新型コロナで株価急落・通貨最安値

ブラジル経済動向レポート(2020年2月)

地域研究センター 近田 亮平

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貿易収支:2月の貿易収支は、輸出額がUS$163.55億(前月比+13.3%、前年同月比+2.9%)、輸入額がUS$132.59億(同▲18.0%、同+5.0%)で、貿易収支はUS$30.96億(同+278.4%、同▲5.5%)となり前月の赤字から黒字へ転じた。年初からの累計は輸出額がUS$307.95億(前年同期比▲9.4%)、輸入額がUS$294.34億(同+1.5%)で、貿易黒字額はUS$13.61億(同▲72.6%)だった。

輸出に関しては、一次産品がUS$90.21億(1日平均額の前年同月比+26.2%)、半製品がUS$18.67億(同+11.4%)、完成品がUS$54.67億(同+33.4%)であった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$47.24億、同+20.9%)、2位が米国(US$17.09億、同▲9.7%)、3位がアルゼンチン(US$8.03億、同+4.1%)、4位がオランダ(US$7.60億)、5位がシンガポール(US$5.84億)だった。輸出品目に関して、増加率ではアルミニウム(同+6,274.7%、US$0.23億)が突出して大きく、減少率では半加工金(同▲38.6%、US$1.07億)が30%超で顕著だった。輸出額(「その他」を除く)では、原油(US$21.97億、同+63.5%)、大豆(US$17.83億、同+5.7%)、鉄鉱石(US$15.13億、同+9.3%)の一次産品の3品目がUS$10億以上の取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$25.16億(1日平均額の前年同月比+102.2%)、原料・中間財がUS$74.30億(同+3.2%)、耐久消費財がUS$33.6億(同▲11.6%)、非・半耐久消費財がUS$15.03億(同+5.9%)、基礎燃料がUS$6.41億(同+13.5%)、精製燃料がUS$8.33億(同+51.4%)だった。主要輸入元は、1位が米国(US$33.25億、同+77.8%)、2位が中国(香港とマカオを含む)(US$24.18億、同+0.7%)、3位がアルゼンチン(US$7.58億、同▲6.2%)、4位がドイツ(US$6.52億)、5位がインド(US$3.36億)であった。

物価:発表された1月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.21%(前月比▲0.94%p、前年同月比▲0.11%p)で、前月に高騰した数値(2019年12月1.15%)が落ち着いたものに戻った。直近12カ月(年率)は4.19%(前月比▲0.12%p)だった。

分野別では、前月3.38%と急騰した飲食料品分野は0.39%(前月比▲2.99%p、前年同月比▲0.51%p)と伸びが大幅に低下した。クリスマス需要で12月に高騰した牛肉(12月18.06%→1月4.03%)やトマト(同21.69%→13.72%)は、数値が低下したものの依然高い伸びとなった。また、管理費(1.39%)と家賃(0.61%)の値上がりした住宅分野(12月▲0.82%→1月0.55%)が、プラスに転じるとともに分野別で最大の伸びを記録した。ただし、衣料分野(同0.00%→▲0.48%)、保健・個人ケア分野(同0.42%→▲0.32%)、家財分野(同▲0.48%→▲0.07%)の3分野がマイナスとなったことに加え、前月高い伸びだった運輸交通分野(同1.54%→0.32%)が大幅に低下するなど、全体的に落ち着いた数値となった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は5日、4.50%だったSelicを4.25%に引き下げることを全会一致で決定し、12月に開催された前回のCopomに続きSelic創設(1996年)以来の最低値を再び更新した。今回で5回連続となったSelicの引き下げは、前回までの0.50%pより小幅な0.25%pという引き下げ幅も含め、大方の予想どおりであった。ブラジル経済は、直近のGDPや雇用統計などが景気の回復傾向を示すものだった一方、鉱工業生産指数は2019年12月が前月および前年同月比とも2カ月連続のマイナスで、過去2年がプラスだった通年も2019年は▲1.1%に落ち込んだ。また、中国発の新型コロナウィルスが世界経済へ与える影響も懸念されることから、CopomはSelicの引き下げサイクルの終了を示唆しているが、政策金利が更に若干引き下げられる可能性も考えられる。

為替市場:2月のドル・レアル為替相場は、新型コロナウィルスの感染拡大と世界経済への影響に対する懸念から、ほぼ右肩上がりでドル高レアル安が進行した(グラフ1)。また、ブラジルの政策金利が史上最低値をさらに更新する4.25%へ引き下げられ、米国などとの金利差が縮小したことや、12月の小売売上高が前月比で▲0.1%(建設資材と自動車を含めると▲0.8%)と落ち込み、高まっていた景気回復への期待が後退したことも、レアル売りの要因となった。レアルが創設以来の最安値を連日更新していた状況について、Guedes経済大臣が「皆にとって良いこと」と発言したことも、ドル高レアル安傾向に拍車をかけた。

ただし月の半ば、日中の取引でUS$1=R$4.38に達したところで中央銀行が為替介入を行ったことに加え、Bolsonaro大統領が「ドルは少し高い」と発言したことで、一時レアルが買われる場面も見られた。しかしその後、米国Apple社が新型コロナウィルスの影響による中国での売り上げの落ち込みで業績見通しを下方修正したことや、中国だけでなく日本や韓国でも新型コロナウィルスの感染が拡大したことで、安全通貨のドルを買う動きが強まった。そして、26日にカーニバル休暇が明けた後、新型コロナウィルスの感染がイタリアをはじめとするヨーロッパや中東でも拡大し、ついにブラジルでも確認された。これらの影響から月末は、ドルが前月末比5.37%の上昇となるUS$1=R$ 4.4987(売値)で、1月に続きレアル最安値を記録するレベルで2月の取引を終えた。

グラフ1 通貨レアルの対ドル為替相場の推移(2019年以降)

グラフ1 通貨レアルの対ドル為替相場の推移(2019年以降)

(出所)ブラジル中央銀行


株式市場:2月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、月の半ば過ぎまでは狭いレンジでの取引となった。5日に決定された政策金利Selicが0.25%引き下げられたことや、新型コロナウィルスに対して米国政府が厳格な対策を講じたこともあり米国株が続伸した影響から、月のはじめ株価は上昇した。しかし、新型コロナウィルスをめぐる状況が悪化の一途をたどり、世界経済への影響が予想より大きくなるとの懸念が高まり、実際にブラジルの主要輸出品であるコモディティの国際価格が値下がりしたため、株価は下落。また、経済の中心都市サンパウロで2月としては1983年以来となる大雨が降り、主要道路など各所が冠水し経済活動が麻痺したことも材料視された。

月の半ばになると、新型コロナウィルスに関して中国やWHOが発表する情報の内容に振り回されるかたちで株価は上下する展開となった。ただし、新型コロナウィルスの影響で米国Apple社が業績見通しを下方修正するなど実際に経済的損失が出始めたり、韓国でも感染が急速に拡大したりするなど、状況は日を追うごとに悪化した。また、ブラジルの中央銀行版GDPであるIBC-Brの12月の数値が前月比▲0.27%で景気減速を示すものだったことも、株価の下落要因となった。そして、カーニバル休暇が明けた26日、新型コロナウィルスをめぐる世界の株価下落に同調するかたちで、ブラジルのBovespa指数は2019年10月以来のレベルとなる102,984pまで一日で7%も急落した。月末は若干値を戻したものの、前月末比▲8.43%もの下落となる104,172pで2月の取引を終了した(グラフ2)。

また、2月のブラジルのカントリー・リスクはカーニバル前までは低下傾向にあった。しかし、休暇明けにブラジルでも新型コロナウィルスの感染が確認されると、一気に上昇へ転じることとなった(グラフ3)。

グラフ2 株式相場(Bovespa指数)の推移(2019年以降)

グラフ2 株式相場(Bovespa指数)の推移(2019年以降)

(出所)サンパウロ株式市場


グラフ3 ブラジルのカントリー・リスクの推移(2019年以降)

グラフ3 ブラジルのカントリー・リスクの推移(2019年以降)

(出所)J.P.Morgan