インド政治経済の展開と第15次総選挙 — 新政権の課題

機動研究成果報告

近藤 則夫  編
2009年10月

第15回連邦下院選挙は 2009年 3月に公示され、4月から 5月にかけて投票が行われた。事前の予想は、与党である国民会議派(以下「会議派」)率いる統一進歩連合(United Progressive Alliance = UPA)、および、野党のインド人民党 (Bharatiya Janata Party = BJP)率いる国民民主連合(National Democratic Alliance = NDA)とも議会過半数を得られず、政権樹立が難しくなるのではないか、というものであった。この予想は半分当たらなかったといえよう。確かに両陣営とも議席過半数 (総選挙議席数: 543)を確保できずその意味では予想は当たった。しかし、 UPAは予想に反して過半数に近い 262議席を確保し、NDAが 159議席と大きく後退したこともあって、UPAの政権樹立は比較的スムースに行われた。本報告書は新政権の成立という政治状況の大きな変化を機に、これまでの政治経済の流れを分析し、新政権の展望を行った報告書である。

全文 (1.03MB)

表紙・目次 (575KB)
(398KB)

第1章

総選挙と新政権の成立 (452KB) / 近藤則夫

はじめに
1. 第15 次選挙と主要政党
2. 選挙結果
3. 新政権の成立

本章においては、インドの連邦下院選挙のこれまでの研究や今回の選挙で行われた調査などを踏まえて、今回の選挙で会議派は得票率はあまり伸びなかったにも関わらず、なぜ議席数を大きく伸ばすことができたのか分析される。昨今の一時的景気後退はあったものの2003年以降の非常に良好な経済状況、会議派による選挙協力戦略の成功、BJPの中長期的人気低落傾向などの要因が会議派の成功を説明するとされる。
 

第2章

新政権と内政の焦点 (443KB) / 佐藤宏

はじめに
1. 新連合政権と国民会議派の政治運営
2. 内政 — 政策上の三つの焦点 —
結び

本章では内政の展開をふまえてその課題、そして今後の政治見通しが分析される。今回の選挙は予想外に良好な結果となったことから、会議派はこの「与えられた」機会を逃さずに政治的地歩を固め、次期連邦下院選挙で単独過半数に近い勢力を確保することが、その中期的な政治目標となった。新政権は、そうした目標に沿って、内政面では当面イスラーム急進主義やナクサライト(極左武装グループ)に対する治安対策を重視しつつ、NREGAなどいわゆる「旗艦」事業の効果的な実施によって、とりわけウッタル・プラデーシュ州やビハール州など、北部の大人口州における会議派の政治的影響力を回復しようとしている。

第3章

第2次UPA 政権の外交政策 (445KB) / 堀本武功・溜和敏

はじめに
1. 第15 次連邦下院選挙における主要政党の外交政策
2. 選挙結果と対外政策の関係
3. 新政権による外交政策の展開
4. 当面の外交展開

本章では、世界的な存在感を高めつつあるインドの外交政策の状況と今後の方向性を分析する。まず、会議派など主要政党の選挙綱領が分析され、選挙における外交問題の位置づけ、すなわち、外交が今次総選挙でも選挙結果を左右する争点とはならなかったことを論証している。そのうえで、インド外交の基本構図 — インド・中国・アメリカ・パキスタンの4角関係に日本・ロシアが関わる状況 — において、第2次UPA政権がオバマ政権の誕生などといった新しい外交環境にどう対応しようとしているのかを検証する。

第4章

はじめに
1. UPA 政権1 期目の財政・金融政策の特徴
2. 世界金融危機のインド経済に対する影響と政策当局の対応
3. 本章の結論:新政権下での財政・金融政策の展望と課題

本章は、引き続き政権を担うことになったUPA政権の下での財政・金融政策について展望する。第1次UPA政権は「包摂的成長」を標榜する一方、財政健全化を達成してきた。また中央銀行であるインド準備銀行(RBI)はこの時期、外国からの資本流入に対応してきた。しかし、昨年来、国際商品価格の急騰と世界金融危機の発生により、財政面では政府支出が大幅に拡大し、また金融面では資本フローが流入から流出に転じており、これまでの政策運営は変更と修正を余儀なくされている。本章では、第2次UPA政権は中期的な財政健全化に向けた道筋を示すこと、そしてRBIは大幅な資本フローの変化に適切に対応することが今後の財政・金融政策上の重要な課題であることを明らかにしている。

第5章

はじめに
1. 大統領演説と2009/10 年度予算案
2. 第2 次UPA 政権の雇用・労働政策の輪郭
3. 労働法の修正に関して
むすび

本章では第2次UPA政権における雇用・労働政策の方向性の把握が試みられる。第1次政権時から引き続き「包摂」を重視する第2 次政権において、その雇用・労働政策の大きな柱として、雇用保証・雇用創出、技能開発(技能育成)・職業訓練の拡充、そして非組織部門労働者への社会保障の整備を挙げることができる。無駄な論争を引き起こすような、とりわけ労働者や労働組合にとって受け入れがたい雇用・労働政策が採用される可能性が低いなかで、技能育成など労使のコンセンサスが比較的形成しやすい分野で、政府がどの程度積極的なイニシアティブを発揮することができるか注目される。

第6章

はじめに
1. 経済改革後の経済実績
2. UPA 政権の統一綱領と第11 次5 カ年計画
3. UPA 政権の産業政策
4. 国営企業の政府保有株式売却と民営化
5. 新政権の政策

本章では、UPA政権は基本的に自由化政策を進めながらも、なぜ国営企業の民営化に踏み切ることができないのか分析される。その理由として3点考えられる。第1に、会議派には国営企業が民営化され、人員整理が行われることを危惧している労働組合からの支持を取り
付けたい意向がある。第2に、会議派が包摂的成長を前面に打ち出し、「弱者の保護」を目標として掲げているため、労働者が解雇されるような状況が生じれば、「弱者の保護」に反するイメージが作られてしまう。第3に、会議派が民営化によって生じる利権の調整を断念したことである。

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