中国の都市化:拡張、不安定と管理メカニズム

調査研究報告書

天児慧・ 任哲  編

2013年3月発行

この報告書は中間報告書です。最終成果は
天児 慧 ・ 任哲 編『 中国の都市化 ——拡張,不安定と管理メカニズム—— 』研究双書No.619、2015年3月発行
です。
第1章
中国の都市化と社会空間の変遷 (468KB) / 天児慧・任哲
1.はじめに
2.中国の都市化をどう理解するか
3.社会空間の変遷:単位から社区へ
4.単位と社区の権力構造
5.おわりに

本稿では中国の都市化の歴史及び抱えている問題点を考察した上で、社会空間の概念を用いて、都市化による社会空間の変遷及び政府の対応を分析した。都市部の社会空間を理解する事例として本稿では「単位」と「社区」を取り上げ比較分析した。結論は以下3点にまとめられる。(1)80年代から始まった「単位」社会の崩壊により、1つの社会空間内部の均一・均等性がなくなり、空間内部が破片化した。(2)「単位」の社会管理機能を補う形で普及し始めた「社区」は破片化された社会空間の利益調整機能を充分に果たしていない。(3)、社会空間内部の権力構造が国家主導から社会主導へと変化している。

第2章
1.はじめに
2.理論的整理
3.ポスト「単位社会」以降における社会団体
4.政治社会における社会団体
5.おわりに

本章は、都市化の進行に伴った中国の社会団体の成長・変遷を明らかにするものである。1990年代のポスト「単位社会」以降、中国では、経済所有制の多元化、社会階層の分化によって、社会で原子化した個人の結社活動による社会団体の形成が促された。分析では、都市化と社会団体の形成との間の強い関連性から、社会団体の形成に関連する「増殖仮説」を解釈した。他方、1990年代以降、都市化の進行によって、社会問題
の解決や社会的勢力の是正にかかわる社会団体が形成されてきた。これらの団体の形成は「均衡化仮説」から解釈できるものの、権威主義体制下で発展志向型国家を目指している中国は、アメリカの多元主義、ヨーロッパのコーポラティズムと異なり、団体と国家との間の利益調整も必要となる。

第3章
1.問題の所在
2.タクシー産業の概況、政府管理、問題点
3.維権行為の構造
4.政治への影響
5.結語

中国の都市化の進展と伴って高まったのがタクシーという新しい交通手段に対する社会的なニーズであり、それに応じて生まれたのがタクシー産業とそれに従事している運転手である。中国のタクシー業界において、近年、タクシーの所有権と営業権、企業と運転手の利益配分、また営業環境、運転手の労働条件、政府の管理などをめぐる争議事件が多発している。本研究は、これらの争議事件発生の原因を指摘したうえで、運転手たちの維権(利益・権利擁護)行為に焦点を当て分析を行い、その行為の政策過程、政治秩序に与える影響について考察した。
結論としては、争議事件の発生要因には、政府の管理規制に由来する独占的な産業構造による利益配分のアンバランス、関連法律の未整備、運転手たちの利益表出のチャンネルの欠如などがある。現段階において維権行為は、個人的な抵抗とストライキに見られる集団的な行動で現れるが、イシューの共通性、行動の持続性、全国的な規模からは、ある種の社会運動的な性質が見て取れる。そして、その動きは政策課題の形成、政策執行、政策評価、管理体制の変化を促す重要な要因となった。

第4章
1.初めに
2.冷戦後の軍隊と社会:理論
3.冷戦後の解放軍と社会:概観
4.解放軍と社会をめぐる問題群

冷戦終結後の安全保障環境の変化が軍隊の役割、及び軍隊と社会の関係に及ぼした影響について、従来の理論的論議を整理し、その含意を中国人民解放軍の事例をもって検討する。本稿では、とりわけ市場化と都市化に伴う国内社会のリスク増大が人民解放軍の役割変化を促している最大の要因であることを明らかにし、その具体的な様相を現代中国における軍隊—社会関係の特質と合わせて考察する。

第5章
1.はじめに
2.政策決定過程における議題の設定
3.事例研究
4.政策決定過程の変遷
5.おわりに

都市化過程で発生する利益衝突を如何に調整するかは政府が直面する最重要課題である。本稿では利益調整に関する三つの事例を比較分析しながら、基層レベルの政策決定過程を分析した。政策決定過程は「政策を如何に決めるか」の側面と「どの問題が政策の議題になるのか」の側面があるが、本稿では後者に注目する。基層レベルの利益調整は議題の設定から最終決定まで政府が自身のロジックで行うことが多く、利益関係者の意見が反映されなかった。しかし、都市化過程における公共利益と集団利益の調整過程では、民衆が政府の政策決定を拒否するようになり、政策議題の設定に新たな変化が現れている。