緩慢な第3四半期GDPと最高値更新の株価

ブラジル経済動向レポート(2018年11月)

海外調査員(サンパウロ大学客員教授)近田 亮平

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第3四半期GDP: 2018年第3四半期のGDPが発表され、前期比0.8%、前年同期比1.3%、年初累計比1.1%、直近4四半期比1.4%、名目額がR$1兆6,870.47億であった(グラフ1)。前期比と前年同期比が7期連続のプラスを記録したが、今年5月に発生したトラック運転手による道路封鎖ストライキの影響が大きく、直近4四半期比などは横ばいとなっており、景気回復は依然として緩慢であることを示すものであった。2018年通年のGDP成長率は、第3四半期も年初累計比が1.1%であったことから、1%を若干上回るとの見方が多くなされている。ただし、2019年に関しては大方の予想が2.5%であり、Bolsonaro新政権による諸改革と更なる景気回復の実現に期待が寄せられている。

グラフ1 四半期GDPの推移

グラフ1 四半期GDPの推移

(出所)IBGE   (注)GDPの成長率(%)は左軸、名目額(R$)は右軸(Bは10億)。


第3四半期GDPの需要面を見ると、家計支出(前期比0.6%、前年同期比1.4%)は引き続き堅調さを示すものであり、緊縮財政が試みられている政府支出(同0.3%、同0.3%)も低い伸びにとどまった。投資を意味する総固定資本形成(同6.6%、同7.8%)は高い成長率となったが、これは石油採掘プラットフォームをめぐる算出方法が変更されたことによるもので、実際の投資は数値ほど好調な状況にはないとされる。5月のトラック運転手による道路封鎖ストライキにより物流がストップして貿易に大きな影響が出たが、第3四半期は輸出(同6.7%、同2.6%)と輸入(同10.2%、同13.5%)とも大幅に回復した。

供給面では、年間生産量に関してトウモロコシ(▲17.9%)などで減少が予測されるが、綿(28.4%)やコーヒー(26.6%)では大幅な増加が見込まれるため、農牧業(同0.7%、同2.5%)が相対的に高い数値となった。建設業(同0.7%、同▲1.0%)が前年同期比でマイナスだったが、組立製造業(同0.8%、同1.6%)と鉱業(同0.7%、同0.7%)はプラスだったことに加え、トラック運転手によるストライキ後の反動で物流(同2.6%、同2.9%)が大幅に伸びたことが、工業(同0.4%、同0.8%)に表れていた。また、家計支出が堅調で商業(同1.1%、同1.6%)も高い伸びとなったため、サービス業(同0.5%、同1.2%)は今期もプラスを維持した(グラフ2と3)。

グラフ2  2017年第3四半期GDPの受給部門の概要

グラフ2  2017年第3四半期GDPの受給部門の概要

(出所)IBGE


グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

(出所)IBGE


貿易収支:11月の貿易収支(暫定値)は、輸出額がUS$209.22億(前月比▲4.9%、前年同月比+25.4%)、輸入額がUS$168.60億(同+4.7%、同+28.3%)で、貿易収支はUS$40.62億(同▲31.2%、同+14.6%)の黒字だった。また、年初からの累計は、輸出額がUS$2,200.02億(前年同期比+9.9%)、輸入額がUS$1,683.04億(同+21.8%)で、貿易黒字額はUS$516.98億(同▲16.7%)だった。

輸出に関しては、一次産品がUS$98.15億(一日平均額で前年同月比+40.1%)、半製品がUS$26.33億(同+4.5%)、完成品がUS$84.66億(同+25.0%)だった。主要輸出先は、1位が大幅増の中国(香港とマカオを含む)(US$57.52億、同+89.5%)、2位が米国(US$24.81億、同+9.3%)、3位がオランダ(US$23.67億)、4位が大幅減のアルゼンチン(US$9.33億、同▲40.0%)、5位がチリ(US$5.48億)であった。輸出品目に関して、増加率では先月に続いてガソリン(同+3,761.0%、US$1.78億)と燃料油(同+793.5%、US$3.02億)が突出し、減少率では航空機(同▲51.8%、US$1.43億)が50%以上のマイナスとなった。輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$20.04億、同+145.8%)がUS$20億以上、鉄鉱石(US$18.62億、同+22.4%)、原油(US$17.85億、同+103.6%)、石油採掘プラットフォーム(US$16.44億)がUS$10億以上の取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財が大幅増のUS$38.85億(一日平均額で前年同月比+170.2%)、中間財がUS$90.62億(同+15.7%)、耐久消費財がUS$4.70億(同▲9.9%)、非・半耐久消費財がUS$16.22億(同▲6.3%)、基礎燃料がUS$7.29億(同▲2.2%)、精製燃料がUS$10.78億(同+25.5%)だった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$27.82億、同+8.6%)、2位が米国(US$26.22億、同+29.2%)、3位がアルゼンチン(US$9.30億、同+12.0%)、4位がドイツ(US$8.78億)、5位がメキシコ(US$4.12億、同▲12.2%)であった。

物価:発表された10月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.45%(前月比▲0.03%p、前年同月比+0.03%p)で予想より低く、今年最後となる12月のCopomでもSelicは据え置かれる可能性が高まった。また、年初累計は3.81%(前月同期比+1.60%p)、直近12カ月(年率)は4.56%(前月同期比+0.03%p)で、通年のインフレは政府目標の上限(6.0%)を下回る見通しが強まった。

分野別では、飲食料品分野が0.59%(前月比+0.49%p、前年同月比+0.64%p)で、キャッサバ芋の粉(▲4.69%)や低脂肪牛乳(▲2.60%)など値下がりしたものもあったが、トマト(51.27%)とジャガイモ(13.67%)が2桁の値上がりを記録したことなどが大きく影響した。また、燃料価格(同9月%4.18→10月2.44%)の値上がりが引き続き顕著だった運輸交通分野(同1.69%→0.92%)や、家財分野(同0.11%→0.76%)の伸びが高かったのに加え、衣料分野(同▲0.02%→0.33%)と通信分野(同▲0.07%→0.02%)がマイナスからプラスに転じた。一方、住宅分野(同0.37%→0.14%)や教育分野(同0.24%→0.04%)など、伸びが低下した分野もあった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、11月に開催されなかった。次回のCopomは12月11日と12日に開催予定。

為替市場:11月のドル・レアル為替相場は、大統領選を通じてBolsonaro当選への期待で進んだレアル高から一転し、ドル高レアル安の展開となった。月の前半、小幅な値動きが続く中、10月のIPCAが0.45%(前月比)で予想より低く、通年のインフレが政府目標(中心値4.5%±1.5%)の上限6.0%を下回る見通しとなり、レアル高に振れる場面も見られた。しかし、Bolsonaroが政権発足前の今年中に一部でも着手しておきたいと述べた年金改革に関して、議会の反発もあり年内の実現が不可能で、政権や議会の運営能力に懐疑的な見方も残る新政権の発足以降に回されることになり、レアルは売られた。

月の半ば、第2次Dilma労働者党政権で緊縮財政を推進し、政権内での対立から1年で辞任したLevy元財務大臣が、新政権の社会経済開発銀行(BNDES)総裁に就任することが内定し、市場では好感を持って受け止められた。また、中央銀行総裁に民間金融機関Santanderで理事を務めるCampos Netoが指名され、経済に関して新自由主義的と見られる同氏の就任は景気回復にとってプラスだとの見方から、レアル高となった。

しかし月の後半、英国のEU離脱交渉が難航していることやロシアがウクライナの艦船を拿捕し両国間で緊張が高まったことなど、海外におけるドル買い要素が浮上した。一方、Bolsonaro新政権誕生前にTemer大統領が公務員の給与引き上げを承認し、このことが財政再建への障害になると懸念されレアル売り要素となった。その後、一時US$1=R$3.9を超えてドル高レアル安が進んだため、中央銀行が為替介入を行いレアルが値を戻したが、月末はドルが前月末比3.92%の上昇となるUS$1=R$3.8633(売値)で11月の取引を終えた。

株式市場:11月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、米国のTrump大統領が中国との貿易交渉に関して楽観的な発言を行ったことや、Bolsonaroが新政権誕生前に経済移行チームを発足させ、年金や財政などの改革案に着手したことへの期待から上昇し、史上最高値を更新して始まった。次の取引日となった週明けも、Bolsonaro新政権に関して外国人投資家は多くが懐疑的である一方、多くのブラジル人投資家は楽観的であり積極的に株を買う動きに出たため、連日で史上最高値を更新した。その後、緊縮財政などを掲げるBolsonaro政権発足前に公務員全体に影響を与える司法従事者の給与引き上げを上院が可決したことを嫌気して下落。また、米国によるイランへの経済制裁の再開を切っ掛けに原油の国際価格が下落し、Petrobras株が大きく売られた。

月の半ば、米国のTrump大統領が中国との貿易戦争に関して合意に至る可能性を示唆したことや、20世紀半ばに政府の経済閣僚を務め経済リベラル派として知られたRoberto Camposの孫がBolsonaro政権の中央銀行総裁に任命されたことを好感し、株価は上昇。しかし、イデオロギー色の強い外務大臣や教育大臣が任命されたことに加え、次期Bolsonaro大統領とMaurão副大統領を含め軍関係者が多数(月末30日時点で9人)政権の要職に就く予定となったことへの懸念が強まった。また、原油の国際価格の下落を受けPetrobras株が再び値を下げるとともに、為替市場でドル高レアル安が進んだことが不安視しされ、株価は下落した。ただし、中央銀行の為替介入により急激なドル高レアル安が一旦収まったこともあり、月末に向け株価は再び上昇し、27日には今月で3回目の史上最高値更新となる89,710pを記録した。そして月末は、前月末比2.44%の上昇となる89,552pで11月の取引を終了した。