低空飛行の第2四半期GDP

ブラジル経済動向レポート(2018年8月)

海外調査員(サンパウロ大学客員教授)近田 亮平

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第2四半期GDP:2018年第2四半期のGDPが発表され、前期比+0.2%、前年同期比+1.0%、年初累計(上半期)比1.1%、直近4四半期比+1.4%、総額(名目)がR$1兆6,933億だった(グラフ1)。5月にトラック運転手による道路封鎖ストライキが発生したこともあり、前期比の成長率がマイナスになる可能性も予測されていたが、0.2%と僅かだがプラスを記録した。ただし、景気回復のスピードは一時期よりも緩やかで、その低空飛行の様子はGDP成長率の推移に表れており、2018年の通年のGDP成長率は1%強になるとの見方が多くされている。なお今回、GDP成長率に関して2018年の第1四半期が0.4%→0.1%、2017年の第4四半期が0.2%→0.0%など、一部で修正が行われた。

グラフ1 四半期GDPの推移

グラフ1 四半期GDPの推移

(出所)IBGE (注)成長率は左軸、総額は右軸(Bは10億)。


第2四半期GDPの需給に関して(グラフ2と3)需要面を見ると、雇用をめぐる状況の改善が鈍いため、家計支出(前期比+0.1%、前年同期比+0.7%)はプラス成長だが前期比での伸び率は小さくなった。トラック運転手が道路封鎖ストライキで要求した燃料価格の値下げに対応したこともあり、政府支出(同+0.5%、同+0.1%)は増加した一方、投資を示す総固定資本形成(同▲1.8%、同+3.7%)は前期比でマイナスに転じた。また、道路封鎖で物流が一時ストップした影響を直接受けた輸出(同▲5.5%、同▲2.9%)と輸入(同▲2.1%、同+6.8%)は、輸入の前年同期比を除き大きな落ち込みとなった。

供給面では、5月の物流の麻痺が農牧業(同0.0%、同▲0.4%)および工業(同▲0.6%、同+1.2%)に出るかたちとなった。工業では鉱業(同+0.4%、同+0.6%)は好調だったが、製造業(同▲0.8%、同+1.8%)や建設業(同▲0.8%、同▲1.1%)では前期比での落ち込みが顕著だった。サービス業(同+0.3%、同+1.2%)に関しては、家計支出の伸び悩みなどから商業(同▲0.3%、同+1.9%)は前期比でマイナスだったが、情報サービス(同+1.2%、同+0.4%)など道路封鎖ストライキの影響をあまり受けなかった分野は好調であった。

グラフ2  2017年第2四半期GDPの受給部門の概要

グラフ2  2017年第2四半期GDPの受給部門の概要

(出所)IBGE
グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

(出所)IBGE

2017年上半期のGDP成長率は前年同期比1.1%となり、3期連続のプラスではあるが2017年下半期(同1.8%)より伸びが鈍化した(グラフ4)。内訳をみると需要面は、家計支出(同+2.3%)、政府支出(同▲0.3%)、総固定資本形成(同+3.6%)、輸出(同+1.3%)、輸入(同+7.3%)であった。供給面は、農牧業(同▲1.6%)、工業(同+1.4%)、サービス業(同+1.4%)だった。

グラフ4 上下半期GDP(前年同期比)の推移:2008年以降(過去10年間)

グラフ4 上下半期GDP(前年同期比)の推移:2008年以降(過去10年間)

(出所)IBGE


貿易収支:8月の貿易収支は、輸出額がUS$225.52億(前月比▲1.4%、前年同月比+15.8%)、輸入額がUS$187.77億(同+0.7%、同+35.3%)で、貿易収支はUS$37.75億(同▲10.7%、同▲32.6%)の黒字額を計上した。また、年初からの累計は、輸出額がUS$1,590.12億(前年同期比+8.9%)、輸入額がUS$1,212.01億(同+23.9%)で、貿易黒字額はUS$378.11億(同▲21.5%)だった。

輸出に関しては、一次産品がUS$104.48億(一日平均額で前年同月比+16.4%)、半製品がUS$21.17億(同▲24.2%)、完成品がUS$98.12億(同+35.1%)だった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$58.74億、同+38.5%)、2位が米国(US$29.34億、同+20.3%)、3位がアルゼンチン(US$15.47億、同▲4.8%)、4位がパナマ(US$13.37億)、5位がオランダ(US$9.56億)であった。輸出品目に関して、増加率では航空機エンジン(同+8,888.9%、US$2.59億)と乾燥機・部品(同+1,914.7%、US$1.78億)が1,000%以上も増加し、減少率では鉄鋼半加工品(同▲85.2%、US$0.56億)が顕著だった。輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$32.13億、同+43.7%)、原油(US$17.40億、同+29.3%)、鉄鉱石(US$16.42億、同+23.0%)の一次産品に加え、石油採掘プラットフォーム(US$12.99億)がUS$10億以上の取引額となった。

一方の輸入は、資本財がUS$37.99億(一日平均額で前年同月比+158.2%)と大幅に伸び、原料・中間財がUS$102.03億(同+16.2%)、耐久消費財がUS$7.06億(同+67.2%)、非・半耐久消費財がUS$16.91億(同+0.3%)、基礎燃料がUS$14.52億(同+128.0%)、精製燃料がUS$9.06億(同+2.9%)だった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$50.87億、同+89.9%)、2位が米国(US$26.34億、同+21.6%)、3位がアルゼンチン(US$11.78億、同+38.7%)、4位がドイツ(US$9.81億)、5位がメキシコ(US$4.74億、同+27.1%)であった。

物価:発表された7月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.33%(前月比▲0.93%p、前年同月比+0.09%p)で、6月の物価はトラック運転手の道路封鎖ストライキの影響で急騰したが、7月は落ち着いた数値に戻った。年初累計は2.94%(前月同期比+1.51%p)、直近12カ月(年率)は4.48%(前月同期比+0.09%p)であった。

分野別では、6月に2.03%と高騰した飲食料品分野が▲0.12(前月比▲2.15%p、前年同月比+0.35%p)とマイナスに転じた。タマネギ(6月1.42%→7月▲33.50%)、ジャガイモ(同17.16%→▲28.14%)、トマト(同0.94%→▲27.65%)が30%前後も値下がりした一方、加工牛乳(同15.63%→11.99%)など高止まりしたままの品目もあった。また、降雨量が少なく電力供給への懸念から6月に高騰した電気料金(同7.93%→5.33%)が引き続き大きく伸びたため、住宅分野(同2.48%→1.54%)が7月も最も高い上昇率を記録した。運輸交通分野(同1.58%→0.49%)は、道路封鎖ストライキの要求により燃料(▲1.80%)が値下がりした影響から、上昇率は先月より低下した。また、衣料分野(同▲0.16%→▲0.60%)と教育分野(同0.02%→▲0.08%)でマイナスを記録するなど、多くの分野で低い伸びとなった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は8月1日、Selicを6.50%で据え置くことを全会一致で決定した(当レポート7月号参照)。次回のCopomは9月18日と19日に開催予定。

為替市場:8月のドル・レアル為替相場は、発表された鉱工業生産指数(前年同月比)がトラック運転手の道路封鎖ストライキの影響で▲11.0%だった5月から、6月は13.1%と統計史上で最大の上昇を記録したこともあり、月の初めはレアル高に振れた。しかしその後は、急激にドル高レアル安が進行する展開となった。

その要因として、大統領選をめぐる先行き不透明感が挙げられる。前与党で左派の労働者党(PT)は収監中のLula元大統領の出馬を決定したため、9日夜に主要候補による初のテレビ討論会が開催されたが、世論調査での支持率が最も高いLula候補者は参加できず、その後も労働者党不在のままテレビでの討論会などが展開された。選挙戦では、国連人権委員会が収監中のLulaの出馬を認めるべきとの勧告を行ったり、有力候補のBolsonaro(社会自由党:PSL)が財政問題に精通していないことが露呈されたり、選挙戦が正式にスタートして初となる世論調査でLulaが支持率を伸ばした一方、市場関係者からの支持の高いAlckmin(ブラジル社会民主党:PSDB)が伸び悩むなど、不透明感が増すとともにレアルは値を下げて行った。また、米国によるトルコへの経済制裁により同国通貨が大幅に下落したため、レアルを含む新興国の通貨が売られた。特に、隣国アルゼンチンのペソは対ドルでレアル以上に大幅下落したため、同国が政策金利を45%に引き上げたことなどがレアル売りに拍車を掛けた。

月の後半、米国のFRBが9月の利上げを示唆したこと、米中の貿易戦争の混迷度が増したこと、隣国アルゼンチンの状況が更に悪化したことなどから、ドル高レアル安が加速した。ただし、30日の日中の取引でUS$1=R$4.2までレアル安が進むと、中央銀行が為替介入を行ったためレアル安は一服した。しかし月末は、ドルが前月末比で10.13%もの上昇となるUS$1=R$ 4.1347(売値)で8月の取引を終えた。

株式市場:8月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、石油公社Petrobrasの第2四半期の純利益が大方の予想に反して2011年以降で最大のR$100.7億だったことや、経済手腕に定評のあるMeirelles前財務大臣が現与党ブラジル民主運動(MDB)の正式な大統領選候補となったことで、月初は上昇して始まった。また、各政党の大統領選候補がほぼ出揃い、市場関係者から支持の高いAlckminが副大統領候補に女性(Ana Amélia上院議員。進歩党:PP)を選出したことや、前与党で左派の労働者党(PT)が収監中のため出馬が認められる可能性の低いLula元大統領の出馬を正式に決定したことも、株式市場にとって好材料となった。

しかし、米国が中国との貿易戦争を激化させる中、ロシアとトルコに対して経済制裁を行い、特に財政難のトルコが債務危機に陥る可能性をめぐり国際金融市場で懸念が高まると、株価は大幅に下落した。月の半ば、トラック運転手の道路封鎖ストライキにより5月に大幅なマイナスを記録した経済指標が、6月は大きく上向いたこと(中央銀行版GDPのIBC-Br:5月▲3.34%→6月3.29%、サービス産業指数:同▲5.0%→6.6%)で、株価は一時上昇する場面も見られた。ただし、道路封鎖ストライキや海外での輸入制限などの影響から、国内の食肉加工大手各社の第2四半期が大幅な赤字だったことや、Alckminに関して過去の選挙での不正資金疑惑が再び取り沙汰されたことから、株価は再び下落した。また、選挙戦が始まって初の世論調査で、汚職により出馬自体が無効になる可能性の高い労働者党のLulaが高い支持率となり、大統領選挙をめぐる混乱が増したことも株安要因となった。

株価は月の後半、発表された正規雇用や小売りなどに関する6月の経済指標が予想に反して良かったことや、米国とメキシコの間でNAFTAの再交渉が合意に至ったことで上昇。その一方、米中の貿易戦争が再び激化したこと、為替相場でドル高レアル安が進みインフレ懸念が増したこと、隣国アルゼンチンがIMFへの融資前倒しの依頼や政策金利の60%への更なる引き上げを行ったことなどで下落した。そして月末は、前月末比▲3.21%の下落となる76,678pで7月の取引を終了した。