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Bolsonaro新政権への期待と繰り返された悲劇

ブラジル経済動向レポート(2019年1月)

海外調査員(サンパウロ大学客員教授)近田 亮平

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貿易収支:1月の貿易収支は、輸出額がUS$185.79億(前月比▲5.0%、前年同月比+9.1%)、輸入額がUS$163.97億(同+26.9%、同+15.4%)であった。この結果、貿易収支はUS$21.92億(同▲67.0%、同▲22.4%)で1月としては3年連続の黒字だったものの、過去2年よりも黒字額は減少した。

輸出に関しては、一次産品がUS$83.14億(1日平均額の前年同月比+10.1%)、半製品がUS$29.21億(同+11.1%)、完成品がUS$73.41億(同+15.2%)であった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$40.69億、同+20.8%)、2位が米国(US$23.11億、同+2.1%)、3位が石油採掘プラットフォームを輸出したパナマ(US$13.38億)、4位がオランダ(US$6.83億)、5位が大幅減のアルゼンチン(US$6.81億、同▲43.7%)であった。輸出品目に関して、増加率ではエンジンなどの航空部品(同+172.6%、US$2.20億)、航空機(同+124.8%、US$4.45億)、鋳造鉄(同+123.7%、US$1.21億)、燃料油(同+101.8%、US$2.46億)が100%以上の伸びとなり、減少率では自動車(同▲48.3%、US$1.86億)が顕著だった。輸出額では(「その他」を除く)、原油(US$20.70億、同▲1.3%)、鉄鉱石(US$17.05億、同+11.4%)、前述の石油採掘プラットフォーム(US$12.88億)、セルロース(US$10.18億、同+42.5%)がUS$10億以上の取引額となった。

一方の輸入は、資本財が大幅増のUS$36.40億(1日平均額の前年同月比+156.2%)、原料・中間財がUS$88.12億(同+3.6%)、耐久消費財がUS$4.35億(同▲5.8%)、非・半耐久消費財がUS$16.31億(同▲2.9%)、基礎燃料がUS$8.91億(同+7.6%)、精製燃料がUS$9.63億(同▲25.3%)であった。主要輸入元は、1位が大幅増の中国(香港とマカオを含む)(US$51.48億、同+81.0%)、2位が米国(US$22.67億、同▲5.2%)、3位がドイツ(US$8.93億)、4位がアルゼンチン(US$7.96億、同+9.5%)、5位がインド(US$4.33億)だった。

物価:発表された2018年12月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.15%(前月比+0.36%p、前年同月比▲0.29%p)であった。2018年は5月のトラック運転手による道路封鎖ストライキの影響で6月に食料品をはじめ物価が大きく上昇したため、2018年の物価は3.75%(前年比+0.80%p)と前年より値が大きくなったが、政府目標(中心値)4.50%を2年連続で下回った(グラフ1と2)。

12月IPCAの分野別では、飲食料品分野が0.44%(前月比+0.05%p、前年同月比▲0.10%p)で前月より若干上昇した。低脂肪牛乳(▲7.73%)やフランスパン(▲1.31%)など値下がりした品目もあったが、タマネギ(+24.03)とジャガイモ(20.05%)が20%超の値上がりとなったことなどが影響した。非飲食料品では、クリスマスなどのプレゼントの需要増から衣料分野(11月▲0.43%→12月1.14%)や医療・個人ケア(同▲0.71%→0.32%)がマイナスからプラスに転じたことに加え、家財分野(同0.48%→0.57%)などの伸びが顕著だった。年末の旅行シーズンの影響から航空券(+29.12%)は大幅に値上がりしたが、燃料価格(▲4.25%)がマイナスとなったこともあり運輸交通分野(同▲0.74%→▲0.54%)は12月もデフレを記録した。

2018年通年では、トラック運転手の道路封鎖ストライキの影響から、飲食料品分野(2017年▲1.87%→2018年4.04%)が前年のマイナスからプラスに転じた。非食料品に関して、上昇率が最も高かったのが前年に続いて教育分野(同7.11%→5.32%)で、住宅分野(同6.26%→ 4.72%)も電気料金(8.70%)が値上がりした影響から食料品を含む9分野中で2番目の上昇率となった。品目としては、運輸交通分野(同4.10%→4.19%)の航空券(16.92%)やガソリン(7.24%)、衣料・個人ケア分野(同6.52%→3.95%)の医療保険(11.17%)の価格上昇が顕著であった。また、通信分野(同1.76%→▲0.09%)のみがデフレを記録した。

グラフ1 2018年の月間IPCAの推移

グラフ1 2018年の月間IPCAの推移

(出所)IBGE


グラフ2 過去10年間の年間IPCAの推移

グラフ2 過去10年間の年間IPCAの推移

(出所)IBGE (注)政府目標は中心値(4.50%)の上下幅±2%。


金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、1月に開催されなかった。次回のCopomは2月6日と7日に開催予定。

為替市場:1月のドル・レアル為替相場は、Bolsonaro大統領の就任式が1日に行われ、年金などの改革や財政の健全化、治安や汚職対策の強化を掲げる新政権に対する期待から、月の前半はレアル高が進む展開となった。特に22日から開催された世界経済フォーラムを前に、Guedes経済大臣が年金について個人積立制度の導入を含めた抜本的な改革を行う意向を表明したことが、市場では好感を持って受け止められた。一方、米国のApple社が業績予想を下方修正したことや、米国FRBのPowell議長が利上げペースを鈍化させる可能性を示唆したことが、ドル売り要因となった。

ただし月の半ば、米中間で行われていた協議により貿易戦争が沈静化するとの見方からドルが買われる一方、世界経済フォーラムにおいてBolsonaro大統領が数分しか演説を行わなかったり、共同記者会見をキャンセルしたりしたため新政権への期待が後退し、レアル売りにつながった。月末になると、市場の予想に反して米国の金融当局FRBがこれまでの利上げを休止する決定を下したことに加え、ベネズエラ危機の影響などで原油の国際価格が上昇しブラジルをはじめとする資源国通貨が買われ、ドル安レアル高が進んだ。そして月末は、ドルが前月末比で▲5.75%下落し、月内のドル最安値となるUS$1=R$3.6513(買値)で1月の取引を終えた。

株式市場:1月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、Bolsonaro政権が発足し、年金改革の断行による財政の健全化、税制改革、経済の自由化、国営企業の民営化、労働改革などをGuedes経済大臣が明言したことや、Temer前政権で下院議長を務め改革に積極的なMaia議員を下院議長選挙に推薦する旨で合意に至ったことで、新政権の掲げる諸改革が実施に移される可能性が高まったとの見方からご祝儀相場となり、大幅上昇で一年の取引が始まった。その後、Apple社の業績下方修正による米国株価の大幅下落の影響から、ブラジルでも株価は弱含む場面が見られた。しかし、米国の2018年12月の雇用統計が予想を上回ったことや、米中貿易協議が開催される見通しとなったことで、株価は再び上昇する展開となった。

月の半ば、年金改革に関して一時Bolsonaro大統領が最低支給年齢を予定より引き下げる可能性に言及し、政府内で意見の相違があることを露呈した。しかし、Guedes経済大臣が改革は抜本的ものであり、世界経済フォーラムで具体的な説明を行うと発言し、新政権への期待が再び高まると株価は連日史上最高値を更新しながら上昇した。また、2018年の正規雇用数(新規雇用数マイナス失業者数)が4年ぶりにプラス(42万人)になったことも株価を押し上げる要素となり(グラフ3)、24日に97,677pまで値を上げた。

ただし、サンパウロ株式市場が祝日で休みだった25日、ミナスジェライス州にある鉄鋼大手のVale社の鉱山ダムが決壊し、大量の泥流による死者と行方不明者が300人を超えるブラジル史上最悪の鉱山事故が発生した。2015年にも同じミナスジェライス州でVale社の鉱山ダムが決壊し、19人もの死者が出るとともに環境にも多大な悪影響を及ぼし、大きな社会問題になったばかりであった。しかし残念ながら悲劇が繰り返されることとなり、週明け28日にVale社の株が大きく売られ、株価全体も下落した。それでも月末は前月末比で+10.82%もの上昇となる97,394pで1月の取引を終了した。


グラフ3 過去10年の正規雇用者数の推移

グラフ3 過去10年の正規雇用者数の推移

(出所)労働雇用省 (注)単位は人、「M」は「百万」。