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Bolsonaro大統領リスク

ブラジル経済動向レポート(2019年4月)

海外調査員(サンパウロ大学客員教授)近田 亮平

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貿易収支:4月の貿易収支は、輸出額がUS$196.89億(前月比+8.4%、前年同月比▲0.1%)、輸入額がUS$136.28億(同+3.8%、同▲1.2%)で、貿易収支はUS$60.61億(同+20.3%、同+2.3%)と今年最大の黒字額だった。年初からの累計は輸出額がUS$723.43億(前年同期比▲2.7%)、輸入額がUS$557.66億(同▲0.8%)で、貿易黒字額はUS$165.76億(同▲8.8%)であった。

輸出に関しては、一次産品がUS$102.28億(1日平均額の前年同月比+2.1%)、半製品がUS$25.62億(同+7.1%)、完成品がUS$68.99億(同+0.8%)だった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$59.95億、同+3.4%)、2位が米国(US$28.21億、同+22.9%)、3位がアルゼンチン(US$9.04億、同▲45.9%)、4位がオランダ(US$7.95億)、5位がチリ(US$5.10億)だった。輸出品目に関して、増加率では銅・鉄パイプ(同約+5,016.7%、US$1.48億)が突出して大きく、減少率ではアルミニウム(同▲73.8%、US$0.17億)や大豆油(同▲63.8%、US$0.44億)が顕著であった。輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$35.96億、同▲12.6%)、原油(US$26.79億、同+43.5%)、鉄鉱石(US$10.76億、同▲27.5%)がUS$10億以上の取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$15.95億(1日平均額の前年同月比▲10.0%)、原料・中間財がUS$84.42億(同▲0.2%)、耐久消費財がUS$3.81億(同▲33.5%)、非・半耐久消費財がUS$15.07億(同+4.1%)、基礎燃料がUS$6.83億(同+10.1%)、精製燃料がUS$10.19億(同+10.6%)であった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$26.04億、同+10.7%)、2位が米国(US$ 24.28億、同+3.1%)、3位がアルゼンチン(US$9.08億、同▲6.7%)、4位がドイツ(US$7.93億)、5位が韓国(US$4.42億、▲12.1%)だった。

物価:発表された3月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.75%(前月比+0.32%p、前年同月比+0.66%p)で、3月としては2015年(1.32%)に以来の高い数値となった。また、年初累計は1.51%(前月同期比+0.81%p)、直近12カ月(年率)は4.58%(前月同期比+0.69%p)だった。

分野別では、飲食料品分野が1.37%(前月比+0.59%p、前年同月比+1.30%p)で、トマト(31.84%)、ジャガイモ(21.11%)、フェイジョン豆(carioca:12.93%)の値上がりが2桁に達し顕著だった。非飲食料品では、航空運賃(7.29%)や燃料価格(3.49%)が上昇した運輸交通分野(2月▲0.34%→3月1.44%)と高騰し、飲食料品と運輸交通の2つの分野が全体の物価を押し上げるかたちとなった。また、カーニバルが3月だった影響から衣料分野(同▲0.33%→0.45%)がマイナスからプラスに転じた。ただし、学校の新学期開始により前月高騰した教育分野(同3.53%→0.32%)は比較的低い伸びに戻り、通信分野(同0.00%→▲0.22%)はマイナスとなるなど、その他の分野は概ね落ち着いた数値であった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、4月に開催されなかった。次回のCopomは5月7日と8日に開催予定。

為替市場:4月のドル・レアル為替相場は、月の前半はレアル高の傾向が強まった。その要因としては、教育省内の運営や自身の言動に問題のあったVélez教育大臣が更迭され、大統領官房府(Casa Civil)のナンバー2であるAbraham Weintraubが新大臣に就任したこと、水害支援を切っ掛けとしたイランと米国の関係悪化により原油の国際価格が高騰しブラジルを含む産油国の通貨が買われたこと、政府が2月に提出した年金改革法案を修正し下院の憲法司法委員会に提示するなど同法案の審議が進んだことなどが挙げられる。

しかし、月の後半になるとドル高レアル安傾向に転じた。その要因として国内的には、行政府は議会と年金改革法案を可決させるための十分な会話ができていないとMaia下院議長が述べたことや、予定されていた年金改革法案の憲法司法委員会での採決が復活祭(Páscoa)の連休明けに延期されたことが挙げられる。また海外に関しても、米国で主要企業の好決算が発表されるなど経済の好調さが示されドルはレアルだけでなく各国通貨に対しても上昇した。そして、25日にはドルの年初来最高値となるUS$1=R$3.9725(売値)を記録した。ただしその後、日中の取引時間内にUS$1=R$4を超えてドル高レアル安が進んだところで、中央銀行が為替介入の用意をしていると発表したためレアル高に振れ、月末は前月末比でドルが1.25%の上昇となるUS$1=R$3.9453(売値)で4月の取引を終えた(グラフ1)。

グラフ1 レアル対ドル為替相場の推移:2018年以降

グラフ1 レアル対ドル為替相場の推移:2018年以降

(出所)ブラジル中央銀行


株式市場:4月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、Bolsonaroリスクとも呼ばれる大統領の言動に左右されることになった。月の初め、年金改革法案に関して下院で詳細を説明したGuedes経済大臣に対して反対意見やヤジが出るなど、同法案成立の困難さが改めて示されたことで株価は下落したが、Bolsonaro大統領が同法案成立に向けた議会工作に着手したため上昇した。その後、ミナスジェライス州のエネルギー公社に関して州知事が民営化に言及したことで同社株が買われたものの、IMFがブラジルを含めた2019年の世界主要国の経済成長を下方修正したことで、株価は下落に転じた。年金改革法案に関しても、多政党で構成される議会で可決すべくBolsonaro大統領が政党や議員と交渉を行う一方、政府は年金改革法案に関する議会交渉が不足しているとMaia下院議長が述べるなど、同議長やGuedes経済大臣が政治的な調整役を担うことに消極的な姿勢を示し株の値を下げる要因となった。さらに、燃料価格を引き上げようとした石油公社Petrobrasに対して、昨年5月のトラック運転手による道路封鎖ストライキの再燃を懸念したBolsonaro大統領が価格引き上げを行わないよう介入したため、Petrobrasは燃料価格の引き上げを一時中止した。その結果、同社株が大幅下落するとともに、ナショナリストのBolsonaro大統領が民営化などの政府の経済方針に対して政治的に介入するという、以前から不安視されていたリスクが表面化してきたと市場では判断され、株価は月内最安値となる92,875pまで値を下げた。

月の半ば以降、年金改革法案に関する審議がまとまらず、予定されていた憲法司法委員会での採決が翌週に延期されたことなどで、下落する場面も見られた。ただし、株価は概ね月末に向け上昇する展開となった。その要因として、中国でのアフリカ豚コレラの感染拡大を受けブラジル産豚肉の輸出が増えるとの観測から加工食肉企業の株が買われたこと、政府がPetrobrasとの話し合いを行うと共にトラック運転手を念頭に置いた燃料費対策を発表したこと、当初の引き上げ幅を若干下回るもののPetrobrasがBolsonaro大統領の介入により一時中止した燃料価格の引き上げを発表したこと、年金改革法案に関して閣僚ポストの配分などを条件に政府と各政党間の交渉が進んだことが挙げられる。また、憲法司法委員会での年金改革法案可決への期待や、政府とトラック運転手協会との話し合いによる道路封鎖ストライキの可能性の低下といった国内要素に加え、米国で発表された主要企業の決算が予想を上回るものが多かったことも、株価上昇の際に材料視された。

しかし、年金改革法案が憲法司法委員会で可決され下院の特別委員会へと審議が進んだものの、市場では同法案の可決は既に織り込み済みだったなか、3月の正規雇用(CAGED:新規雇用数―失業者数)が▲約4万人と市場の予想に反してマイナスだったことで株価は下落。なお、ブラジルの雇用に関して月末に発表された失業率等も状況の悪化を示すものであった(グラフ2)。その後、Bolsonaro大統領が年金改革法案の成立に関して必要性や強い意志を示したことが市場で好感された一方、同大統領がブラジル銀行に対して融資金利の引き下げを要求したり多様性を強調したテレビCMを中止したりするなど、Bolsonaroリスクが再び表面化した。そして月末は、前月末と比べ0.98%とほぼ同レベルの96,353pで取引を終了した(グラフ3)。

グラフ2 失業率との推移:2012年以降

グラフ2 失業率との推移:2012年以降

(出所)IBGE
グラフ3 株式相場(Bovespa指数)の推移:2018年以降

グラフ3 株式相場(Bovespa指数)の推移:2018年以降

(出所)サンパウロ株式市場