海外要因による株・通貨レアルの同時安
ブラジル経済動向レポート(2020年1月)
地域研究センター 近田 亮平
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貿易収支:1月の貿易収支は、輸出額がUS$144.30億(前月比▲20.5%、前年同月比▲20.2%)、輸入額がUS$161.75億(同+28.8%、同▲1.3%)であった。この結果、貿易収支はUS$▲17.45億(同▲131.2%、同▲202.8%)となり、貿易収支は2015年3月(US$▲28.42億)以来の赤字を記録した。
輸出に関しては、一次産品がUS$71.78億(1日平均額の前年同月比▲11.9%)、半製品がUS$21.60億(同▲25.2%)、完成品がUS$50.91億(同▲27.7%)だった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$36.72億、同▲9.3%)、2位が米国(US$16.17億、同▲29.0%)、3位がアルゼンチン(US$6.80億、同+0.6%)、4位がオランダ(US$5.32億)、5位がシンガポール(US$3.88億)であった。輸出品目に関して、増加率では非環式アルコール(同+712.7%、US$1.11億)と綿花(同+138.9%、US$48.5億)が100%以上、減少率ではラミネート鋼板(同▲61.5%、US$0.86億)が60%以上で顕著だった。輸出額(「その他」を除く)では、鉄鉱石(US$17.39億、同+1.5%)と原油(US$14.37億、同▲29.2%)の一次産品の2品目がUS$10億以上の取引額を計上した。
一方の輸入は、資本財がUS$38.81億(1日平均額の前年同月比+6.6%)、原料・中間財がUS$85.08億(同▲3.4%)、耐久消費財がUS$4.12億(同▲5.3%)、非・半耐久消費財がUS$17.99億(同+10.1%)、基礎燃料がUS$5.04億(同▲43.4%)、精製燃料がUS$10.66億(同+10.7%)だった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$51.52億、同+0.1%)、2位が米国(US$24.64億、同+8.6%)、3位がドイツ(US$10.18億)、4位がアルゼンチン(US$6.62億、同▲16.8%)、5位がインド(US$4.46億)であった。
物価:発表された2019年12月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は2019年で最も高い1.15%(前月比+0.64%p、前年同月比+1.00%p)で(グラフ1)、12月として2002年(2.10%)に次ぐ大きな伸びとなった。この結果、2019年の物価は4.31%(前年比+0.56%p)、直近12カ月では前月比+1.04%となり、政府目標の中心値4.25%を若干上回ったものの、上下幅±1.5%pの上限5.75%は下回った(グラフ2)。
グラフ1 2019年の月間IPCAと飲食料品分野の推移(2018年との比較)
(出所)IBGE
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グラフ2 過去10年間の年間IPCAの推移
(出所)IBGE (注)目標値は2018年までが中心値4.5%で上下幅±2%p、2019年は中心値4.25%で上下幅±1.5%。
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分野別では、飲食料品分野が3.38%(前月比+2.66%p、前年同月比+2.94%p)と高騰し、2002年12月(3.91%)以降で最大の伸びを記録した(グラフ3)。消費量の多い牛肉(11月8.09%→12月18.06%)のほか、フェイジョン豆(carioca:23.35%)とトマト(21.69%)が20%以上も上昇し、クリスマス需要で丸鶏(5.08%)や魚(2.37%)の値上がりも顕著だった。また、燃料代(3.57%)が値上がりした運輸交通分野(11月0.30%→12月1.54%)も大きい伸びとなったことに加え、前月マイナスだった通信分野(同▲0.02%→0.66%)がプラスに転じたことや、前月に続き個人消費部門(同1.24%→0.92%)が高かったことが全体の物価に影響した。ただし、家財分野(同▲0.36%→▲0.48%)は12月も下落し、電気料金(▲4.24%)の値下がりした住宅分野(同0.71%→▲0.82%)はマイナスを記録した。
2019年通年では、飲食料品分野が6.37%(前年比2.33%p)で、日常的に食されるフェイジョン豆(carioca:2018年4.55%→2019年55.99%)、ニンニク(同▲10.81%→33.50%)、牛肉(同2.25%→32.40%)の伸びが顕著だった一方、トマト(同71.76%→▲30.45%)やニンジン(同12.59%→▲14.01%)は前年の高騰から一転して大幅に下落した。また、健康・個人ケア分野(同3.95%→5.41%)が飲食料品分野に次ぐ高い伸びとなり、教育分野(同5.32%→4.75%)や個人消費分野(同2.98%→4.67%)も上昇が顕著だったなか、家財分野(同3.74%→▲0.36%)が唯一マイナスを記録した。
グラフ3 2001年以降の月間IPCAと飲食料品分野の推移
(出所)IBGE
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金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、1月は開催されなかった。2020年最初となる次回のCopomは2月4日と5日に開催予定。
為替市場:1月のドル・レアル為替相場は、2019年末に顕著になったドル安レアル高の流れを引き継ぎレアル高で始まったが、その後は主に海外要因によりほぼ右肩上がりでドル高レアル安が進んだ。
月の前半、米国の空爆でイランの司令官が殺害され、米国とイランの対立が激化し中東での緊迫が一気に高まったことで有事のドル買いの動きが強まった。また、米中の通商協議で予定されている第一段階の合意への期待および実際に署名がなされたこともドル高要因となった。ブラジル国内に関しても、最近好調だった鉱工業生産指数が11月は前月比▲1.7%(過去2カ月1%以上のプラス)、前年同月比▲1.2%(過去3カ月プラス)と落ち込んだためレアル売りとなった。
月の後半、中国の2019年のGDP成長率が6.1%にとどまったものの、5%台に落ち込むか注目されていた2019年第4四半期GDP成長率が6.0%だったことで、リスクテイクによりレアルが買われる場面も見られた。しかし、Guedes経済大臣が低金利とドル高はブラジル経済の新たな特徴だと述べたことがドル高容認発言と捉えられ、再びドル高傾向が強まった。そして、中国で新型肺炎が発生し、周辺諸国だけでなく米国でも感染例が確認され、春節を機に世界中に拡散するとの懸念から安全通貨のドルが買われる展開となった。中国政府が新型肺炎への対策を発表したことで安心感が広がり、一時ドルを売る動きも見られた。しかし、中国政府が講じた対策は後手に回り中国国内での新型肺炎の死者および感染者数が急増したことや、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言するなど、新型肺炎をめぐる事態の深刻化とともにドルは上昇した。そして、月末にドルは前月末比で5.93%上昇し、レアル創設以来の最安値を更新するUS$1=R$ 4.2695(売値)を記録して1月の取引を終えた。
株式市場:1月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、ブラジル経済の今後や米中の通商協議への期待感から、大幅な上昇で2020年の取引を開始した。しかし、その後は為替相場と同様、主に海外要因により値を下げる展開となった。
月の前半、米国の空爆でイランの英雄的な司令官が死亡したことをきっかけに、イランが報復姿勢を鮮明にする一方で米国のTrump大統領も対抗措置を講ずると発言。中東情勢をめぐる緊迫が高まり原油の国際価格が上昇したことも嫌気され、株価は下落した。ブラジル国内に関しても、最近発表された経済指標の多くが景気回復を示すものだったが、11月の鉱工業生産指数は予想に反して前月と前年同月比ともマイナスだったことが材料視された。
月の後半、年末年始の休暇から戻ったGuedes経済大臣が行政および税制改革の実現に強い意欲を示したことや、中央銀行版GDPであるIBC-Brの10月の数値が前月比0.18%と予想より良かったことを受け、続落していたブラジルの株を買う動きが強まった。また、米国で株価が最高値を更新したことや、中国の2019年のGDP成長率が2年続けて前年の伸びを下回ったものの、予想より悪くなかったことも好感された。
しかし、ブラジルの11月の小売売上高が予想を下回り、期待されていた景気回復の足取りが予想より鈍いとの懸念や、2019年1月に鉱山ダムが決壊し多くの死者と行方不明者をはじめ甚大な被害を出した鉄鋼大手Vale社に対して、州検察が同社の元CEOら16人を殺人罪で起訴し同社株が売られたことが、株価全体の値を下げる要因となった。そして、中国で新型肺炎が発生し中国以外の国にも感染が拡大し、世界経済に悪影響を及ぼす可能性が高まったことで、株価は下落傾向を強めた。中国国内で流行し始めた新型肺炎に対して中国政府がヒトの移動制限などの対策を発表し、これを好感して株価は一時上昇する場面も見られた。しかし、中国政府の対策とは裏腹に新型肺炎が中国国内で蔓延し、世界への感染拡大と経済への悪影響が現実味を帯びるにつれ、世界的に株価は大幅下落し、ブラジルの株価も月末に月内最安値となる113,761p(前月末比▲6.85%)まで値を下げ1月の取引を終了した。