前月から増す先行き不透明感

ブラジル経済動向レポート(2017年6月)

地域研究センター 近田 亮平

PDF (595KB)

貿易収支:6月の貿易収支は、輸出額がUS$197.88億(前月比0.0%、前年同月比+18.2%)、輸入額がUS$125.93億(同+3.8%、同▲1.4%)であった。この結果、貿易収支はUS$71.95億(同▲6.1%、同+81.1%)で、6月として過去最大の黒字額を記録した。年初からの累計は、輸出額がUS$1,077.14億(前年同期比+19.3%)、輸入額がUS$714.95億(同+7.3%)で、貿易収支もUS$362.19億(同+53.0%)と上半期として過去最大の黒字額となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$95.91億(1日平均額の前年同月比+28.5%)、半製品がUS$29.90億(同+28.2%)、完成品がUS$67.52億(同+16.1%)であった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$50.85億、同+24.3%)、2位が米国(US$23.36億、同+18.7%)、3位がアルゼンチン(US$15.59億、同+35.2%)、4位がオランダ(US$8.61億)、5位がインド(US$6.35億)だった。輸出品目に関して、増加率ではトウモロコシ(同+2,063.5%、US$0.91億)が突出しており、減少率では大豆粕(同▲12.9%、US$4.73億)とアルミニウム(同▲12.1%、US$0.39億)が顕著だった。輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$33.54億、同+18.2%)、原油(US$19.75億、同+114.1%)、鉄鉱石(US$13.66億、同+32.2%)の一次産品、および、半製品の粗糖(US$10.72億、同+46.4%)がUS$10億以上を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$12.61億(1日平均額の前年同月比▲50.5%)、中間財がUS$78.73億(同+13.6%)、耐久消費財がUS$4.19億(同+17.4%)、非・半耐久消費財がUS$13.97億(同+5.0%)、基礎燃料がUS$7.41億(同+30.0%)、精製燃料がUS$9.00億(同+104.5%)であった。主要輸入元は、1位が米国(US$22.67億、同+18.3%)、2位が中国(香港とマカオを含む)(US$21.79億、同+12.6%)、3位がアルゼンチン(US$8.35億、同+12.7%)、4位がドイツ(US$7.51億)、5位が韓国(US$4.57億、同▲64.5%)だった。

物価:発表された5月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.31%(前月比+0.17%p、前年同月比▲0.47%p)で、前月より上昇したものの直近の5月としては2007年(▲0.28%)に次ぐ低い数値だった。年初累計は1.42%(前月同期比▲2.63%p)、そして、直近12カ月(年率)は3.60%(前月同期比▲0.48%p)と4%を下回り、前月と同様に2007年7月(3.47%)以降で最も低かった。

食料品は▲0.35%(前月比▲0.93%p、前年同月比▲1.13%p)で、3カ月ぶりのマイナスとなった。タマネギ(4月6.03%→5月7.67%)やジャガイモ(同20.81%→4.28%)など値上がりした品目もあったが、果物(同▲0.79%→▲6.55%)、大豆油(同▲4.17%→▲6.30%)、ニンジン(同▲0.71%→▲5.86%)の5%以上をはじめ値下がりした品目が多かった。非食料品では、電気料金が引き上げられた影響で住宅分野(同▲1.09%→2.14%)が大幅に上昇したほか、衣料分野(同0.48%→0.98%)や保健・個人ケア分野(同1.00%→0.62%)も高い伸びとなった。しかし、航空運賃が大幅に値下がりした運輸交通分野(同▲0.06%→▲0.42%)と家財分野(同▲0.28%→▲0.23%)が前月に続きマイナスを記録し、その他の分野でも落ち着いた物価上昇となった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、6月に開催されなかった。次回のCopomは7月25日と26日に開催予定。

為替市場:6月のドル・レアル為替相場は、Temer大統領をめぐる口止め工作疑惑が発覚して大幅なドル高レアル高に振れた5月の流れを引継ぎ、主に国内の政治経済的な要因で増した先行き不透明感によりレアルが売られる展開となった(グラフ1)。

まず、前月発表の第1四半期GDPが示したように、アグリビジネス産業が最近のブラジル経済を牽引しているが、月の前半、食肉加工分野で世界最大規模のJBSが為替相場で不正な取引をしていた可能性が取り沙汰された。また、2014年の大統領選でTemer大統領がDilma前大統領の副大統領候補として共闘した際、不正資金の使用などの疑惑があったため、両者の当選自体を無効とするか否かを選挙最高裁が審議を行った。その結果、4対3の僅差だが当選の有効性を認める判断が下された。しかし、Temer大統領には他にも複数の汚職疑惑があり、今後それらに関する法的判断が下される見通しであるため、政治的混乱が増すことが懸念された。

月の後半になると、政府の労働改革法案が上院委員会で否決され、汚職疑惑の追及などによるTemer政権の求心力の低下が露呈した。また、米国がブラジルからの牛肉輸入を全面的に一時停止すると発表した。今年3月後半の食肉不正問題の発覚後、米国は全てのブラジル産牛肉を検査していたが全体の11%で問題が認められており、事態の改善が見込めないため講じられた措置であった。食肉輸出はブラジル経済にとって重要であり、米国の他にも追随する国が出るのではとの不安が広がりレアルが売られた。

ただしその後、再度審議された労働改革法案が上院委員会で可決され本会議での採決に回されることになった。また、最近の物価の落ち着きをもとに政府は、現在4.50%(中心値)のインフレ目標を2019年に4.25%、2020年に4.00%へと14年ぶりに引き下げることを発表した。これらのことが評価され、月末に向けレアルが上昇する展開となった。月末はドルが若干戻し、前月末比1.99%のドル高レアル安となるUS$1=R$3.3082(売値)で取引を終えた。

グラフ1 レアル対ドル為替相場の推移

グラフ1 レアル対ドル為替相場の推移

(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:6月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)も、前月から先行き不透明感が増しているため、月の半ば過ぎまで値を下げる展開となった(グラフ2)。

要因としては、Temer大統領の汚職口止め疑惑を暴露した食肉加工企業の大手JBSに関して、インサイダー取引の疑いが再び浮上し、Moody’sも同社を格下げしたことでJBS株が大きく売られたことが挙げられる。月の半ば、2014年の大統領選に関して当選の正当性を認める法的判断が下され、Temerは本件に関しては大統領職を辞さずに済むことになった。しかし、Temer大統領をめぐる疑惑に対する法的審議は別件が残っており、政治的な混乱はしばらく続くことが嫌気された。また、政府の労働改革法案に対して、連立与党議員が反対票を投じたことにより上院委員会で同法案が否決された。そのため今後、審議中の労働および年金の改革法案の内容が修正される可能性が高まったことも、株価の下落材料となった。月の後半、口止め工作をTemer大統領が示唆したとされるJBSトップとの面談の録音データに関して、調査を行っていた連邦警察が、データは偽造だとするTemer政権の主張と異なり、編集されたものではないとの結果を発表し、政治的な混迷度が増すことになった。

ただし、3月~5月の失業率が13.3%と前年同期比で20.4%のプラスだったものの、若干の回復傾向(前々期13.7%、前期13.6%)にあることがわかった。また、政府は予定していたBolsa Família(条件付き現金給付の貧困対策)の支給額の増額を見送ることを発表し、このことで財政難や政治に関する先行き不透明感が緩和された。そのため、月末に向けて株価は値を上げ、月末は前月末比0.30%の上昇となる62,900pで取引を終了した。

なお、Temer大統領をめぐる汚職疑惑が発覚した前月はカントリー・リスクも急騰し、その後も政権の存続や改革法案審議に関する先行き不透明感から、数値は高いレベルで推移している(グラフ3)。

グラフ2 株式相場(Bovespa指数)の推移

株式相場(Bovespa指数)の推移

(出所)サンパウロ株式市場
グラフ3 ブラジルのカントリー・リスクの推移

グラフ3 ブラジルのカントリー・リスクの推移

(出所)J.P.Morgan