新大統領Bolsonaroへの期待
ブラジル経済動向レポート(2018年10月)
海外調査員(サンパウロ大学客員教授)近田 亮平
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貿易収支:10月の貿易収支は、輸出額がUS$222.26億(前月比+16.6%、前年同月比+17.7%)、輸入額がUS$161.05億(同+14.1%、同+17.8%)だった。貿易収支はUS$61.21億(同+23.8%、同+17.7%)で、3月(US$64.19億)に次ぐ今年2番目に大きい黒字額を計上した。また、年初からの累計は、輸出額がUS$1,991.71億(前年同期比+8.5%)、輸入額がUS$1,514.50億(同+21.2%)で、貿易黒字額はUS$477.21億(同▲18.5%)だった。
輸出に関しては、一次産品がUS$111.72億(一日平均額で前年同月比+26.0%)、半製品がUS$31.91億(同+3.0%)、完成品がUS$77.37億(同+5.5%)だった。主要輸出先は、1位が大幅増の中国(香港とマカオを含む)(US$61.62億、同+67.5%)、2位が米国(US$31.36億、同+31.0%)、3位がオランダ(US$10.88億)、4位が大幅減のアルゼンチン(US$10.12億、同▲40.2%)、5位がチリ(US$6.08億)であった。輸出品目に関して、増加率ではガソリン(同+3,288.6%、US$1.35億)と燃料油(同+732.7%、US$5.01億)が突出し、減少率では銅カソード(同▲54.0%、US$0.20億)が50%以上のマイナスとなった。輸出額では(「その他」を除く)、原油(US$29.34億、同+126.8%)、大豆(US$21.08億、同+114.2%)、鉄鉱石(US$20.71億、同+0.4%)の3つの一次産品がUS$20億以上の取引額を計上した。
一方の輸入は、資本財がUS$18.40億(一日平均額で前年同月比+11.1%)、中間財がUS$95.88億(同+11.2%)、耐久消費財がUS$5.53億(同+2.4%)、非・半耐久消費財がUS$18.43億(同+9.6%)、基礎燃料がUS$12.76億(同+53.5%)、精製燃料がUS$9.93億(同▲0.3%)だった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$31.35億、同+8.7%)、2位が米国(US$25.52億、同+17.5%)、3位がアルゼンチン(US$9.43億、同+3.3%)、4位がドイツ(US$9.38億)、5位が日本(US$4.64億、同+23.1%)であった。
物価:発表された9月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.48%(前月比+0.57%p、前年同月比+0.32%p)で、9月としては2015年(0.54%)以来の高い数値となった。年初累計は3.34%(前月同期比+1.56%p)、直近12カ月(年率)は4.53%(前月同期比+0.34%p)であった。
分野別では、飲食料品分野が0.10%(前月比+0.44%p、前年同月比+0.51%p)で2カ月連続のマイナスから僅かだがプラスに転じた。果実(4.42%)やコメ(2.16%)などが大きく値上がりしたが、前月に続いてタマネギ(8月▲22.19%→9月▲12.85%)やジャガイモ(同▲11.89%→▲8.11%)が大幅に値下がりしたこともあり、全体としては小幅な上昇にとどまった。また、通信分野(同0.03%→▲0.07%)と衣料分野(同0.19%→▲0.02%)がマイナスとなり、他の分野は落ち着いた数値となった。しかし、燃料価格(同▲1.86%→4.18%)が大きく値上がりした影響などから、運輸交通分野(同▲1.22%→1.69%)が1994年のレアル計画導入以降で最も高い伸びを記録した。
金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は31日、Selicを6.50%で据え置くことを全会一致で決定した(グラフ1)。今回で5回連続となったSelicの据え置きは、多くの市場関係者の予想通りだった。28日(日)の大統領選の決選投票において、年金などの改革により積極的だとされるBolsonaroが当選したことで、財政赤字の削減などへの期待からドル高レアル安が是正される可能性があり、物価上昇への懸念は以前より低下した。ただし、Bolsonaro新大統領の政権運営能力に関しては未知数なところが多く、しばらくは様子見が続き政策金利に大きな変化はないとの見方が多くされている。
(出所)ブラジル中央銀行
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為替市場:10月のドル・レアル為替相場は、大統領選を優位に進め新大統領に当選したBolsonaro(社会自由党:PSL)への期待から、ほぼ連日ドル安レアル高が進む展開となった(グラフ2)。月の初め、大統領選に関する世論調査で前与党の左派労働者党(PT)の Haddadなどが伸び悩んだ一方、支持率トップで極右のBolsonaroがリードを広げた。そして、7日(日)に行われた大統領選の1回目の投票で過半数を獲得した候補がいなかったものの、Bolsonaroが46%もの高い得票率で決選投票進出を決め、同氏の当選によりブラジルで必要とされる諸改革が進むとの期待が高まった。
月の半ば、米国での長期金利上昇によりドル買いが強まる中、市場からの評価の高いGoldfajnブラジル中央銀行総裁が、Temer現政権の終了する今年の年末で総裁を辞任する可能性があるとの報が伝わり、レアルが売られる場面も見られた。しかし、決選投票に関する世論調査でBolsonaroがHaddadを支持率で上回るだけでなく、拒絶率ではBolsonaroがHaddadを下回る結果になったことや、9月の正規雇用(CAGED:新規雇用数―失業者数)が13.7万人のプラスでリセッション前の2014年のレベルとなったことを好感し、レアル高は続いた。
その後、米国で民主党のObama前大統領などの著名な政治家やCNNに小包爆弾が郵送されてことでテロの危険性が高まり、一時ドルが買われた。ただし、BolsonaroとHaddadの支持率の幅が若干狭まったものの、Bolsonaroが勝利する可能性が高いまま決選投票を迎えることになり、レアル高の傾向に大きな変化はなかった。そして、28日(日)にBolsonaroが大統領に選出されたことで、週明けは一旦レアルは買われたが、市場の焦点が当選後はBolsonaro新大統領への期待から新政権の議会運営能力などに移行し、それらを不安視する見方からレアル安となった。ただし、月末はドルが前月末比▲7.15%の下落となるUS$1=R$3.7171(買値)で10月の取引を終えた。
(出所)ブラジル中央銀行
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株式市場:10月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、月の前半はBolsonaro当選への期待から急伸したが、月の後半は海外要因などから値動きの大きい展開となった(グラフ3)。月の初め、大統領選中の襲撃事件で入院していたBolsonaroが退院後の世論調査でトップかつ支持率を伸ばしたのに対し、PTのHaddadへの拒絶率が上昇したことで、Bolsonaroの当選によりブラジルで必要とされる改革が進むとの期待が高まった。7日(日)に行われた大統領選の1回目の投票でBolsonaroとHaddadが決選投票に進んだが、Bolsonaroの得票率が事前の世論調査より高かったことに加え、同時に行われた上下院議員選挙でもBolsonaroの所属するPSLが躍進した。そのため、Bolsonaroが当選した場合、弱点の一つに挙げられていた議会における政治基盤の弱さはかなり是正されるとの楽観的な見方が強まり、株価は大きく上昇した。
しかし、その後の株価はしばらく乱高下することとなった。上昇要因としては、決選投票に関する世論調査でHaddadよりBolsonaroの勢いが増したこと、9月のブラジルの雇用統計が予想より良かったことなどが挙げられる。下落要因としては、大統領選で優位に立っていたBolsonaroが電気公社Eletrobrasの民営化に関して否定的な発言を行ったことで同社株が大きく売られたこと、米国をはじめ世界的に株安が進んだこと、当選の可能性が高まるBolsonaroが経済に精通していないと見られる中、Temer現政権下でインフレ抑制などに貢献したGoldfajn中央銀行総裁が次期政権成立前に辞任する可能性が報じられたこと、ジャーナリスト殺害疑惑をめぐる米国とサウジアラビアの関係が悪化したこと、米国で小包爆弾が郵送されたテロ事件が発生したことなどが挙げられる。
ただし月末に向け、Bolsonaroが当選する確率が高いまま大統領選挙戦が終了することになったことや、急落した米国株が反発したことでBovespaも上昇。28日(日)に行われた大統領選の決選投票でBolsonaroが勝利したことを受け、週明けの株式市場は一旦上昇したが、米国が追加の対中関税措置を講じるとの報じられた影響で株価は値を下げた。しかし、新大統領に選出されたBolsonaroが、来年1月の就任前となる今年中にもTemer政権の協力を得て年金改革などに一部着手する意向を示したことで急伸し、月末は前月末比10.18%もの上昇となる87,421pで10月の取引を終了した。
(出所)サンパウロ株式市場
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