緩やかな景気回復と課題越年の2017年

ブラジル経済動向レポート(2017年12月)

海外調査員(サンパウロ大学客員教授) 近田 亮平

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貿易収支:12月の貿易収支は、輸出額がUS$175.95億(前月比+5.4%、前年同月比+10.4%)、輸入額がUS$125.98億(同▲4.1%、同+9.3%)で、貿易黒字額はUS$49.98億(同+40.9%、同+13.2%)を計上した(グラフ1)。2017年の累計は、輸出額がUS$2,177.46億(前年比+17.5%)、輸入額がUS$1,507.45億(同+9.6%)で、貿易黒字額はUS$670.01億(同+40.4%)となり、貿易黒字は2016年(US$476.83億)に続き2年連続で過去最高額を記録した。

輸出に関しては、一次産品がUS$72.73億(1日平均額の前年同月比+35.5%)、半製品がUS$26.25億(同+8.8%)、完成品がUS$72.83億(同+14.7%)だった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$36.10億、同+52.0%)、2位が米国(US$23.72億、同+15.2%)、3位がアルゼンチン(US$15.77億、同+40.7%)、4位がオランダ(US$6.96億)、5位がチリ(US$5.11億)であった。輸出品目に関して、増加率ではトウモロコシ(同+297.1%、US$6.21億)と大豆(同+267.9%、US$9.13億)が200%超の伸びを記録し、減少率では精糖(同▲31.6%、US$1.56億)や大豆粕(同▲30.2%、US$2.36億)が顕著だった。輸出額では(「その他」を除く)、鉄鉱石(US$15.30億、同▲4.8%)と原油(US$11.75億、同+87.3%)がUS$10億を超える取引額を計上した。なお、2017年の主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$501.78億、前年比+35.3%)、2位が米国(US$268.73億、同+17.0%)、3位がアルゼンチン(US$176.20億、同+32.4%)、4位がオランダ(US$93億)、5位が日本(US$52.63億、同+15.2%)であった。

一方の輸入は、資本財がUS$14.64億(1日平均額の前年同月比+14.7%)、中間財がUS$74.77億(同+16.5%)、耐久消費財がUS$4.46億(同+23.8%)、非・半耐久消費財がUS$15.55億(同+11.0%)、基礎燃料がUS$7.16億(同+46.5%)、精製燃料がUS$9.34億(同+7.4%)だった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$22.66億、同+16.9%)、2位が米国(US$20.91億、同+8.3%)、3位がドイツ(US$7.53億)、4位がアルゼンチン(US$7.48億、同▲10.2%)、5位がメキシコ(US$4.23億、同+52.5%)であった。2017年に関しては、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$279.03億、前年比+18.0%)、2位が米国(US$248.46億、同+5.2%)、3位がアルゼンチン(US$94.35億、同+4.7%)、4位がドイツ(US$92億)、5位が韓国(US$52.40億、同▲3.1%)だった。

グラフ1 2017年の貿易収支の推移

グラフ1 2017年の貿易収支の推移

(出所)工業貿易開発省

物価:発表された11月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.28%(前月比▲0.14%p、前年同月比+0.10%p)で、年初累計は2.50%(前月同期比▲3.47%p)、直近12カ月(年率)は2.80%(前月同期比+0.10%p)であった。

分野別では、飲食料品分野が▲0.38%(前月比▲0.33%p、前年同月比▲0.18%)と7カ月連続のマイナスを記録した。キャッサバ芋の粉(10月0.27%→11月▲4.78%)、トマト(同4.88%→▲4.64%)、果物(同0.35%→▲2.09%)などの値下がりが顕著だった。ただ、家庭消費品目は▲0.72%のマイナスだったが、外食品目は0.21%値上がりした。また、近年ブラジルで定着したブラック・フライデーの影響から、AV機器(▲1.46%)や家電(▲1.11%)が値下がりしたため家財分野(10月▲0.39%→11月▲0.45%)が前月に続きマイナスを記録し、衣料分野(同:0.71%→0.10%)も低い伸びとなった。一方、電気料金(4.21%)の大幅な値上げにより住宅分野(同1.33%→1.27%)は2カ月連続で1%超の伸びとなった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は6日、Selicを7.50%から7.00%へ0.50%p引き下げることを全会一致で決定した。引き下げ幅は前々回までが1.00%p、前回が0.75%でありペースはダウンしたが、Selicは過去最低となる7.00%を記録した。次回のCopom(2月6日と7日開催予定)でもSelicを0.25%p引き下げ6.75%にする可能性に中央銀行は言及している。ただしSelicは、越年されてしまった年金改革法案という課題の行方に影響されるとともに、引き下げられたとしてもそのサイクルは次回で終了し、しばらく6.75%で据え置かれると見方が多くされている。

為替市場:12月のドル・レアル為替相場は、ブラジルにとって重要な課題である年金改革法案が年内に採決できず越年されることになった影響から、ドル高レアル安の展開となった。 月のはじめ、Temer政権が年金改革法案に賛成する政党に対して、来年の総選挙(大統領、上下院議員、州知事、州下院議員)に関して資金面などでの協力を提案したことや、連立政権からの離脱を宣言しながらも態度を決めかねたり年金法案の修正案を提示したりしているPSDB(ブラジル社会民主党)に対して批判が高まったことにより、同法案の年内可決の可能性が高まったことで、一旦はレアル買いが強まった。しかし、ブラジルの政策金利が引き下げられた一方、米国のTrump大統領がエルサレムをイスラエルの首都に認定したことで中東情勢が不安定化するとの見方から、有事のドル買いとなった。また、年金改革法案に関して、Maia下院議長が年内だけでなく来年10月の選挙前に可決できない場合もあると述べたこと、Temer大統領自身も同法案の採決を来年2月に延期する可能性を示唆したこと、Temer大統領が検査のため再び入院したこと、政府与党MDB(ブラジル民主運動党。今月PMDBからMDBへの党名変更を決定)の主要議員が同法案の採決は来年2月のカーニバル前になると述べたことなどが、レアル売りの要因となった。そして、14日にはUS$1=R$3.3332(売値)の月内ドル最高値を記録した。

その後、今年のクリスマス商戦が好況で景気の回復を示すものだったことなどから、レアル高に振れる場面も見られた。しかし月の後半、アルゼンチンが年金改革を実施できたのに対し、ブラジルは現政権での法案成立は不可能ではないかとの見方や、11月の正規雇用状況(新規雇用-失業)が▲1.2万人と市場の予想に反してマイナスだったことなどから、再びドル高レアル安となった。そして月末は、ドルが前月末比1.42%の上昇となるUS$1=R$3.3080(売値)で2017年の取引を終えた。

なお2017年の為替相場は、ブラジルの緩やかな景気回復によりドル安レアル高傾向となった時期もあった。しかし、年央にTemer大統領の汚職をめぐり政治的な混乱が増したことや、最終的に越年となった年金改革法案の影響からレアル売りが強まる時期もあり、前年末比ではドルが1.50%値を上げたレベルで終了した(グラフ2)。

グラフ2 2017年のレアル対ドル為替相場の推移

グラフ2 2017年のレアル対ドル為替相場の推移

(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:12月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、月の半ば過ぎまではほぼ横ばいの展開となった。株価上昇の要素としては、発表された第3四半期GDPが前期比0.1%と僅かだが3期連続のプラスとなり緩やかだが景気回復を示したこと、Temer政権が年金改革法案への賛成票獲得において来年の選挙協力を関連付ける戦略に出たことで、Maia下院議長が「先週は悲観的だったが今は現実的である」と述べるなど、同法案の採決に向け前進が見られたこと、政策金利Selicが史上最低値となる7.00%へ引き下げられたこと、年金改革法案の年内採決が困難になりブラジルへのネガティブな評価が強まることを懸念したTemer大統領が、税制改革案の来年初めの提示を目指し作業を進めるよう指示したこと、などが挙げられる。

一方の株価下落の要素としては、議会の年内会期中に年金改革法案を可決するのは困難だとの見解が一部議員などから示されるようになったこと、それに対してTemer政権が同法案への賛成票獲得のため選挙協力や財政支援など強引ともいえる手段を講じたこと、年内に同法案が採決できない場合、来年は大統領を含む総選挙が10月にあるため、年金改革はTemer政権下では行えず次の政権へと持ち越される懸念が浮上したこと、そして、最終的に同法案の採決が来年2月のカーニバル明け(19日)へ正式に延期されたことなどが挙げられる。

しかし月の後半、ブラジルの航空会社Embraerが米国のBoeingと何かしらの提携に関して交渉中と発表したことで同社株が大幅に値を上げたことや、今年のクリスマス商戦が2011年以降で最もよかったことなどから上昇。月末は月内最高値となる76,402p(前月末比6.16%の上昇)を記録し、2017年の取引を終えた。

2017年の株式相場は、ブラジルの緩やかな景気回復を先取りするかたちで上昇した。越年された課題である年金改革法案の影響から年の後半に軟調な展開となったが、前年末比では26.86%もの上昇となるレベルで終了した(グラフ3)。

グラフ3 2017年の株式相場(Bovespa指数)の推移

グラフ3 2017年の株式相場(Bovespa指数)の推移

(出所)サンパウロ株式市場