予想に反してプラスの第2四半期GDPだが

ブラジル経済動向レポート(2019年8月)

海外調査員(サンパウロ大学客員教授)近田 亮平

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第2四半期GDP:2019年第2四半期のGDPが発表され、前期比0.4%、前年同期比1.0%、年初累計(上半期)比0.7%、直近4四半期比1.0%、総額(名目)がR$1兆7803億だった(グラフ1)。前期比の成長率に関して第1四半期がマイナスだったため、リセッションを意味する2四半期連続のマイナスになることも懸念されていたが、予想に反して0.4%のプラスを記録した。2019年通年のGDP成長率について、今回の第2四半期GDPの数値を受け若干上方修正する動きも見られたが、景気回復の足取りは依然として鈍いため、大方の予測は0.8%台となっている。なお今回、GDP成長率に関して2019年の第1四半期が▲0.2%→▲0.1%、2018年の第2四半期が0.0%→▲0.1%など一部で修正が行われた。

グラフ1 四半期GDPの推移

グラフ1 四半期GDPの推移

(出所)IBGE (注)成長率は左軸、総額は右軸(Bは10億)。


第2四半期GDPの需給に関して(グラフ2と3)需要面を見ると、投資を示す総固定資本形成(前期比3.2%、前年同期比5.2%)が高い伸びとなったことは今後の景気回復にとって明るい材料であり、家計支出(同0.3%、同1.6%)も堅調な数値であった。ただし、財政支出の削減を行っている政府支出(同▲1.0%、同▲0.7%)は前期比と前年同期比ともマイナスだった。また、輸出(同▲1.6%、同1.8%)は昨年のトラック運転手のストライキによる道路封鎖との関連から前年同期比はプラスだったが、前期比ではマイナスの落ち込みとなった。一方、輸入(同1.0%、同4.7%)は相対的に好調だった。

供給面では、農牧業(同▲0.4%、同0.4%)が昨年5月の道路封鎖による物流の麻痺から前年同期比では回復したが、前期比ではマイナスとなった。今年1月にミナスジェライス州で鉱山ダムが決壊し甚大な損害を出した鉱業(同▲3.8%、同▲9.4%)が大幅なマイナスとなったが、製造業(同2.0%、同1.6%)と建設業(同1.9%、同2.0%)が好調だったため、工業(同0.7%、同0.3%)はマイナスからプラス成長へ転じた。また、商業(同0.7%、同2.1%)や情報サービス(同0.5%、同3.0%)が好調だったサービス業(同0.3%、同1.2%)は堅調な推移となった。

グラフ2  2019年第2四半期GDPの受給部門の概要

グラフ2  2019年第2四半期GDPの受給部門の概要

(出所)IBGE


グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

(出所)IBGE


2019年上半期のGDP成長率は前年同期比0.7%で、5期連続のプラスではあるがその中では2番目に低い数値となった(グラフ4)。内訳をみると需要面は家計支出(同1.5%)、政府支出(同▲0.3%)、総固定資本形成(同3.1%)、輸出(同1.4%)、輸入(同1.0%)であった。供給面は農牧業(同0.1%)、工業(同▲0.4%)、サービス業(同1.2%)だった。

グラフ4 上下半期GDP(前年同期比)の推移:2010年以降(過去10年間)

グラフ4 上下半期GDP(前年同期比)の推移:2010年以降(過去10年間)

(出所)IBGE


貿易収支:8月の貿易収支は、輸出額がUS$188.53億(前月比▲6.0%、前年同月比▲12.7%)、輸入額がUS$155.69億(同▲12.3%、同▲17.1%)で、第2四半期GDPは予想に反してプラスだったが、輸出入ともに金額が前期および前年同期に比べマイナスだった。ただ、貿易収支はUS$32.89億(同+43.2%、同+16.3%)の黒字額を計上した。また、年初からの累計は、輸出額がUS$1488.53億(前年同期比▲5.7%)、輸入額がUS$1170.94億(同▲3.4%)で、貿易黒字額はUS$317.57億(同▲13.3%)だった。

輸出に関しては、一次産品がUS$103.74億(一日平均額で前年同月比+2.5%)、半製品がUS$23.13億(同+12.3%)、完成品がUS$61.66億(同+32.7%)だった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$55.88億、同▲4.1%)、2位が米国(US$23.12億、同+3.0%)、3位がアルゼンチン(US$7.93億、同▲37.7%)、4位がオランダ(US$7.26億)、5位が日本(US$4.93億、同+32.0%)であった。輸出品目に関して、増加率ではガソリン(同+522.3%、US$1.15億)と鉄鋼半製品(同+471.5%、US$3.04億)が400%以上も増加し、減少率では自動車(同▲47.5%、US$2.53億)や銅カソード(同▲45.7%、US$0.23億)が顕著だった。輸出額(「その他」を除く)では、鉄鉱石(US$24.91億、同+58.5%)、大豆(US$18.93億、同▲38.3%)、原油(US$16.98億、同▲10.9%)、トウモロコシ(US$13.39億、同+181.5%)の一次産品がUS$10億以上の取引額となった。

一方の輸入は、資本財がUS$23.62億(一日平均額で前年同月比▲35.0%)、原料・中間財がUS$95.67億(同▲2.0%)、耐久消費財がUS$4.99億(同▲26.2%)、非・半耐久消費財がUS$16.36億(同+1.0%)、基礎燃料がUS$6.39億(同▲54.0%)、精製燃料がUS$8.49億(同▲2.0%)だった。主要輸入元は、1位が米国(US$31.32億、同+24.2%)、2位が中国(香港とマカオを含む)(US$29.98億、同▲38.4%)、3位がドイツ(US$9.87億)、4位がアルゼンチン(US$8.25億、同▲26.7%)、5位がメキシコ(US$4.15億、同▲8.6%)であった。

物価:発表された7月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.19%(前月比+0.18%p、前年同月比▲0.14%p)だった。年初累計は2.42%(前月同期比▲0.52%p)、直近12カ月(年率)は3.22%(前月同期比▲0.15%p)であった。

分野別では、前月まで2カ月連続でマイナスだった飲食料品分野が0.01(前月比+0.26%p、前年同月比+0.13%p)とプラスに転じたが、低い伸びにとどまった。タマネギ(20.70%)、果物(2.51%)、牛肉(1.10%)などが高い伸びとなった一方、トマト(▲11.28%)、フェイジョン豆(carioca:▲8.86%)、青物野菜(▲4.98%)などは大きく値下がりした。また、衣料分野(6月0.30%→7月▲0.52%)、燃料価格(▲2.79%)が値下がりした運輸交通分野(同▲0.31%→▲0.17%)、健康・個人ケア分野(同0.64%→▲0.20%)はマイナスを記録した。一方、電気料金(4.48%)が大きく値上がりした住宅分野(同0.07%→1.20%)が1%超の伸びとなったのをはじめ、携帯電話料金が値上がりした通信分野(同▲0.02%→0.57%)が前月のマイナスからプラスに転じ、個人消費分野(同0.15%→0.44%)も上昇が顕著だった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、8月は開催されなかった。次回のCopomは9月17日と18日に開催予定。

為替市場:8月のドル・レアル為替相場は、ほぼ右肩上がりでドル高レアル安が進行した。月のはじめ、ブラジルの政策金利Selicが8月末日の取引時間後に6.50%pから6.00%pへ引き下げられたことや、米国のTrump大統領が中国に対する第4弾の関税措置を講じると発表するなど米中の貿易戦争が再燃したことで、中国を最大の貿易相手国とするブラジルの通貨レアルが売られた。また、アルゼンチンで大統領選挙の予備選挙が行われ、経済自由化を掲げる現Macri大統領が左派の野党候補に予想を上回る大差でリードされたことも、ブラジルにとって悪影響が出ると嫌気された。

月の半ば、米国が対中国の追加関税の一部延期を発表しリスクテイクの動きが強まったことや、ブラジルの中央銀行が2009年以来となるスポット取引でのドル売りレアル買いの為替介入を行うと発表したことで、一時レアル高に振れる場面も見られた。しかし、世界同時株安の影響でブラジルの株価も大きく下落したことを嫌気し、US1=R$4を超えてレアル安が進むと、米中双方が追加の関税措置を講じると発言したことや、米中の貿易戦争を主な要因として世界全体の経済が停滞するとの懸念が増し、安全通貨のドルを買う動きが強まった。一方、アマゾン地域で大規模な森林火災が進んでいることに対して欧州をはじめ世界で批判が高まり、7月に大枠で合意に至ったEUとブラジルを含むメルコスル(南米南部共同市場)の自由貿易協定に悪影響を及ぼす可能性が取り沙汰され、レアルは売られた。また、アマゾン地域の開発をはじめBolsonaro大統領が問題発言を繰り返すなか発表された最新の世論調査で、同大統領の支持率が大きく低下したことも材料視され、29日に今年のレアル最安値となるUS$1=R$ 4.1680(売値)を記録した。

その後、中央銀行が為替介入を行ったことや予想に反して第2四半期GDPがプラスだったことから、レアルが若干値を戻した。ただし月末は、ドルが前月末比で9.92%もの上昇となるUS$1=R$ 4.1385(売値)で8月の取引を終えた。

株式市場:8月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は月の前半、米国とブラジルで金利が引き下げられたこと、ブラジルの年金改革法案に関して下院本会議で2回目の採決が行われ、必要な308票を大幅に上回る370票の賛成により可決されたこと、米国のTrump大統領が中国への追加関税措置を延期すると述べたことなどが好感され、上昇要因となった。一方、米中の貿易摩擦が再び激化し世界経済への悪影響が懸念されたことや、10月に大統領選挙のあるアルゼンチンで予備選挙が実施され、左派の野党候補が大差で首位となり現Macri大統領の再選が難しくなったことが、株価の下落要因となった。またブラジル国内に関しても、2019年第2四半期の中央銀行版GDP(IBC-Br)が▲0.13%となり、月末に発表される正規のGDP(IBGE)も第1四半期GDPに続きマイナスになるのではとの懸念が強まった。

月の後半、中国の7月の鉱工業生産指数が17年ぶりの低い伸びだったことやドイツの第2四半期GDPがマイナスだったことで、世界的な景気後退の可能性が高まり株価は大幅に値を下げた。一方、ブラジルで公社の民営化を含む政府の経済自由化策を施行したことを好感し、反発する場面もあった。しかし、中国による米国からの輸入品に対する追加関税措置の発表に対して、米国のTrump大統領も報復措置を講じると発言するなど米中間の貿易戦争が激化したことに加え、米国FRB議長が追加利下げを示唆したため世界経済の後退への懸念が更に強まり、株価は大幅に下落した。また、世論調査におけるBolsonaro大統領の支持率が2月の57.5%から8月に41%へ低下した一方、不支持率が28.2%から53.7%へと大幅に上昇し支持率を上回ったこともあり、26日に月内最安値となる96,430pを記録した。

その後、マイナスも予想されていた第2四半期GDPが0.4%のプラス成長だったこともあり、株価は値を戻した。ただし月末は、前月末比▲0.67%の下落となる101,135pで8月の取引を終了した。