グローバリゼーションと途上国農村市場の変化-統計的概観-

調査研究報告書

重冨真一 編

2006年3月発行

この報告書は中間報告書です。最終成果は
重冨 真一 編『 グローバル化と途上国の小農 』研究双書No.560、2007年発行
です。
はじめに (20KB)
第1章
グローバリゼーションが途上国農村にどの程度浸透しているのかを推測するため、生産物や投入財の貿易の動きを検討した。全体としては、グローバル化は途上国よりは先進国で顕著な現象であり、またグローバルレベルよりもリージョナルレベルの貿易の拡大がよりはっきりと見て取れる。ただし途上国でも、食品の貿易額は増加傾向にあるし、1980 年代後半からそれが顕著になった地域もある。また地域外との取引が増大しているところも部分的には見られた。

第2章
改革開放以降、農業部門における貿易の占める位置は急速に高まっており、WTO加盟によって国際市場への包摂は一層加速している。1990 年代以降、中国農業は商品作物への転換、農産物加工といった高付加価値化戦略で国際市場に対応してきた。しかし、グローバリゼーションの影響には大きな地域格差がある。その恩恵を享受しているのは沿海部のごく一部の地域に限定されている。

第3章
ベトナム農業は1988年の個人農家請負制の導入以降、飛躍的な発展を遂げてきた。その発展には対外開放政策による市場拡大が大きく影響している。統計数値は1986年以降の農水産品の目覚ましい輸出拡大を示しており、農林水産部門が国際市場とのつながりを強めたことが理解できる。一方で、農家レベルで見ると、国際市場とのつながり、あるいは農家経済への市場経済浸透の度合いには地域差があることが分かる。

第4章
カンボジア経済は1970年代以降、閉鎖され孤立してきた。1990年代に入り対外開放が進み、縫製業に牽引された輸出の拡大で工業部門が成長した。しかし現在でも農林水産業は国内総生産の約3分の1を占め、米と魚を中心とした自給自足的な構造は変わっていない。

第5章
タイ農業は国際市場に開かれて発展してきた。国際市場の影響ははやくから農家にまで届いていたが、その度合いは変化してきている。本稿では、統計データを用いて、農家をとりまく市場の変化を概観した。その結果、1980年代後半に、農村における市場経済の浸透度が一段と高まったことが明らかになった。

第6章
ミャンマー農業は1980年代末の市場経済化以後、急速に国際市場との連関を強め、市場変動に大きく左右されるようになった。本稿は、そうしたミャンマーの農家をとりまく市場環境を、統計データに依拠しながら概観した。その結果、(国際)市場とのリンクを強めた生産環境によって、ミャンマーの主要農作物の成長に大きな差異が生まれたことがわかった。

第7章
1970年代まで耕地面積の拡大をみたインドの農業部門は、「緑の革命」以後は集約化が進み、それに伴って作付構成も変化してきた。1980年代から90 年代前半まで、商品作物化が着実に進んでいるように見えたが、実は輸入代替的側面が強く、1990年代半ばの貿易自由化によって軌道修正を余儀なくされた。本来は農業の成長や多様化を政策が支援すべきであるが、インド農政においては公共投資の減退や稲・小麦に偏重した食糧政策の継続などの問題が見られる。さらに1990年代の経済自由化政策は、農村家計を貧困から引き上げることに成功していない。インド農業部門において、農村家計が商品作物化により所得向上を図ることは容易ではなさそうである。

第8章
マラウイ農業は、1990年にひとつの転換期を迎えた。小農のタバコ生産の解禁により、小農がトウモロコシ生産からタバコ生産に移行したため、マラウイの経済はタバコへの依存度を高めていった。その一方で、主食であるトウモロコシの自給ができなくなり、輸入に依存するようになった。そして2001年以降、深刻な食料不足に陥るようになる。

第9章
農地改革や債務危機により停滞を余儀なくされたペルー農業は、1990年代の経済自由化改革以降再び成長軌道に乗り始めた。コメやメイズなど国内向け農産物の生産拡大と同時に、綿や砂糖など伝統的輸出農産物に代わって、野菜や果物など新たな輸出農産物が拡大している。一方、肥料など投入財やコムギ、大豆油など一部の農産物の輸入が拡大しており、ペルー農業の国際市場との結びつきは強まってきている。