アジアにおける鉄鋼業の発展と変容

調査研究報告書

佐藤 創  編

2007年3月発行

この報告書は中間報告書です。最終成果は
佐藤 創 編『 アジア諸国の鉄鋼業—発展と変容— 』研究双書No.571、2008年発行
です。
序章
「アジアにおける鉄鋼業の発展と変容」を研究する目的と問題意識を整理し、本報告書で取り上げられている地域や議論を理解する一助として、生産・需給、貿易などの基礎データを示し、世界の鉄鋼業の発展と変容のなかにアジアを位置づける。

第1章
鉄鋼業の技術革新 (563KB) / 杉本孝
鉄鋼業の技術を構成している技術の種類と、それぞれの技術を担う組織の組合せの全体体系を提示し、日本鉄鋼業の技術組織体系の特徴を明らかにした。その上で、これまでの日本鉄鋼業の技術革新は「パラダイム強化型」の革新であったことを指摘し、今後はこれを「パラダイム転換型」変革していく必要性を指摘した。

第2章
1980年代後半以降に韓国では投資の自由化とポスコの民営化が進められた。しかし工程ごとに自由化のスピードがことなり,工程間の設備インバランスが深刻化することになった。近年,現代自動車グループが設備拡張と高炉建設を本格化させており,後発国型鉄鋼一貫生産体制は終焉を迎えることになった。

第3章
鉄鋼業の中では、近年、冷延製品、表面処理鋼板、特殊鋼という川下の諸部門が輸出への依存を高めながら、速いスピードで成長している。一方、粗鋼生産の成長は緩慢なため、自給率は70%前後で推移している。産業発展の原動力は中国鋼鉄、電炉及び加工メーカー、鉄鋼を投入財として用いる諸産業である。それぞれの自律的な発展メカニズムを持つが、同時に強い相互作用も働いている。

第4章
インド国営鉄鋼業は近年における国際的な鋼材価格の上昇により国営部門の経営は好転したが、生産技術や製品開発では他の新興経済と比べると課題が多い。その一因はある種の歪みをもった1980 年代までの政策の負の遺産ともいえる。他方、民営大手のターター鉄鋼の技術、経営に関わる達成には見るべきものがある。インド2005 年に国家鉄鋼政策を発表したが産業構造の革新にはまだ課題がある。

第5章
マレーシアの鉄鋼業は、マラヤワタ・スチールなどに代表される、政府による直接の鉄鋼生産プロジェクトから、民間企業主体の展開に1980年代後半に変化し、また、従来からの条鋼類だけでなく、近年、鋼板類の製鋼圧延一貫生産もはじまっている。ただし、政府の政策的関与は依然として顕著であり、生産能力が増加する一方で国内需要の天井もみえる状況にある。

第6章
ベトナム鉄鋼業は発展の新たな局面を迎えつつある。私有企業の役割が拡大し、外資による大型プロジェクトが申請・認可されている。国有企業は特権的な地位を失いつつあり、自立経営の確立を迫られている。新たな局面においては、政府の新たな役割が求められる。競争促進、環境保全と両立するスクラップ回収・輸入体制の整備、貿易自由化プロセスのコントロール、外資プロジェクトの適切な審査、業界団体の役割拡大などである。

正誤表 (39KB)