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No.27
東アジアの長期経済見通し:次の10年も高成長は持続するか
エグゼクティブ・サマリー
    日本にとっての東アジア経済
    NIEs(韓国、台湾、香港、シンガポール)、ASEAN4(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)、中国から成る東アジアは、過去10年間に年率で8.5%の成長を遂げ、生産、需要の両面で世界の成長センターと呼ばれるようになっている。実際、96年での東アジアの輸出は日本の1.7倍であり、輸入は日本の2.1倍である。

    このように拡大している東アジアは、日本の今後のグローバル化と競争力強化の基盤となろう。96年で見ると、東アジアは、日本の輸出の42%、輸入の35%を占めている。このため、東アジアの今後の経済動向は、日本経済にも大きな影響を与える。

    96年の東アジアの成長減速
    86年以降、東アジアは、天安門事件後の中国経済の低迷期である89年、90年を例外として、95年まで8%を上回る成長を継続してきた。しかし、96年には、7.6%と8%を下回る成長となった。東アジアの中でも、韓国、シンガポールの96年の減速は、パソコン及びその部品の世界的な在庫調整に起因する輸出の鈍化を契機としている。タイの減速は、産業構造の高度化への調整過程での輸出の減少が主因である。

    計量経済モデルによる東アジアの長期経済予測
    96年の東アジアの成長減速を考えると、今後の高成長を所与のものとすることはできない。このため、東アジアの各国・地域のマクロ経済構造を統計データに基づいて分析し、次の10年程の東アジアの長期経済予測を実証的に行うことが重要である。このリポートでは、当研究所の「アジア工業圏経済展望」プロジェクト・チームの東アジア諸国・地域別の計量経済モデルによる予測値に基づいて、東アジアの2005年までの長期経済見通しを行う。

    東アジア経済の長期経済見通し
    上述のプロジェクト・チームの予測によれば、次の10年間に、年率で、NIEsの成長率は5.8%と前10年間よりも2.3ポイント低下する。これは、NIEsのより一層の先進国化を反映している。

    ASEAN4の次の10年間の成長率は、年平均で8.1%と予測され、前10年期よりも0.6ポイント上昇する。これは、インドネシア、フィリピンの両国が、外資に対する規制緩和などにより、成長を加速するためである。特に、21世紀に入ってからは、インドネシアが、資本と貿易についての規制緩和を持続するならば、中国と並んで東アジアの成長のけん引車となろう。

    中国は、過去10年間に年率で9.9%という高成長を達成した。鄧小平後も改革・開放路線が継続すれば、次の10年間には、一桁台の物価上昇率のもとで、年率9.2%の成長となろう。

    東アジア全体としては、NIEsの減速を反映して、次の10年間の年平均の成長率は、前10年間と比べて0.9ポイント下落する。しかし、それでも東アジアは中国とASEAN4の経済発展の継続により、次の10年間も年率で7.6%の高成長を達成しよう。

    要約表 東アジア諸国・地域の期間別の年平均経済成長率(GDP)(%)

    1986年-1995年 1996年-2000年 2001年-2005年 1996年-2005年
    韓国 8.8 6.4 5.2 5.8
    台湾 7.9 5.5 6.3 5.9
    香港 6.5 5.1 4.8 4.9
    シンガポール 8.5 7.4 7.2 7.3
    NIEs 8.1 6.0 5.6 5.8
    マレーシア 7.7 7.8 7.4 7.6
    タイ 9.4 6.6 7.9 7.2
    インドネシア 7.8 8.0 9.4 8.7
    フィリピン 3.4 6.7 7.8 7.2
    ASEAN4 7.5 7.3 8.4 7.9
    中国 9.9 9.7 8.6 9.2
    東アジア 8.5 7.6 7.4 7.5
    注:
    (1)1996年値は、タイ、フィリピンを除き、実績値または政府推計値。タイ、フィリピンについては、アジア経済研究所、「アジア工業圏経済 展望」プロジェクト・チームの推計値。1997年-2005年値は、同チームの予測値。
    (2)NIEs、ASEAN4、東アジアの経済成長率の算定にあたっては、まず、各国・地域のGDPを1996年価格表示(各国・地域通貨建)とした。次に、同年対米ドル為替レートにより、各国・地域のGDPを96年米ドル固定価格表示とした。各グループの成長率はこれら各国・地域のGDPの和の伸び率である。
    (3)期間の年平均成長率を計算する際、期間の表示法は二通りある。たとえば、過去10年間の年平均成長率の計算では、85年:time=0、86年:time=1、・・・、95年:time=10であり、この10年間表示としては、time=0を含む「1985年-1995年」とtime=1からを表示する「1986年-1995年」の二通りがある。本リポートでは、後者の表示を採用している。


    アジ研長期予測とアジ銀超長期予測
    このリポートでは、当研究所の計量経済モデルによる東アジアの10年間という長期経済予測(以下、アジ研長期予測と呼ぶ)を提示した。アジア開発銀行(アジ銀)は、この5月に、東アジアを含む途上国の次の30年という超長期経済予測を行っている。アジ銀の予測は、各国・地域の経済発展率(一人当たりGDPの伸び率)の年平均値である。アジ研の東アジアの経済予測値をアジ銀と比較可能なように経済発展率に換算した。このようにして、アジ銀の東アジアの超長期予測値とアジ研の長期予測値を比べると、NIEs、ASEAN4、中国のそれぞれについて、アジ銀の超長期経済発展率の予測値がアジ研の長期予測値を、それぞれ2ポイントづつ下回っている。

    日本が60年から80年代に経験したように、経済の発展段階が高まれば、その速度は低下する。東アジアが今後も高成長を続ければ、年平均での経済発展率は、期間が長くなればなる程、数値は低くなるのは当然のことである。予測手法は異なるが、東アジアの年平均経済発展率は、長期(10年)的にはアジ研予測の6.3%であるが、超長期(30年)的にはアジ銀予測の4.2%と2ポイント低下している。ちなみに、86年-95年の10年間と次の10年間に東アジアの年平均成長率が1ポイント低下していることをも考慮すれば、アジ研予測とアジ銀予測は、整合的であると言えよう。