株高通貨レアル安の2018年
ブラジル経済動向レポート(2018年12月)
海外調査員(サンパウロ大学客員教授)近田 亮平
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貿易収支:12月の貿易収支(暫定値)は、輸出額がUS$195.56億(前月比▲6.5%、前年同月比+11.1%)、輸入額がUS$129.17億(同▲23.4%、同+2.5%)で、貿易収支はUS$66.39億(同63.4%、同+32.8%)の黒字だった。また、2018年の累計は、輸出額がUS$2,395.23億(前年同期比+10.0%)、輸入額がUS$1,812.25億(同+20.2%)で、貿易黒字額は史上最高額だった2017年(US$670.74億)に次ぐUS$582.98億(同▲13.1%)だった。
輸出に関しては、一次産品がUS$97.91億(一日平均額で前年同月比+34.6%)、半製品がUS$26.58億(同+1.3%)、完成品がUS$71.06億(同▲2.4%)だった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$52.88億、同+46.5%)、2位が米国(US$25.19億、同+6.2%)、3位がオランダ(US$7.30億)、4位が大幅減のアルゼンチン(US$7.06億、同▲55.2%)、5位がチリ(US$5.94億)であった。輸出品目に関して、増加率では大豆粕(同+157.9%、US$6.09億)と航空エンジン機器(同+127.6%、US$1.76億)が100%以上の増加で、減少率では自動車(同▲62.4%、US$2.37億)が60%以上のマイナスとなった。輸出額では(「その他」を除く)、一次産品である鉄鉱石(US$18.33億、同+19.8%)、原油(US$17.20億、同+46.4%)、大豆(US$16.38億、同+79.3%)の3品目がUS$10億以上の取引額を計上した。
一方の輸入は、資本財がUS$15.46億(一日平均額で前年同月比+5.6%)、中間財がUS$75.39億(同+0.8%)、耐久消費財がUS$2.97億(同▲33.5%)、非・半耐久消費財がUS$13.38億(同▲13.9%)、基礎燃料がUS$8.88億(同+24.0%)、精製燃料がUS$13.05億(同+39.7%)だった。主要輸入元は、1位が米国(US$26.57億、同+27.0%)、2位が中国(香港とマカオを含む)(US$21.85億、同▲3.6%)、3位がアルゼンチン(US$9.67億、同+29.3%)、4位がドイツ(US$6.47億)、5位がイタリア(US$3.10億)であった。
(出所)工業貿易開発省 (注)軸の「B」は「10億」。
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物価:発表された11月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は▲0.21%(前月比▲0.66%p、前年同月比▲0.49%p)で、今年8月(▲0.08%)以来のマイナスを記録し、その幅は2017年6月(▲0.23%)に次いで大きいものとなった。また、年初累計は3.59%(前月同期比+1.09%p)、直近12カ月(年率)は4.05%(前月同期比▲0.51%p)で、通年のインフレが政府目標の中心値4.5%付近になる可能性が出てきた。
分野別では、飲食料品分野が0.39%(前月比▲0.20%p、前年同月比+0.77%p)で、低脂肪牛乳(▲7.52%)が前月に続いて値下がりした一方、タマネギ(24.45%)、トマト(22.25%)、ジャガイモ(14.69%)が2桁上昇するなど、全体の数値が家財分野(10月0.76%→11月0.48%)に次ぐ高い伸びとなった。一方、前月の値上がりからマイナスに転じた燃料価格(同2.44%→▲2.42%)の影響から、運輸交通分野(同0.92%→▲0.74%)が最大のデフレを記録したのをはじめ、電気料金(▲4.04%)が大幅に下がった住宅分野(同0.14%→▲0.71%)も大きなマイナスとなった。これらに加え、健康・個人ケア分野(同0.27%→▲0.71%)、衣料分野(同0.33%→▲0.43%)、通信分野(同0.02%→▲0.07%)もマイナスに転じ、11月は5つの分野でデフレを記録した。
金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は12日、Selicを6.50%で据え置くことを全会一致で決定した。今回で6回連続のSelic据え置きは市場関係者の予想通りであり、Copomは声明でBolsonaro政権が誕生する1月以降もしばらくSelicを据え置く可能性に言及した。Bolsonaro新政権が取り組む諸改革などにより景気回復が進むことが期待されているが、11月の物価(IPCA)がマイナスを記録するなど、現状ではインフレ鈍化のリスクも考えられる。そのため、予想より長期間Selicは据え置かれるとの見方が多くされている。
為替市場:12月のドル・レアル為替相場はレアル高で始まったものの、中国の通信機器大手Huaweiの副会長がカナダで米国により逮捕され、米中間の関係が貿易を含め更に悪化するとの予測、および、それがブラジルを含む新興国経済にとってマイナスになるとの見方から、レアル安に転じた。また米中関係だけでなく、フランスでの大規模な抗議デモの発生や英国のEU離脱交渉の難化から、レアルなどの新興国通貨ではなく安全な米国ドルを買う動きが強まった。
月の半ば、進行するドル高レアル安に対して中央銀行が為替介入を行う一方、中国の11月の工業生産と小売売上高が予想を下回るなど、新興国をはじめ世界経済の成長鈍化への懸念が高まりレアルが売られる展開となった。クリスマス連休明けには取引が閑散とする中、海外の不安定要素や世界経済をめぐる先行き不透明感から安全通貨であるドルが買われた。これに対して中央銀行が再び為替介入を行ったため、レアルが若干値を戻したものの、月末はドルが前月末比0.30%の上昇となるUS$1=R$3.8748(売値)で12月の取引を終えた。
なお2018年の為替市場では、ブラジルの景気回復の鈍さや大統領選をはじめとする政治的な混迷、米中貿易戦争などの世界経済への悪影響などを要因として、株式市場で進んだ株高と異なり通貨レアルは概ね売られる展開となった。その結果、年末はドルが前年末比で17.14%も上昇して一年を終了した(グラフ2)。
(出所)ブラジル中央銀行
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株式市場:12月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、先月の流れを引き継いで月の初めの3日、再度の史上最高値更新となる89,820pを記録した。ただし、その後は月末に向け値を下げる展開となった。その要因として、貿易戦争ではなく冷戦状態になったとも指摘される米中関係の悪化、フランスでの抗議デモの深刻化、英国のEU離脱の難航、米国をはじめ世界の主要株価の大幅下落、米国による中国通信機器大手Huaweiの副会長の逮捕など、多くの海外要因が挙げられる。また、10月の鉱工業生産指数が前月比0.2%と4カ月ぶりにプラスへ転じたが予想を大きく下回ったことなど、国内要素も影響した。
月の半ば、中国が米国からの輸入自動車への関税を引き下げると発表したことや、逮捕されたHuawei副会長が釈放されたことから、株価は一時上昇する場面もあった。しかし月の後半も概ね下落傾向となった。その要因は主に海外的なもので、中国の11月の経済指標が予想より低かったこと、中国が米国産大豆の購入を再開したためブラジルの中国向け大豆輸出に影響が出ると懸念されたこと、米国FRB議長が来年も利上げ路線を継続するとの発言を行ったこと、米国で予算との関連から政府機関が閉鎖されるとの懸念および実際の閉鎖が長期化する見通しが強まったこと、Trump大統領が金融当局の利上げペースに対する不満を表明しPowell議長解任の可能性が取り沙汰されたこと、米国株価が連日下落したことなどである。月末は米国の株価が上昇に転じた影響もあり株価は反発したものの、前月末と比べて▲1.86%の下落となる87,887pで12月の取引を終了した。
2018年の株式相場は、5月のトラック運転手による道路封鎖ストライキや10月の大統領選をめぐる政治的な不透明感を主な要因として、年央に大きく下落した。しかし、前年末比では2016年の38.93%、2017年の26.86%に続き、大統領選でのBolsonaro当選や新政権への期待などから2018年も15.03%上昇し、一年の取引を終えた(グラフ3)。
(出所)サンパウロ株式市場
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