問われる政治と経済の質

ブラジル経済動向レポート(2018年1月)

海外調査員(サンパウロ大学客員教授)近田 亮平

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貿易収支:1月の貿易収支は、輸出額がUS$169.68億(前月比▲3.6%、前年同月比+13.8%)、輸入額がUS$141.99億(同+12.7%、同+16.5%)であった。この結果、貿易収支はUS$27.68億(同▲44.6%、同+1.6%)と1月としては2年連続の黒字となり、金額は前月より少なかったが貿易の好調さを示すものとなった。

輸出に関しては、一次産品がUS$75.44億(1日平均額の前年同月比+11.2%)、半製品がUS$26.25億(同+1.1%)、完成品がUS$63.27億(同+23.6%)であった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$33.66億、同+11.2%)、2位が米国(US$22.47億、同+23.0%)、3位がアルゼンチン(US$12.05億、同+16.3%)、4位がオランダ(US$8.76億)、5位がチリ(US$5.40億)であった。輸出品目に関して、増加率では航空機(同+474.4%、US$1.98億)と燃料油(同+323.4%、US$1.22億)が300%以上の伸びとなり、減少率ではコック・バルブ(同▲48.9%、US$0.39億)や粗糖(同▲40.0%、US$4.47億)が顕著だった。輸出額では(「その他」を除く)、原油(US$20.98億、同+18.9%)と鉄鉱石(US$15.31億、同▲5.5%)がUS$15億以上の取引額となった。

一方の輸入は、資本財がUS$14.19億(1日平均額の前年同月比+11.4%)、原料・中間財がUS$85.09億(同+5.8%)、耐久消費財がUS$4.61億(同+43.2%)、非・半耐久消費財がUS$16.81億(同+13.9%)、基礎燃料がUS$8.27億(同+73.1%)、精製燃料がUS$12.89億(同+114.8%)だった。であった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$28.44億、同+21.9%)、2位が米国(US$23.90億、同+11.8%)、3位がドイツ(US$8.76億)、4位がアルゼンチン(US$7.27億、同+6.8%)、5位が韓国(US$5.40億、同+20.5%)であった。

物価:発表された2017年12月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.44%(前月比+0.16%p、前年同月比+0.14%p)で、この結果2017年の物価は2.95%(前年比▲3.34%p)となり、政府目標(中心値)4.50%を大きく下回った(グラフ1と2)。2017年の年間IPCAは、政府目標値を下回るものとしては2009年(3.18%)以来で、1998年(1.65%)に次いで低い数値となった。現在の通貨レアルを導入した1994年以降で、年間の飲食料品が▲1.87%と初めてマイナスを記録したことが影響した。

12月IPCAの分野別では、飲食料品分野が0.54%(前月比+0.92%p、前年同月比+0.46%p)で4月以来のプラスとなった。フェイジョン豆(carioca:11月▲8.40%→12月▲6.73%、mulatinho:同▲0.20%→▲4.35%)など値下がりした品目もあったが、クリスマスなどで需要の増した鶏肉一羽(同▲1.29%→2.04%)やクリスタル糖(同▲1.29%→2.04%)などマイナスからプラスに転じた品目が多かった。非飲食料品では、年末で旅行や娯楽の需要が高まり燃料費も値上がりした運輸交通分野(同0.52%→1.23%)や衣料分野(同0.10%→0.84%)が高い伸びとなった一方、先月高騰した住宅分野(同1.27%→▲0.40%)と通信分野(同0.15%→▲0.11%)がマイナスに転じるなど、その他の分野は落ち着いた数値となった。

2017年通年では、飲食料品(▲1.87%:前年比▲10.49%p)に関して、日常的に食されているフェイジョン豆(carioca:2016年46.39%→2017年▲46.06%、mulatinho:同101.59%→▲44.62%)が、前年の大幅な高騰から一転して大きく値を下げたことなどが、全体の物価下落に寄与した。非食料品に関しては、家財分野(同3.41%→▲1.48%)が値下がりし、他の分野も2016年より数値は低下したものが多かったが、教育分野(同8.86%→7.11%)をはじめ依然伸び率の高い分野もあった。

グラフ1 2017年の月間IPCAの推移

グラフ1 2017年の月間IPCAの推移

(出所)IBGE


グラフ2 過去10年間の年間IPCAの推移

グラフ2 過去10年間の年間IPCAの推移

(出所)IBGE (注)政府目標は中心値(4.50%)の上下幅±2%。


金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、1月に開催されなかった。次回のCopomは2月6日と7日に開催予定。

為替市場:1月のドル・レアル為替相場は、基本的にドル安レアル高での推移となった。レアル高の要因としては、2017年の貿易黒字額が過去最高だったこと、石油公社Petrobrasの米国での汚職事件訴訟に関して一定の区切りがついたこと、2017年の新車販売台数が5年ぶりに前年を上回るなど、発表された多くの経済指標が景気回復を示すものだったことに加え、電気公社Eletrobrásの民営化に関して政府が法案の取りまとめなど動きを活発化させたことなどが挙げあれる。

ただし、昨年末に年金改革法案の採決が見送られ、延期された2月に実施できるか懸念が高まったこともあり、格付け会社S&Pがブラジルの長期ソブリン格付けをBBからBBマイナスへ引き下げるなど、レアル安の要素もあった。また、世論調査で依然支持の多いLula元大統領の汚職疑惑に関して法廷判決が下される前、Lulaが今年の大統領選に出馬できなくなる可能性が高まり、国民間の政治社会的な分断が増すとの懸念からレアルを売る動きも見られた。

24日、左派勢力の有力な候補であるLula元大統領に対して有罪判決が下されると、市場はドル安レアル高に振れ、翌日に今月のドル最高値となるUS$1=R$3.1380(買値)を記録した。そして、月末までほぼ同じレベルで推移し、前月末比▲4.40%のドル安レアル高となるUS$1=R$3.1618(買値)で1月の取引を終えた。

Lulaへの有罪判決は政治腐敗を是正するという点で、ブラジルにとって新たな一歩だといえよう。しかし、Lulaが窮地に陥った一方、昨年、同様に汚職疑惑のあるTemer大統領やAécio上院議員(ブラジル社会民主党PSDBの前大統領候補)は政治的な判断などで権力の座にとどまっており、ブラジル政治の質や公正が問われている。

株式市場:1月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、ほぼ右肩上がりで値を上げる展開となった。その要因として、ブラジルの貿易黒字額が2年連続で過去最高を記録したり、11月の中央銀行版GDPが前月比0.49%と3カ月連続のプラスになったりするなど、経済に対する楽観的な見方が強まったことが挙げられる。IMFもブラジルの経済成長見通しを上方修正(2018年1.9%、2019年2.1%)した。また、石油公社Petrobrasが米国での汚職事件の訴訟に関してUS$29.5億の和解金(米国で外資系企業が支払う和解金としては過去最高額)の支払いで合意に至ったと発表したことや、米国や日本など海外の主要株価が上昇する中、外国人投資家がブラジルなど新興国市場への投資を活発化させたことで、Bovespaは18日に史上初めて終値で80,000pを突破した。

Lula元大統領の収賄やマネーロンダリング疑惑に関して24日に判決が下される前、政治や社会の混乱が増すとの観測から株価は下落する場面も見られた。しかし実際、Lula元大統領の汚職疑惑に対して有罪判決が下され、経済運営での評価が低い左派労働者党(PT)のLulaの大統領選出馬が困難になると、このことを好感して25日には85,531pの史上最高値を記録した。その後、月末も同水準を維持し前月末比+11.14%の上昇となる84,913pで1月の取引を終了した。

ただし月末、失業率に関する統計が発表され、2017年12月(直近3カ月)としては11.8%で11月(同)の12.0%より改善したものの(グラフ3)、通年としては12.7%で統計史上最も高い数値となった(グラフ4)。また、最近の失業率の改善はインフォーマル部門の増加による部分もあり、年金改革法案の議会採決の可否が注目される中、社会保障の保険料を納めている正規雇用者数は2017年に前年より110万人減少した。緩やかに回復しているブラジルの経済は、その質も問われているといえよう。

グラフ3 年毎の失業率の推移:2012年以降

グラフ3 年毎の失業率の推移:2012年以降

(出所)IBGE


グラフ4 失業率と実質月平均所得の推移:2012年以降

グラフ4 失業率と実質月平均所得の推移:2012年以降

(出所)IBGE