Bolsonaro政権と議会の関係
ブラジル経済動向レポート(2019年3月)
海外調査員(サンパウロ大学客員教授)近田 亮平
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貿易収支: 3月の貿易収支は、輸出額がUS$181.20億(前月比+11.2%、前年同月比▲10.4%)、輸入額がUS$131.30億(同+4.0%、同▲4.9%)で、貿易収支はUS$49.90億(同+35.9%、同▲22.3%)の黒字額だった。年初からの累計は輸出額がUS$530.26億(前年同期比▲3.0%)、輸入額がUS$421.38億(同▲0.7%)で、貿易黒字額はUS$108.89億(同▲11.1%)であった。
輸出に関しては、一次産品がUS$96.89億(1日平均額の前年同月比+7.9%)、半製品がUS$22.82億(同▲0.5%)、完成品がUS$61.48億(同▲6.5%)だった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$55.57億、同+6.1%)、2位が米国(US$22.44億、同+9.6%)、3位がアルゼンチン(US$7.99億、同▲48.4%)、4位がオランダ(US$6.42億)、5位がドイツ(US$4.68億)だった。輸出品目に関して、増加率ではアルミニウム(同約+105万%、US$0.17億)が突出して大きく、減少率では貨物車(同▲68.2%、US$0.89億)が顕著であった。輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$32.53億、同+4.7%)が30億以上、原油(US$17.57億、同+14.4%)と鉄鉱石(US$13.87億、同▲8.6%)がUS$10億以上の取引額を計上した。
一方の輸入は、資本財がUS$15.97億(1日平均額の前年同月比+13.0%)、原料・中間財がUS$79.35億(同+5.8%)、耐久消費財がUS$4.56億(同▲4.4%)、非・半耐久消費財がUS$15.25億(同+3.6%)、基礎燃料がUS$9.23億(同+19.5%)、精製燃料がUS$6.93億(同▲18.6%)であった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$25.67億、同+7.7%)、2位が米国(US$ 21.79億、同+0.7%)、3位がアルゼンチン(US$9.83億、同+24.1%)、4位がドイツ(US$7.55億)、5位が韓国(US$3.77億、▲21.4%)だった。
物価: 発表された2月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.43%(前月比+0.11%p、前年同月比+0.11%p)であった。また、年初累計は0.75%(前月同期比+0.14%p)、直近12カ月(年率)は3.89%(前月同期比+0.11%p)だった。
分野別では、飲食料品分野が0.78%(前月比▲0.12%p、前年同月比+1.11%p)で、トマト(▲5.95%)や鶏肉一羽(▲1.69%)の値下がりが顕著だった一方、フェイジョン豆(carioca:51.58%)、ジャガイモ(25.21%)、青菜類(12.13%)は2桁の値上がりとなった。非飲食料品では、学校の新学期が始まった教育分野(同0.12%→3.53%)の伸びが突出するかたちとなった。また、健康保険料(0.79%)が上昇した健康・個人ケア分野(同0.24%→0.38%)や、電気料金(1.14%)が値上がりした住宅分野(同0.24%→0.38%)も相対的に高い伸びとなった。一方、昨年末からの娯楽・旅行シーズンがカーニバルで終了した影響もあり、衣料分野(同1.14%→▲1.15%)と運輸交通分野(同0.02%→▲0.34%)ではデフレを記録した。
金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は20日、8回連続でSelicを6.50%で据え置くことを全会一致で決定した。今回のCopomから、Bolsonaro政権で中央銀行総裁に就任した経済リベラル派と見られるRoberto Campos Netoが議長を務めることになったが、今回も市場関係者の予想通りSelicは据え置きとなった。ブラジル経済の回復が予想より鈍いことや、政権と議会の関係が悪化したことで喫緊の課題である年金改革の先行きに対して悲観的な見方が強まったこともあり、Selicは年末まで据え置かれるとの見方が多くされている。
為替市場:3月のドル・レアル為替相場は月の初め、ブラジルがカーニバル休暇に入る前、国内の年金改革法案と海外での米中の貿易交渉の先行きに対する不透明感から、リスクテイクの動きが弱まりドルが上昇した。その傾向はカーニバル休暇明けも変わらず、抜本的な年金改革法案の成立に対する懐疑的な見方や、米国や中国の経済の減速を示す指標が発表され世界経済に対する悲観的な観測が強まり、ドル高レアル安が進んだ。ただし、月の半ばになるとポジション調整に加え、Bolsonaro大統領の支持基盤である軍関係者に関して、Guedes経済大臣が年金改革案を提示し、Onyx官房長官も議会交渉の難しさを認めながらも年金改革法案の成立に楽観的な見解を述べたことで、為替相場はドル安レアル高へと転じた。
しかしその後、Bolsonaro大統領とMaia下院議会議長をはじめ、年金改革法案をめぐり政権と議会の関係が悪化したことから、抜本的な年金改革が行われないのではとの懸念が高まった。また、21日にTemer前大統領が原子力発電プロジェクトをめぐる汚職疑惑で逮捕されたことも嫌気され、レアル売りの動きが活発化し、28日にはドルの年初来最高値となるUS$1=R$3.9682(売値)までドル高レアル安が進行した。ただし、市場の取引時間中にUS$1=R$4を超えてドル高が進むと中央銀行が為替介入を行いレアルは値を戻した。それでも月末は、前月末比でドルが4.23%の上昇となるUS$1=R$3.8967(売値)で3月の取引を終えた(グラフ1)。
(出所)ブラジル中央銀行
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株式市場:3月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は月の初め、2月20日に法案を議会に提出した年金改革に関して、Bolsonaro大統領が女性の受給最低年齢を62歳から60歳へ引き下げることや、貧困高齢者向け社会扶助の支給額を変更することに言及した一方、Guedes経済大臣は政府案が変更され財政支出が増える場合はそれを補てんする措置が必要だと述べ、年金改革法案に関して政権内で意見の統一ができていないことが露呈され、下落。また、中国の貿易や米国の雇用に関する経済指標が弱かったことも、株価下落の要因となった。ただしカーニバル休暇明け、年金改革法案に関して、Bolsonaro大統領が自身や政権の支持基盤である軍関係者も対象とする意向を表明するなど、改革の行方に楽観的な見方が強まったことを切っ掛けに株価は上昇に転じた。また、米国で利上げの見送りが発表されたことや、ブラジルとメキシコの間で自動車の自由貿易が発効したことも好感され、18日の市場取引時間中にBovespa指数は史上初となる10,000pを記録した。
しかしその後、政治家であるBolsonaro大統領の息子がMaia下院議長への批判を強めたことなどで政権と議会の関係が悪化したため、今後の年金改革法案の議会交渉に支障が出るとの懸念が強まり株価は急落。また、以前より汚職疑惑が取り沙汰されていたTemer前大統領が21日に逮捕されたことも株売り材料となり、27日に株価は91,903pまで下落した。その結果、3月は史上初の10,000pを記録したものの、カントリー・リスク(グラフ2)も反応したBolsonaro政権と議会の関係悪化が及ぼす年金改革への悪影響を懸念し、月末は前月末比で▲0.18%の下落となる95,584pで取引を終了した(グラフ3)。
(出所)J.P.Morgan
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(出所)サンパウロ株式市場
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