文字サイズ

標準
国・テーマ インデックス

レポート・報告書

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.165 在日外国人コミュニティのCOVID-19 感染拡大に備えるための情報ネットワーク調査(7)
「移民コミュニティの多様性を理解する ――在日ミャンマー(ビルマ)系コミュニティを事例として」

人見 泰弘

2022年3月30日発行

PDF (688KB)

  • 移民コミュニティは、異国で生活する移住者に様々な便益を提供する社会的資源となる。
  • 移民コミュニティは同質的であるとは限らず、その内部に水平的・垂直的な多様性を伴う。
  • 移民コミュニティを取り巻く送出国・受入国の社会構造の理解は多様性を捉えるカギとなる。

移民コミュニティは、異国で生活する移住者に様々な便益を提供する社会的資源として機能する。コミュニティを同質的にみるのではなく、コミュニティ内部に彫刻される水平的・垂直的な多様性を意識することが、コミュニティの実態を理解するために欠かせない。在日ミャンマー(ビルマ)人コミュニティの事例から移民コミュニティを理解するための手がかりを示したい。

ミャンマー(ビルマ)から来日する移住者

独立後に長く軍事政権の時代が続いたミャンマーは2011年より民政移管の進展が見られ、日本では「アジア最後のフロンティア」としてメディアで注目される機会も増えた。2016年には約半世紀ぶりに文民政権が樹立し、社会全体が大きく変わり始めた国である。この間にミャンマーから出稼ぎなどを目的に日本などの海外に向かう人々の国際移動が活発になってきた。民政移管前である2010年頃まで在日ミャンマー人は8500人ほどで推移してきたが、民政移管後に増加傾向が目立ち、2019年末時点で約3万2000人と民政移管前の4倍近くに増加した(法務省出入国在留管理庁『在留外国人統計』より)。ミャンマーの最大都市ヤンゴンや第二の都市マンダレー周辺からの都市出身者が多いとされ、少数民族を含む多様な民族背景を持つ人々が来日している。就労などの経済的動機に限らず、政治的保護を求めて来日した人々も暮らしている。滞在傾向をみると3万2000人の在日ミャンマー人のうち、永住者、定住者、日本人配偶者などの在留資格を持ち長期滞在が見込まれる人々は5000人ほどと、コミュニティ全体の6人に1人を占めている。対して短期滞在者の急増も目立つ。技能実習生と留学生は約1万3000人と5400人、両者を合わせた約1万8000人、すなわち在日ミャンマー人の半数は短期滞在者が占めるようになってきた。技能実習生と留学生は若者が多いために年齢別では20歳台が6割と突出して高くなっており、コミュニティ全体で若者が目立つ状況が生まれている。居住傾向では従来から続く東京都内での高い集住傾向は維持される一方、技能実習生の増加を反映して北海道から九州まで日本全国に幅広く居住地が広まっていることも最近の傾向である。

在日ミャンマー系コミュニティと同胞組織

在日ミャンマー系コミュニティでは、長年にわたり数多くの同胞組織が活動を展開し、同胞の生活を支えている。民族行事や社会文化活動の催し(写真も参照。これは例年都内で実施される在日ミャンマー人団体が主催する年中行事の様子である)や、政治組織による軍事政権への抗議行動や、労働組合による同胞労働者への支援などが行われてきた。組織規模も数十名から数百名と幅広く、多種多様な組織活動が熱心に行われることは在日ミャンマー系コミュニティの特徴と言えるだろう。そこでは同胞同士での交流や情報交換などが行われ、求職中の同胞への仕事や住居の紹介、必要な経済支援も行われている。同胞が超過滞在者となり入国管理施設に収容されたときには面会して励ましたり、残された家族のケアを担ったりすることもある。近年日本で生まれたミャンマー系二世が成長していることから、子どもたちに母語・母文化を継承してアイデンティティ形成を促す活動に取り組む団体もみられる。同胞組織は異国に暮らす人々に様々な便益を提供することで、日本における差別や困難から同胞を守る障壁としても機能している。まさに在日ミャンマー人の生活に欠かせない社会的資源なのである。

ミャンマー水かけ祭り(2019年都内にて筆者撮影)
コミュニティ内部の水平的・垂直的な多様性

この移民コミュニティを理解しようとするとき、コミュニティ内部の多様性を捉えることが肝要である。まず、移民コミュニティは相互信頼に依拠した共同体であるとともに、集団内部には分裂や分断を抱えることがある。在日ミャンマー系コミュニティには、本国政権に対する政治意識や民族背景などを基に同胞組織が組織化されており、政治や民族といったイシューによって個別の行動がなされている。またイスラム系のロヒンギャ系移民は在日ミャンマー人コミュニティとは別に行動することが目立ち、ここでも本国における民族対立に基づく分離が生じている。二つ目に、コミュニティ内部には格差も存在する。先述のように永住者や定住者のように安定した法的地位を持つ人々がいる一方、超過滞在者として不安定な立場に置かれる人々もいる。在留資格によって付与される権利は異なっており、不安的な法的地位である場合には就労や社会保障、家族統合などの権利は大きく制約され、異国での滞在は著しく困難なものとなってしまう。他方、異国での困難から脱するために活用される移民たちのネットワークも格差を生じさせるファクターとなりうる。外国人人口が相対的に小さい日本では、マジョリティである日本人とのつながりや接点を持つことが有利に働くことが少なくない。M・グラノベッターが「弱い紐帯の強さ」として指摘したように、家族や親類など強い紐帯と評されるものよりも、高い日本語力を保持して日本人の友人を数多く持っていたり、外国人支援NPOとの接点を豊富に持ち日本人の知り合いや顔見知りがいることなど、弱い紐帯を幅広く持ちこれらの人脈から多様な資源や情報を獲得することが優位な地位を得ることにもつながりうる。一見して同質的に捉えられがちな移民コミュニティは分断や格差といった水平的・垂直的な多様性を内包する共同体なのである。このことを前提とするならば、私たちの目の前に立ち現れる移民コミュニティは、コミュニティ全体と言えるものではもちろんなく、あくまでも氷山の一角に過ぎないということにもなる。外から移民コミュニティに接する外部者が移民コミュニティの実態を理解するためには、一見しては捉えられない/見えない移住者の存在を意識することが肝要であろう。そしてコミュニティ内部の多様性を捉えるためには、そもそものコミュニティの成り立ちを理解することが重要だ。移住者の来日背景や彼/彼女らを日本に向かわせることになった構造的要因を理解することが大切だろう。出身国の歴史や民族関係といった移民送出国側の社会構造の理解とともに、日本の出入国管理政策による法的処遇や排除など移民受入国側の社会構造の理解も必要だ。移民難民が国境を越えて移動する移住者である以上、出身国社会と受入国社会が移住当事者やコミュニティに与える影響を捉えることは、移民コミュニティの全体像を的確に理解するための大きな手がかりとなるだろう。

日本人側から外国出身者コミュニティを把握しようとしているか

外国出身者コミュニティが上記のように献身的な活動を展開した一方で、日本社会は外国出身者コミュニティをどこまで把握できているのであろうか。筆者は特定非営利活動法人CINGAが2021年10月に開設した「外国人新型コロナワクチン相談センター」の立ち上げに関わった。全国の都道府県・政令指定都市の「外国人相談ワンストップセンター」を対象に、どの程度外国出身者へのワクチン接種支援を行っているかを把握するため、電話でのヒアリング調査を行った。外国人相談ワンストップセンターにおける、外国人コミュニティ・支援団体との連携状況を探るべく、「ワクチン接種にとどまらず、県内に同行支援などをしてくれるNPO、支援団体、日本語教室などはありますか」という質問項目も設けた。この質問への回答(n=68)は「はい」が39件(50%)、「いいえ」が39件(50%)であった。「はい」と回答したセンターからは、外国人コミュニティの名前も具体的に挙げられた。一方、「いいえ」と回答したセンターからは、「ボランティア団体はあると思うが、詳細は把握していません」「市内に市民団体などあると思うが情報は把握していない」といった消極的な回答も見られた。もちろん、県内の外国人数が少ないという場合も考えられるが、日本人側から外国出身者コミュニティを知る努力をする余地はまだ十分に残されているのではないか。

まとめ

本稿は在日ミャンマー系コミュニティの事例から移民コミュニティが異国に暮らす同胞に様々な便益を提供する社会的資源として機能することをみてきた。同時に、コミュニティ内部の水平的・垂直的な多様性を看過せず、移民送出国・移民受入国の社会構造を理解することが移民コミュニティの実態を理解するために重要であることを示した。未だ見えない人々や集団の存在を意識することで、より深く移民コミュニティの在り様を見出すことができるだろう。

(ひとみ やすひろ/武蔵大学)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。