ラテンアメリカの一次産品輸出産業 -資料集-

調査研究報告書

星野 妙子  編

2006年3月発行

この報告書は中間報告書です。最終成果は
星野 妙子 編『 ラテンアメリカ新一次産品輸出経済論—構造と戦略— 』研究双書No.562、2007年発行
です。
第1章
2005年に発効した日墨経済連携協定(EPA)の交渉において、豚肉は最も交渉の難航した産品であった。メキシコ農業において養豚業はそれほど大きな比重をしめる部門ではない。それがEPA 交渉で突出した存在感を見せた背景には、農産物貿易自由化という世界的潮流に積極的に呼応する動きが、メキシコ農業のなかに存在することがある。その実態把握の第一歩として、本稿では日本とメキシコの豚肉産業に関する統計資料を整理し、貿易と生産の構造、日本への豚肉輸出を担うメキシコの生産者の最新動向を明らかにする作業を行った。

第2章
経済グローバル化の過程でラテンアメリカでは輸出向けの農業が発展したが、なかでも大豆は食糧および飼料作物として急速な成長をとげた。成長の要因として、新たな耕地の開発、機械化、適性種子の開発、遺伝子組換え大豆の導入などが指摘できる。多国籍穀物メジャーは農家に対する金融、国内流通、輸出をつうじて大豆生産に深く関わり、また大豆の搾油、食品加工において重要な位置を占めている。大豆生産は、輸出作物を多様化し、加工業を発展させる一方で、自給農業の停滞、土地所有の集中、森林破壊・生物多様性の減少などをもたらした。本稿は、統計資料によって、ブラジル、アルゼンチンを中心とするラテンアメリカ諸国の大豆生産、加工、流通の構造、産業の担い手(企業)、大豆生産の経済、社会、環境への影響を明らかにすることを目的とする。

第3章
ペルーでは1980年代後半から缶詰アスパラガス、1990年代後半から生鮮アスパラガスの輸出が急拡大し、現在では缶詰は中国に次いで世界第2位、生鮮は第1 位の輸出国となっている。缶詰アスパラガスは、1970~80年代に世界最大の輸出国だった台湾が市場から撤退したのを契機に、高い収量と比較的安い人件費という比較優位を生かして輸出を拡大した。しかし中国との競争により価格が下がると輸出の拡大は止まり、代わって生鮮アスパラガスが急速に拡大した。生鮮が拡大した要因として、主要な市場である米国との季節差を利用したニッチ市場への参入や、農業企業による生産と輸出の統合などが考えられる。

第4章
バナナは最大の貿易量をほこる果実であり、生産現場と消費者をつなぐ関係性が注目される代表的な熱帯一次産品である。アジアと日本の関係がとかく注目されるが、ラテンアメリカ地域を含む世界市場の動向を同時に踏まえていくべきであろう。たとえば2006年よりEU はラテンアメリカ産バナナに対する関税措置を開始するなど、バナナ貿易にもトピックスがある。本稿ではバナナ産業の現況を理解する基礎資料として、エクアドルを中心とするラテンアメリカ地域のバナナ産業の状況と世界の最新動向を整理し、あわせて日本でのバナナ輸入の経緯と現状を明らかにしようとする試みである。

第5章
木材貿易はこれまで天然林から伐採された森林資源が、主要先進国に向かう流れが主流であった。しかし近年の森林資源の枯渇の問題や、発展途上国の原料輸出に対する規制、また環境問題への関心の高まりによる天然林伐採への反対運動など、林産業の新たな原料調達問題は業界にとって大きな課題となった。こうした中、チリは人工林の生産性の高さを武器に、日本の製紙業の原料調達先として高い成長を遂げている。本稿では、世界の貿易における両国の位置を確認し、チリの林産業の構造と日本の製紙業の関係をデータにより検証した。

第6章
ベネズエラの石油産業 (564KB) / 坂口安紀
ベネズエラは世界で第9位の産油国、第5位の石油輸出国である。ベネズエラの経済史を振り返ると石油産業は経済開発の牽引と位置づけられてきたが、現チャベス政権は石油を社会開発の牽引と位置づけ、石油政策を大きく転換させている。石油戦略は政治・外交その他さまざまな要因によって規定されるが、本研究プロジェクトではベネズエラの石油戦略を経済的側面から分析することを目指す。そのための準備作業として本報告では、石油産業の特性の把握、また統計データから世界およびベネズエラの石油産業の情勢に関して情報を整理する。