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No.34
[97/98アジア経済危機]「マクロ不均衡・資金流出・金融危機と対応の問題点」

エグゼクティブ・サマリー

第1部:テーマ別分析編

第1章 マクロ経済の概観と債務問題
「奇跡」とまで言われた東アジア諸国の成長は、貿易自由化と資本取引自由化の両者がかみ合って達成されたとも言える。しかし、流入した膨大な資金が一転して急激に流出し始めたことが、深刻な通貨危機を招いた(以上、本章前半)。
ところで、国際収支状況への不安がなければ通貨危機も起こらないはずである。本章後半では、国際収支状況は、既にほとんどの国において十分過ぎるほどの改善が起こっていることを示した(ただし、インドネシアのみはやや微妙)。

第2章 国際金融市場の問題と資本取引規制
金融市場の発展は、「不確実性」に対処する手段を提供するという機能を増進させてきた。しかし東アジア通貨危機は、「情報の非対称性」に起因するモラル・ハザードや群衆行動、自己実現的予想などにより、市場が機能不全を起こしている可能性を強く示唆している。
こうして東アジアの事態は、資本取引規制の議論を呼び起こしている。チリ・モデルやトービン税のアイディアは、特に短期資本の移動を規制しようとするものだ。これに対し、マレーシアの為替規制、クルーグマンの提案などは、資本規制そのものよりもマクロ経済政策(特に金融政策)の自由度を確保し、景気回復を優先することが眼目となっている。

第3章 金融システムの問題とその対処法
金融危機への対応では、経済全体への悪影響を最小限にするとともにモラル・ハザードを防止するという、矛盾を生じ易い二つの目的を、同時に達成せねばならない。東アジア諸国はこうした困難な課題に取り組んできたが、状況を子細に点検するとまだまだ時間がかかる課題だと言える。
また、ここでは高金利政策の下で、金融改革を行うことがいかに困難なことかを示した。不良化した金融機関を厳正かつ迅速に処理することは必要だが、それは、低金利策および景気刺激策と組み合わせてこそ成果をあげるものである。

第4章 IMFの役割
IMFを無責任に批判することは良くない。また、IMF批判を政争の具にすることにも反対である。それを踏まえた上で、IMFの役割を検討した。現状では IMFは、(1)国際収支改善のための政策(マクロ安定化政策)、(2)債務交渉の仲介、(3)経済構造の改革(構造改革政策)の3つの役割を担っている。
ここでの提言は、(1)、(2)の役割は、その内容の十分な検討は必要であるが、今後も期待される役割である。(3)の役割は縮小の方向が望ましいというものだ。また、本章では高金利政策以外の方策がありうるかどうかも検討した。

第2部:国別編

インドネシア・韓国・タイ
第5章から第7章は、IMF支援対象国であるインドネシア、韓国、タイの3ケ国を抽出し、国別分析を行った。第4章までのテーマ別分析との補完関係に注意を払った。例えば、インドネシア(第5章)では、政治と経済の問題が複雑に絡み合って通貨危機が深刻化していく様を丹念にあとづけているが、これは、第4 章でIMFの役割を検討する際の好材料を提供している。また、韓国(第6章)、タイ(第7章)では、各国の金融再建策の推移を詳しく考察しているが、これは第3章と補完関係にある(ただし、筆者間にある微妙な見解の違いを無理に統一はしなかった)。

終章 補足と提言
まず、ごく最近の世界経済の変調とアジア経済危機の関係に関し、補足的な考察を示した。続いて本書全体を受けた問題整理と提言を試みた(ただし、IMFの役割に関する提言は第4章に譲った)。
簡単に要約すると、第2章で検討した群衆行動や自己実現的予想の可能性がある下で、当該国経済への信任回復の前提条件として金融改革をあげるのは不適切である。それは、第3章で見たように金融改革にはどうしても時間がかかるし、短期的な経済状況を悪化させるものだからである。そうではなく、第1章で検討したように、経常収支改善状況にこそ焦点を当てるべきだろう。また、第3章で検討したように、金融改革は必要な政策であるが、金利を低下させる中で行うべきである。第4章(および第2章でも若干)で検討したように、論理的には高金利以外の選択肢も存在する以上、高金利政策を金科玉条として扱うことは避けるべきであろう。