技術でアフリカの社会課題解決に貢献する――どのように現地ニーズに応じて技術を最適なものに変化させるか

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.127

井上 直美

2019年5月13日発行

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  • 日本企業がその技術でアフリカにおける社会課題の解決に貢献するには、保有する技術を現地ニーズに応じて最適なものに変化させる対応力が求められる。
  • 現地ニーズ把握のためには国連機関とのパートナーシップが有効。日本の政府関係機関の支援が果たす役割は大きい。

科学技術を活用したイノベーションが、アフリカの社会課題の解決や持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の達成に役立つとし、世界中の投資家や起業家からアフリカ、特にシリコン・サバンナと呼ばれるケニアには高い関心が寄せられている。政府にとっては、企業が国の社会課題を効率的に解決へ導くことで、政府の開発資金の不足を補てんできることが魅力である。

筆者は2019年3月にケニアにおいて科学技術を活用したイノベーションが、どのように現地の社会課題の解決に関わっているかを調査した。現地の関係者に聞いた日本企業に対する印象は、「最先端の技術を日本から持ってきて、その技術を現地のニーズに合ったものに変えようとしない」、「現地の文化を理解しない」、「決断が遅い」、「値段が高すぎる」というものだった。

例えば援助機関では、ロボティクス技術を持ち込んだ韓国企業と日本企業の違いを次のように説明した。韓国企業の担当者は、自社技術が高度すぎて現地のニーズに合わないと指摘されると、本社から技術を変更する了承を取り付けて直ぐにケニアに戻り、現地のスタートアップと協力して利用者のニーズを調査し、そのニーズに合う技術の改良に取り組んだ。一方、日本企業は自社の技術にこだわり、変更することは難しいといって日本へ帰国した、という。

現地のニーズを満たすための行動

ケニアにおいて関係者が強く主張するのは、現地で社会課題の解決に求められている技術は、既に完成した高度な技術ではなく、現地のニーズに応じて柔軟に変えられる技術だという点である。したがって、日本企業が、その保有する技術を用いて現地の社会課題の解決に取り組むのであれば、その技術を現地のニーズ、特に技術を使ったサービスや製品の利用者のニーズに応じて改良する用意が必要である。また、複数の技術を候補として用意し、その中から利用者のニーズに応じて使うものを選定することもあり得よう。

現地ニーズの把握のためには、利用者との対話や彼らの行動観察が欠かせない。現地政府、市民社会、援助機関、スタートアップコミュニティ、学術機関など多岐に亘る分野の人々との対話は、日本企業が現地特有の慣習を含めた包括的な視点を得る助けになるだろう。国家の開発戦略に注意を払う必要もある。たとえば、ケニア政府は、4つの主要課題として「食料・栄養の保障」、「手ごろな住宅の確保」、「製造業の推進」、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」の4つを掲げている。

次に、企業が利用者との対話や観察から特定したニーズを満たすように、自社の技術を改良する際には、利用者の視点に立ち仮説を立て、それを検証しサービスや製品の設計を行う、「人間中心の設計(Human Centered Design)」のアプローチを使うことが望ましい(ISO9241-210やJIS Z 8530など)。検討プロセスでは、多様なデザインアプローチを用いる「デザイン思考」も活用できる。デザイン思考は利用者の行動を特定し、革新的な解決策を見つけるのをサポートする。

技術をニーズに合わせて変えるメリット

企業にとっても、技術を現地ニーズに合わせて変えることの利点がある。技術をエンドユーザーのニーズに沿って組み立てるプロセスによって、リーンスタートアップが可能となり、開発や市場展開にかかる費用の無駄を省けるからである。また、企業は市場のニーズを直接に捉えるために先行者利益を掴むことができるようになるだろう。さらに企業が政府のニーズを満たす技術を提供すれば、政府はアーリーアダプターとして機能することが期待できる。その結果社会に受け入れられた技術は、現地社会に共有価値パートナーシップの仕組みをもたらす。企業が現地のニーズを把握するため、JICAの「途上国の課題解決型ビジネス調査」スキームを活用する例もある。

国連機関とのパートナーシップ

国連機関との連携は、企業が現地ニーズを特定するのに加え、社会課題が複雑なケニアで事業を始める際に有効である。国連機関は現地の最も深刻なニーズは何かを把握し、社会課題を解決するための事業を行っている。そのため企業は彼らと連携すれば、必要最小限の機能を備えた製品の実効性テストを、ターゲットとする利用者に直接行うことができる。国連機関は政府と強いネットワークを持ち、必要な調整の際に手助けになる。資金難に悩む国連機関は、援助から事業の収益化を前提としたサービスへの移行を望んでおり、これは企業のニーズと一致する。なお国連機関と連携するためには現地政府が求める指針に準拠することや、国連機関の公共調達プラットフォームへ登録すること等の手続きが必要となることに留意が必要である。日本企業が国連機関と連携する際に使いやすい仕組みとしては次のようなものがある。

(1) Kenya SDG Partnership Platformへの参加

ケニア政府と国連が中心となり各国政府、援助機関、民間セクター、NGO、市民社会、学術界等が協力し、4つの主要課題を解決するためのものである。会員組織は、プロジェクトへの参加や国連機関から政府交渉の手助けやアドバイスを受けることができる他、プラットフォームを活用し、1社で国連機関との連携事業を作ることもできる。参加する企業や組織はプラットフォームを活用した民間連携を推進するSteering Committee(委員会)に登録し、マルチドナーファンドへ資金を出す。資金の拠出手段は多岐に亘り、USAIDは拠出金の半分をMcKinsey社が行うニーズ調査委託費として出す。Philips社は、資金供給を行い、かつイノベーション専門家を委員会へ派遣している。

(2)日本政府の資金援助の活用

日本政府から資金を得たプロジェクトに対して、その技術的ニーズの解決策を、企業がベンダーとして提供する手法である。企業には日常的に機関と情報交換を行い、裨益者のニーズを満たしつつ最小化した技術を特定し、提案することが利点となる。日本資金を活用するため、日本企業は国連機関へ提案しやすいが、企業選定は公共調達のルールに則って行われており、受注が保証されるものではない。ケニアでは、NECアフリカ社が国際移住機関との民間連携事業で空港にセキュリティシステムを導入し、LIXIL社が国際連合人間居住計画と協力して難民居住地にグリーントイレシステムを設置した事例がある。

(3)資金供給を前提とした連携事業の実施

企業が、企業財団等を通じて国連機関へ資金を提供し、連携しながら現地ニーズを満たす技術を特定し、数年後に事業化を目指すやり方である。連携の可能性は、現地事務所、東京連絡事務所および機関本部の連携担当と相談することができる。例えば、国連児童基金本部にはPrivate Fundraising and Partnerships (PFP)という窓口があり、各社からの相談を受け付ける。過去に企業とナイロビ大学のラボが協力し技術の改良に成功した事例がある。

まとめ

企業が現地のニーズに合致した技術を、現地のステークホルダーと共に作り出すことは、無駄が少なく持続可能な技術革新を導く可能性が大きい。国連機関との連携においては、各国政府大使館や政府開発援助機関の支援が欠かせない。この点において、日本政府関係機関が果たすべき役割は大きい。

(いのうえ なおみ/東京外国語大学)

本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。