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レポート・報告書

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.161 在日外国人コミュニティの COVID-19 感染拡大に備えるための情報ネットワーク調査(3)
「外国人へのワクチン接種から考える ――対話的情報発信の有用性と自治体間格差の課題」

新居 みどり

2022年3月30日発行

PDF (666KB)

  • 在日外国人への広報は「対話のある情報発信」が有用である。
  • 在日外国人へのワクチン接種は、自治体間の格差が大きく社会的課題である。
  • 日本人と外国人という二項対立から、日本語が不自由な住民という視点へ。
外国人のためのワクチン相談センターを開設

20年近く外国人支援を行ってきた市民活動団体であるCINGA(法人国際活動市民中心)は、2021年10月に「外国人新型コロナワクチン相談センター(COVIC)」を開設した。新型コロナ感染拡大予防のためにワクチン接種は重要だが、日本人に比べて在日外国人は接種を受けづらいという現実がある。この社会的課題の解決を目指したCOVICの取組みからの学びを記述する。

対話的情報発信の重要性

2020年秋、在日外国人の間で感染が広がるなか、内閣官房新型インフルエンザ等対策有識者会議の第14回感染症対策分科会にて「対話のある情報発信(メッセージの受け手の気持ちや受け止め方を理解したうえで情報発信し、その効果や影響を確認すること)」の重要性が指摘され、同時にキーパーソンの有用性についても言及がなされた。そこでCOVICオープン前の9月にプレオープン期間を設け、対話的情報発信・伝達とキーパーソンが本当に機能するのか、有用なのかを検証するための情報伝達の実験を行った。

二人のキーパーソンに情報伝達を依頼

正式な広報開始に先立ち、ワクチン接種を希望する在日外国人のための相談センターであるCOVICの機能と電話番号を、仮放免状態の外国人を支援しているジャーナリストと、日本国内の医療機関で働く外国人医師の二人だけに伝えた。二人には、支援を必要としている人たちのところへ、その人たちがわかるように、情報を届けてほしいと依頼した。

結果、二人だけに伝えた情報は広がり、翌日から相談が寄せられるようになった。ホームページにもSNSにも掲載していなかったCOVICの電話番号に電話がかかってきたのである。プレオープンの17日間で22件の相談が寄せられた。

困難な状況にある人を具体的に知り、日常的・継続的につながっている人が、その関係性のなかで、対話的な情報発信を行うこと。そうすれば、情報が届き、受け取った人の行動を呼び起こすことができることが実証された。そして、COVICを利用した人が、また別の人へ対話的に情報を伝達することで、さらにセンターの情報が伝わっていくのだとわかった。

この経験をもとに10月から正式にCOVICをオープンし、2022年1月末時点で延べ236件の相談に対応している。

外国人ワクチン接種――政府の取組みと限界

2018年12月の入管法改正を受け、政府から「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」が出されるようになり、2021年の対応策には、「新型コロナウイルス感染症の感染予防・円滑なワクチン接種支援等」が示された。

特に注目する取組みとして、外国人在留支援センター(FRESC/フレスク)が相談センターを立ち上げたことがあげられる。

そこでは、ワクチン接種券の判読や自治体への連絡等に苦慮している外国人の個別相談に応じると共に、東京、名古屋、大阪においては、医療機関と協力して、フレスクで予約をすれば指定された医療機関でワクチン接種を受けられる体制が構築された。

これらの支援活動を通じて改めて明らかになったのは、外国人がワクチン接種を希望しても、接種券がなければ、接種できないということ。そして自治体は、住民(住民登録している人)にしか接種券を発行しないので、短期滞在や特定活動(3か月以下)などの在留資格で、自治体に住民登録できない人たちは、接種券の発行を受けることができないことである。

外通達により短期滞在者の接種券発行が可能に

この問題を解決するために、出入国在留管理庁は、「短期滞在等の在留資格を有する方への新型コロナウイルス感染症に係る予防接種について」(2021年9月10日)を通達した。在留資格があり、自治体内に居住実態がありながら住民登録できない外国人が、ワクチン接種の希望を申し出た場合は、接種券を発行するよう自治体に依頼した。また、該当の外国人に対して個別に葉書を送り、自治体へ申し出ることを周知した。これにより、多くの外国人が接種券を受けとることができるようになった。

図1 外国人ワクチン接種グループと支援の担い手図

図1 外国人ワクチン接種グループと支援の担い手図

筆者作成

(図の解説)外国人ワクチン接種のためのハードルは、在留資格と住民登録の有無により異なり、それぞれに応じて支援できる担い手も自治体、政府、NPOと異なる。支援に当たっては、それぞれの立場を活かした連携が重要である。

自治体間の外国人対応の格差が課題に

外国人のワクチン接種では、自治体の裁量権が大きいことが、自治体間の格差を生んでいる。

ひとつは、外国人住民への配慮である。外国人が多く住んでいる自治体などは、対応に慣れており、接種券送付封筒の表に多言語で「重要なお知らせ」といった文字を入れたり、コールセンターに多言語対応を整備したり、外国人専門の接種会場や接種日を設けるなど工夫を行った。

一方で、外国人対応に慣れていない自治体は、全く配慮がなされず、日本語の読めない外国人が接種券の封筒を廃棄してしまったり、接種予約のページが日本語のみなので入力ができなかったりして、外国人住民の接種が進まず、自治体ごとで接種率に大きな差が生まれた。

非正規滞在者への通報義務

また、もうひとつ自治体間で対応にばらつきが出たのが、入管へ未出頭の非正規滞在者へ接種券を発行するかどうかである。

入管未出頭の非正規滞在者からワクチン接種希望の相談が来るたびに、COVICでは居住実態がある自治体へ電話し、接種券発行の可否、通報の有無について確認しているが、その対応は自治体ごとに大きく分かれている。

国は、非正規滞在で入管未出頭の人を発見した際の公務員の通報義務について通達(2021年6月28日)を出し、ワクチン接種という公益を考慮して通報しないことも可能であると示している。しかし自治体ごとに通報の判断が分かれ、結果的に接種券を受け取れず、接種を希望しながら、できない人たちが存在する。

公衆衛生的な視点からみると、一人でも多くの人がワクチン接種をすることが、全体の安全につながるにもかかわらず、同じ非正規滞在でも、あちらの町は接種でき、こちらの町ではできないという格差が発生しているのである。

まとめ

多くの人の接種が望ましいワクチン情報などは、日常的なつながりのある人たちからの、対話的情報伝達が有用である。また、自治体間の格差をなくすべく、外国人のためのワクチン行政は自治体判断ではなく、政府としてしっかりと対応をする必要性があるのではないか。

最後に、自治体は日本人と外国人の区別なく、同じ地域に暮らす同じ住民としてとらえ、そのなかには、日本語が不自由な人もいるという視点への転換が重要ではないかと考える。

住民のなかには、多様な配慮が必要な人がおり、その人たちに対する合理的配慮はSDGs時代における自治体の責務だからである。

(にい みどり/NPO法人国際活動市民中心)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。