レポート・報告書

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.230 米中対立が生み出すメラネシアの政治的混乱──フィジーとソロモン諸島の事例から

黒崎 岳大

2025年3月14日発行

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  • 近年米中豪によるメラネシアへの外交的関与が、互いに競争し合うようにして強まっている。
  • 中国との関係強化は選挙で与党に良い結果とはならず、政局の混乱の要因にもなっている。
  • 日本は、米中とは異なる、島国と同じ視線で協力を実施していく外交姿勢を示すべきである。

近年、太平洋島嶼地域での米中両国を中心とした周辺大国による関与が強まっている。特にメラネシア諸国は、太平洋諸島のなかでも人口・国土面積の面でもポリネシア・ミクロネシア地域と比較できないほど存在感も大きく、また液化天然ガスや銅などの鉱物エネルギー資源も豊富に存在しており、大国からはビジネス面を中心に関心が向けられている。このことから同地域は「最後のフロンティア」とも呼ばれている。

一方メラネシア諸国は、選挙や議会内の混乱による内閣不信任案の可決などを理由に、しばしば国内政治が停滞することでも広く知られている。このことは、先進国などの企業にとってはカントリーリスクとなり、ビジネス進出に二の足を踏ませている。特に近年では、従来の豪州が旧宗主国的な立場で圧倒的な影響力を示してきた状況に代わり、ビジネス面で影響力を高めてきている中国や、その中国の勢いに対応する形で積極的な関与を示してきている米国など、様々な周辺大国がメラネシア諸国との協力関係を構築しようと努めている。

本稿では、メラネシア諸国をめぐる周辺大国の積極的関与の動きが、同諸国の国内政治にどのような影響を与えているのか、フィジーとソロモン諸島の事例を中心に考察していく。

米中両国のメラネシアへの積極的関与

中国は、当初メラネシアを台湾(中華民国)との間の激しい外交競争が発生している一地域と位置付け、小切手外交を繰り広げた。特に習近平が政権を掌握した2010年代後半以降、経済協力とビジネス交流を中心に攻勢を強めてきた。その象徴的な年となったのが、太平洋島嶼国であるキリバスとソロモン諸島の両国が台湾から中国に国交をシフトさせた2019年である。とりわけソロモン諸島は、国交締結後中国との間で大型のインフラ整備の実施などの経済協力に加え、22年には安全保障協定を締結するなど、軍事面にも及ぶ包括的な協力関係を結んでいった。

このような中国の積極的な進出に対抗して、近年影響力を高めてきたのが米国である。米国は従来太平洋諸島を「ANZUSの湖」と呼び自陣営の強い影響下にある地域としてきたものの、南半球の太平洋島嶼国については豪州とニュージーランドに経済協力やビジネス交流、安全保障の各方面において任せる姿勢を示してきた。しかしながら、2010年代に政権運営をしてきた豪州の保守連合政権が気候変動問題で太平洋島嶼国と対立を深めるなかで、21年に誕生したジョー・バイデン政権以降、米国は太平洋諸島全体への関与を強めている。22年には37年ぶりにフィジーへアントニー・ブリンケン国務長官を派遣し、島嶼国首脳ともオンライン会談を実施した。また23年にはパプアニューギニアと防衛協定を締結し、ソロモン諸島にも30年ぶりに大使館を開設するなど中国の進出に牽制する姿勢を見せている。米国の積極的な関係強化の動きに感化され、22年に労働党への政権交代が行われた豪州も太平洋島嶼国との関係強化を進めており、23年にはパプアニューギニアと安全保障協定を締結し、24年末にはソロモン諸島の警察力強化に1億米ドル以上の資金提供を実施することを決定した。

メラネシア諸国の国内政治への影響

米中豪が互いに競い合いながら島嶼国への関与を強めるなかで、メラネシア各国の国内政治もその動きの影響を受けている。ここではフィジーとソロモン諸島の事例をもとにその動きを見ていきたい。

フィジーは、2006年末に起きたクーデタ以降、豪州とニュージーランドを中心に実施された経済制裁に対応するように、中国との協力関係を強めていった。フランク・バイニマラマ政権は、政治の民主化を達成した14年以降も、旧来の伝統的政治勢力の力を弱め、中国からの支援などをもとに地方開発に力を入れていき、国内での選挙基盤を強化していった。ところが、急激な国内政治改革および中国などとの新たな関係を重視する政策に対して、旧来権力を持っていた先住民系フィジー人などを中心に政権への批判が高まっていった。その結果、22年末総選挙では、バイニマラマ前首相率いるフィジー第一党から、シティベニ・ランブカ首相が率いる3党連立内閣へと政権交代がなされた。ランブカ政権は、中国との関係が強かった前政権にとって代わり、豪州や米国との関係強化を図るようになっている。これは急速な変化に戸惑うフィジー国内における伝統的勢力からの不満の表れでもあったが、同時に政権交代が起きた22年前半に米国や豪州が南太平洋諸国との関係を強化した動きとも関係している。バイニマラマ政権以前のような、先住民系フィジー人と豪州との伝統的な結びつきを重視する外交関係に戻るような姿勢が示されたということもできるだろう。

これより少し遅れて、同様の政治的動きを見せたのがソロモン諸島である。ソロモン諸島は、前述のとおり2019年に中国と国交関係を結んだ。その理由は、豪州と不仲であったマナセ・ソガバレ首相が外交上の後ろ盾として中国の影響力を利用したいと考えていたことにある。実際に、経済支援やビジネス交流が進んだものの、その成果を利用して臨んだ24年の総選挙では、与党陣営は議席を大幅に減らし、同首相自身は首相の座を辞することとなった。その後継として選出されたジェレミア・マネレ首相は、中国との関係維持を進める一方で豪州との関係強化も図ろうとした。そのことは、むしろ議会内で豪州・中国との関係を支持する双方のグループの不信を招き、24年末に内閣不信任案が出されるなど、議会内での混乱が続いている。

対メラネシア外交における日本の立ち位置

以上のように、近年のメラネシアの国内政治は、周辺大国との外交関係に大きく影響を受けていることが明らかである。実際に2010年代後半以降、中国の経済的な影響力が数段高まってきていることは事実である。それを利用して、メラネシア諸国のリーダーたちは自国の政治基盤を強めようと外交上の友好関係を強調してきた。ただし、フィジー・ソロモン諸島両国の総選挙の結果からもわかるように、国内世論が必ずしも中国との関係強化を好意的に捉えていないことも留意すべきであろう。

こうした状況のなかで、日本はこの地域に対してどのような姿勢で関係強化を図るべきであろうか。日本は従来メラネシア諸国からは、1970年代の建国時にインフラ整備を中心に積極的な経済支援を実施してきたこともあり、高く評価されている。この点に関して筆者も島嶼国首脳たちとの会話のなかで、かつて日本は島嶼国と米豪などの旧宗主国の間に入り、自分たちと同じ目線で話し合うことができるイコールパートナーであったという指摘がされていた。ところが近年は、日本は旧宗主国側のポジションに寄って行っているという認識が持たれつつある。この間隙を縫う形で、かつての日本のポジションに入ってきたのが中国である。

ここで日本に求められているのは、中国と金額で競い合うことでも、あるいは米豪と共同歩調をとる姿勢を見せることでもない。むしろ日本は米豪や中国のやり方とは一線を画し、島嶼国と話し合いながら、彼らのニーズに合わせた協力を実施していく姿勢を見せていくことではないだろうか。2024年7月に東京で開催された第10回太平洋・島サミットにおいて、日本は島嶼国側が発表した「ブルーパシフィック大陸のための2050年戦略」に基づき、協力を実施していくとした共同宣言を採択した。このことは島嶼国から大いに評価された。次回太平洋・島サミットは27年実施が決定している。この3年間に日本がメラネシアを中心とした太平洋島嶼国と信頼できるパートナー関係を構築していくことが、日本が官民挙げて「最後のフロンティア」に進出するうえで重要なカギとなっていくことは間違いない。

(くろさき たけひろ/東海大学)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません

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