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予想を上回る2019年第3四半期GDP

ブラジル経済動向レポート(2019年11月)

地域研究センター 近田 亮平

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第3四半期GDP:2019年第3四半期のGDPが12月3日に発表され、前期比0.6%、前年同期比1.2%、年初累計比1.0%、直近4四半期比1.0%、名目額がR$1兆8421.10億であった(グラフ1)。これらの数値は事前予想を上回るものだったため、通年のGDB成長率予測に関して、0.8%前後だった2019年を1%超へと上方修正する動きもあり、2020年は2%強とする市場関係者が多く見られた。ブラジル経済の回復ペースは依然緩やかだが、政策金利(Selic)が史上最低値を更新するかたちで引き下げられてきた効果が表れたと考えられ、景気全体の動向から遅行する傾向のある雇用指標にも最近は改善の兆しが見られている。なお今回、GDP成長率は2018年通年が1.1%から1.3%、2019年第1四半期が0.5%から0.6%、同第2四半期が1.0%から1.1%へとそれぞれ上方修正された。

グラフ1 四半期GDPの推移

グラフ1 四半期GDPの推移

(出所)IBGE. (注)GDPの成長率(%)は左軸、名目額(R$)は右軸(Bは10億)。


第3四半期GDPの需要面を見ると、勤続期間保障基金(FGTS)の引き出しなどの政府の景気対策が消費を後押しした影響から、家計支出(前期比0.8%、前年同期比1.9%)が今期も堅調であった。緊縮財政が試みられている政府支出(同▲0.4%、同▲1.4%)はマイナスだったが、政策金利の低下が功を奏したこともあり、投資を意味する総固定資本形成(同2.0%、同2.9%)は高い伸びとなった。為替相場がドル高レアル安傾向であるにもかかわらずコモディティ価格の下落などにより輸出(同▲2.8%、同▲5.5%)が大きく落ち込んだ一方、輸入(同2.9%、同2.2%)は高い成長率となった。

供給面では、前期比マイナスだった農牧業(同1.3%、同2.1%)がプラス成長を記録した。工業(同0.8%、同1.0%)に関しては、今年1月の鉱山ダム決壊の影響により大きく落ち込んだ反動で鉱業(同12.0%、同4.0%)が大幅なプラスに転じ、建設業(同1.3%、同4.4%)は2期連続で高い伸びだったが、前期プラスだった製造業(同▲1.0%、同▲0.5%)は再びマイナスとなった。また、金融保険サービス(同1.2%、同1.3%)、商業(同1.1%、同2.4%)、情報通信(同1.1%、同4.2%)が相対的に高い伸びだったため、サービス業(同0.4%、同1.0%)は今期も堅調さを維持した(グラフ2と3)。

グラフ2  2019年第3四半期GDPの受給部門の概要

グラフ2  2019年第3四半期GDPの受給部門の概要

(出所)IBGE.


グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

(出所)IBGE.


貿易収支:11月の貿易収支(速報値)は、輸出額がUS$175.96億(前月比▲10.1%、前年同月比▲15.9%)、輸入額がUS$141.69億(同▲16.8%、同▲16.0%)で、貿易収支はUS$34.28億(同+34.4%、同▲15.6%)の黒字額を計上した。また、年初からの累計は輸出額がUS$2058.63億(前年同期比▲6.4%)、輸入額がUS$1647.83億(同▲2.1%)で、貿易黒字額はUS$410.79億(同▲20.5%)だった。

輸出に関しては、一次産品がUS$89.92億(一日平均額で前年同月比▲9.5%)、半製品がUS$23.33億(同▲9.2%)、完成品がUS$62.71億(同▲25.6%)だった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$52.45億、同▲11.0%)、2位が米国(US$23.64億、同▲4.7%)、3位がオランダ(US$8.12億)、4位がアルゼンチン(US$6.97億、同▲25.5%)、5位が日本(US$4.43億、同+38.3%)であった。輸出品目に関して、増加率ではオレンジジュース(同+229.0%、US$1.16億)、航空機(同+160.8%、US$3.72億)、アルミニウム(同+100.8%、US$0.36億)が100%超を記録し、減少率では原油(同▲46.1%、US$11.24億)が40%超で顕著だった。輸出額(「その他」を除く)では、大豆(US$18.94億、同▲0.2%)、鉄鉱石(US$17.76億、同▲4.7%)、および、前述の原油の一次産品3品目がUS$10億以上の取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$17.79億(一日平均額で前年同月比▲54.2%)、原料・中間財がUS$81.81億(同▲9.7%)、耐久消費財がUS$4.20億(同▲10.8%)、非・半耐久消費財がUS$16.79億(同+3.6%)、基礎燃料がUS$7.51億(同+3.1%)、精製燃料がUS$13.54億(同+25.5%)だった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$26.34億、同▲5.3%)、2位が米国(US$26.02億、同▲0.8%)、3位がアルゼンチン(US$8.54億、同▲8.1%)、4位がドイツ(US$7.91億)、5位がインド(US$4.03億)であった。

物価:発表された10月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.10%(前月比+0.14%p、前年同月比▲0.35%p)だった。年初累計は前年同期比が5カ月連続でマイナスの2.60%(前年同期比▲1.21%p)、直近12カ月(年率)は2.54%(前月比▲0.35%p)で2017年9月(2.54%)と同じ低いレベルを記録した。

分野別では、飲食料品分野が0.05%(前月比+0.48%p、前年同月比▲0.54%p)で、タマネギ(9月▲9.89%→10月▲20.84%)とジャガイモ(同▲8.42%→▲9.06%)が前月に続き大幅に値を下げた一方、牛肉(同0.25%→1.77%)は大きく値上がりした。また、衣料分野(同0.27%→0.63%)、燃料代(1.38%)の値上がりした運輸交通分野(同0.00%→0.45%)、医療・個人ケア分野(同0.58%→0.40%)で伸びが顕著だった。一方、電気料金(▲3.22%)が大きく下落した住宅分野(同0.02%→▲0.61%)と通信分野(同▲0.01%→▲0.01%)ではマイナスを記録した。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、11月は開催されなかった。2019年最後となる次回のCopomは12月10日と11日に開催予定。

為替市場:11月のドル・レアル為替相場は、最近ブラジルで政策金利Selicが史上最低値を更新して引き下げられ、他国の金利との差が縮小しレアルが売られやすい状況となっているなか、右肩上がりでドル高レアル安が進行し1994年の通貨創設以来のレアル最安値を更新した。

月のはじめ、10月の中国の製造業購買担当者景気指数や米国の雇用統計が好調だったことを受け、リスクテイクの動きが強まりレアル高に振れたが、その後は連日レアルが売られる展開となった。まず、6日に行われた石油採掘権の大規模な入札に関して、R$1000億超での落札が期待されていたがR$700億と低調だったことが材料視された。そして7日には、裁判制度において2審で有罪の場合は収監される点に対して最高裁が違憲との判断を下したため、2018年4月から収監されていた元与党で左派の労働者党(PT)のLula元大統領が釈放されることとなった。Lulaは選挙に出馬することはできないが、Lulaの釈放により市場経済に積極的ではない左派勢力の結束や再興の可能性が高まりレアルは大きく売られた。また、チリの反政府デモが収束しなかったりボリビアのMorales大統領が辞任しメキシコへ亡命したり、南米で政治的な混乱が続発したことも、レアル売りの材料となった。

さらに、「第1弾の合意」をめぐる米中の通商協議が難航しているとの見方が強まったことや、Guedes経済大臣が推進する行政改革に関してBolsonaro大統領が消極的であると発言したことにより、レアルは終値で初めてUS$1=R$4.2を上回るレベルを記録した。その後も、10月の経常収支が▲US$79億で今年3番目に大きいマイナスだったことや、為替相場の傾向は更なるドル高レアル安であるとGuedes経済大臣が発言したたため、27日にUS$1=R$ 4.2602(売値)までレアル安が進んだ。月末は、中央銀行が為替介入を行った影響からレアルが若干値を戻したものの、ドルが前月末比+5.49%の上昇となるUS$1=R$ 4.2240(売値)で11月の取引を終えた。

株式市場:11月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、米国の10月の雇用統計が予想より良かったことや、前年同月比で3カ月連続マイナスだったブラジルの9月の鉱工業生産指数が1.1%とプラスに転じたことから、値を上げて始まった。そして、米中両国の当局者が通商協議の部分的合意実現の可能性に言及したことや、Bolsonaro政権が発表した政府財政のあり方などの経済改革案への期待感により、7日に109,581pの史上最高値を更新した。

しかし、6日に行われたリオデジャネイロ沖の海底油田の採掘権をめぐる入札が、外資系企業は参加せず実質的にPetrobrasのみによる落札となり、政府財政にとって期待していた海外からの投資を獲得できなかったため、株価は下落した。月の半ば、米中が追加関税の段階的な撤廃で合意したことへの好感や、石油採掘権に関する大規模入札は期待を下回ったが独占的に落札したPetrobras株が原油の国際価格の上昇もあり買われたため、株価は上昇する場面も見られた。しかし、最高裁の判断により収監中だったLula元大統領が580日ぶりに釈放され、Bolsonaro政権を厳しく批判する演説を行った一方、Bolsonaro大統領もLulaを“悪党”と称するなど対決色を露わにしたため、ブラジルで政治的な分極化が進むことへの懸念が高まった。また、10月末に発生したチリでの抗議デモが継続していることやボリビアでMorales大統領が辞任し国が混乱するなど、南米での政治をめぐる不透明感の高まりを受け、19日には105,864pの月内最安値を記録した。

その後、9月の中央銀行版GDP(IBC-Br)が前月比0.44%で予想を上回るプラス成長だったことや、正規雇用数(新規雇用数マイナス失業者数)の10月が約7.1万人、年初累計が2014年以降で最多となり、雇用状況の改善が見られていることで株価は再び上昇した。しかし、為替相場が通貨創設以来のレアル安となっていることを嫌気し株価は若干値を下げ、月末は前月末比+0.95%の上昇となる108,233pで11月の取引を終了した。