コロナウィルス対策として外出自粛などを保健大臣が呼び掛ける一方、Bolsonaro大統領は規制より経済の優先など対策に消極的な言動を繰り返すなか、ブラジルでの感染・死者数が急増。最終的に保健大臣が解任される事態となり、株価は下落した。その後、米国のTrump大統領が新型コロナウィルスで制限されている経済活動を段階的に再開させる指針を発表し、楽観的観測が高まり米国株が上昇。ブラジルでも大統領府や経済の中心地サンパウロ州が経済再開策を発表し、株価は値を上げた。しかし、Bolsonaro大統領とMoro法務・公安大臣の関係悪化が顕在化したことに加え、新型コロナウィルス対策をめぐりBolsonaro大統領が自身の検査結果を公表せず、感染拡大で国家的な危機のなか軍事政権を称賛する支持者集会を開催したことなどで、議会や司法から弾劾裁判を起こされる可能性が高まった。そして、自身の息子たちの疑惑捜査に対し政治的に介入すべく、Bolsonaro大統領が連邦警察長官の交代を決めたことが決定打となり、政権の中枢であるMoro大臣が辞任を表明した。国難への対策に消極的でありコロナ危機の中で混乱を招くBolsonaro大統領に対し国民からの反感が強まるとともに、同大統領の行為は犯罪に当たるとして最高裁が捜査を承認する事態となり、株価は下落した。
政権基盤の脆弱化が懸念され、経済運営を一身に担っているGuedes経済大臣が次に政権を離れるのではと憶測されるなか、Bolsonaro大統領が「ブラジルの経済を決める人間は一人だけで、それはGuedesだ」と明言。このことが好感され、25日に月内最高値となる83,171pまで上昇した。ただし、新型コロナウィルスに関してブラジルの新規感染者が米国に次いで2番目に多くなるなど感染拡大が悪化し、このことを嫌気して株価は再び下落。それでも月末は前月末比で10.25%の上昇となる80,506pで4月の取引を終了した(グラフ2)。
ブラジルでは新型コロナウィルスの感染拡大が顕著になるなか、言動などに批判の高まるBolsonaro大統領との対立で大臣が2名も政権を去ることとなった。このような状況は、ブラジルのカントリー・リスクの動きにも表れている(グラフ3)。
グラフ2 株式相場(Bovespa指数)の推移(2019年以降)
(出所)サンパウロ株式市場
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グラフ3 ブラジルのカントリー・リスクの推移(2019年以降)
(出所)J.P.Morgan
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