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レポート・報告書

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.162 在日外国人コミュニティの COVID-19 感染拡大に備えるための情報ネットワーク調査(4)
「外国籍住民の基本的サービスへのアクセスの保障  だれ一人取り残さないための公的機関の役割」

崔 洙連(Sooyeon Choi)

2022年3月30日発行

PDF (637KB)

  • すべての移民が基本的サービスへアクセスできることは国際的合意に規定されている。
  • 基本的サービスへのアクセスを確保するためには、自治体等の公的機関の役割が重要である。
  • だれ一人取り残さない社会の実現に向けて、短期的には今ある制度を公的機関が柔軟に運用すること、長期的には真の共生を前提にした移民政策が求められている。

新型コロナ感染拡大のなか、日本に暮らす移民・難民は、とりわけ厳しい困窮・困難に直面している。こうした人々にとっては基本的な行政サービスや社会福祉制度が命綱になる。しかし、この基本的サービスへのアクセスの保障には課題がある。この保障のためには移民・難民と日常的に接する自治体を中心とした公的機関の役割が重要であり、長期的には、真の共生のための根本的な政策転換が求められる。

国連「移住グローバル・コンパクト」に規定される「目標 15: 移民に基本的サービスへのアクセスを提供する」

2018年12月の国連総会で「移住グローバル・コンパクト(GCM)」が採択された。これは政府間交渉で策定された、人道・開発・人権配慮の観点から国際的な人の移動のすべての側面に対応するための包括的な合意である。GCMには23項目にわたる目標と目標実現に向けた具体的な活動が提示されている。

このGCMの目標15に「移民に基本的サービスへのアクセスを提供する」ことが掲げられている。そのなかでは「すべての移民が、その移住ステータスにかかわらず、安全に基本的なサービスにアクセスできることを通じて、彼らが自らの人権を行使できるよう責任を持って取り組む。(抜粋)」と明示されている。そして、これを実現するための活動として「b) サービス提供者と入管当局の間に協力があることによって、非正規移民の基本的サービスへの安全なアクセスが困難になったり、プライバシー、自由、安全に関する権利が不当に侵害されたりするなど、非正規移民の脆弱性がさらに悪化する結果とならないよう注意する(筆者訳)」とされている通り、移民・難民が安心・安全に基本的サービスへのアクセスできるようにするために、サービスを提供する側が入管当局等からのファイヤーウォールになることが示されている。

新型コロナ感染症対策にみる日本における移民・難民の基本的サービスへのアクセス

感染症予防法は、在留資格や住民登録の有無にかかわらず日本に暮らすすべての人が対象となる。そのため在留資格や住民登録がなく、健康保険に加入していない場合であっても、感染が疑われる際のPCR検査や感染治療、ワクチン接種は自己負担なく利用できなければならない。新型コロナ関連の基本的サービスのアクセスについては、厚生労働省がこの旨について各種の事務連絡1を発出し、自治体に周知をしている。

さらに同省は、非正規滞在者に対応する自治体職員の通報義務についても、新型コロナの関連において感染防止という目的の達成を優先し、通報しなくてもよい旨の事務通知も出している。そもそも公務員の通報義務については、1989年11月10日衆議院法務委員会で、行政職務遂行とのバランスで本来職務が妨げられるような場合は、通報せずとも法違反には当たらないという見解が出ている。つまり、上の事務連絡で改めてそれが自治体に周知されたことになる。

しかし、2021年末のワクチン接種に関する報道2によれば、在留資格がない外国籍住民に対して上の事務連絡の趣旨どおりに運用する自治体がある一方、通報前提の運用をしているところもあった。また、2021年9月には、コロナ感染で入院していた非正規滞在のスリランカ人が通報により退院と同時に逮捕された。通報が前提になれば、在留資格のない移民・難民は自治体や病院を避けてしまい、基本的サービスにアクセスする権利を行使できないのみならず、感染防止という公衆衛生の観点からも問題である。

新型コロナ関連以外にも在留資格に関係なく利用できる基本的制度はあるが、その運用に関する調査によれば、住民登録がなければ適用しない、あるいは、通報を前提に適用するという運用をする自治体もある。

表1

(出典)鈴木江理子(2021)「2009 年改定住基法・入管法の課題とコロナ
対応~自治体アンケートから考える~ 」『Mネット 219号』移住連

表1に挙げられているように「だれ一人取り残さない」ために活用できる既存の制度はある。これらがただ存在しているだけでなく、自治体を中心とした公的機関の現場で適切に運用されれば、社会の最も周縁に置かれている人々が命を繋ぎ、生活を継続することにつながる。この点で、基本的サービスへのアクセス保障では、公的機関の役割が非常に重要なのである。

2009年入管法・住基法改定の影響とこれから

このように制度運用に差がでる要因はさまざまあり得るが、ここでは2009年の入管法・住基法改定の影響を指摘したい。この改定では、外国人登録法も廃止され、住民基本台帳に一本化された。この結果、従来自治体での外国人登録によって「住民」として自治体や地域社会と繋がっていた人たちの一部が、住民基本台帳制度では在留資格がない、または在留期間3カ月以下の場合は住民登録の対象外となったため、自治体行政から切り離されることになった。

この改定により、正規・非正規滞在者の区分けが明確に線引きされるとともに、入管法による外国人の一元管理が徹底されたことで、それまでは「住民」であった人たちを専ら管理の対象である「外国人」として位置付ける政策方針が明確に打ち出されたと言える。この在留管理先行の制度による弊害が、基本的サービス提供にあたっての運用にも表れていると考えられる。

入管収容問題、技能実習生の妊娠・出産や暴行事件、「水際対策」による労働力不足など、報道されているだけでも、日本の入管制度の問題・限界を表す問題は、このコロナ禍のなか事欠かなかった。このような状況に対して自治体や地方新聞などが動き出している3。この動きに共通するのは、真の共生を前提とした基本法の制定や省庁横断で取り組む政治的リーダーシップなど、移民・難民に寄り添い、地域や現場の声、移民・難民が社会の一員である事実を直視した共生のための政策・制度を求める声である。

2022年1月には法務大臣が技能実習制度・特定技能制度の見直しに言及し、2021年廃案の入管法改定は今後も注視が必要な状況である。これから、日本の移民・難民をめぐる議論は大きく動くだろう。移民・難民の権利保障という基本原則を大前提に、地域の実態、この社会の現状を直視した政策転換が求められている。

まとめ

移民・難民の基本的サービスへのアクセス保障は基本原則であるが、現状としてその保障には課題があり、新型コロナ対策において顕著に現れた。その背景の一つには、在留管理を先行させる現行の入管制度がある。だれ一人取り残さない社会の実現に向けて、短期的には、いま活用できる制度を公的機関が適切に運用することが重要であるが、長期的には、真の共生を前提にした政策転換が求められる。

(ちぇ・すうよん/NPO法人移者と連帯する全国ネットワーク)

  1. 詳細については、觜本郁(2021)「移住者なんでも相談 Q&A」『Mネット217号』移住連. 参照
  2. 「在留資格のない外国人 病院は通報するの」『朝日新聞』2021年12月26日.
  3. 詳細については、移住連『Mネット219号』 参照。

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。