ラオスの産業開発と経済発展 サービス自由化と投資手続きによる経済効果分析

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.67

石田正美 ・片岡真輝
2016年7月20日発行
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  • 内陸国で人口規模が少なく、労働集約型産業の誘致が持続可能ではないラオスでは、タイやベトナムとは違った経済成長戦略が必要。
  • サービスの自由化を促進することで、GDPを押し上げる効果があることがシミュレーションによって示されている。
  • 投資手続きの簡素化は、比較的低コストかつ短期間で達成できる政策であり、経済効果も高い。



近年のラオスの経済発展は目覚しく、過去10年間でGDPは平均7%以上の成長を維持している。このような成長は、ラオスが近隣のASEAN諸国とインフラ整備や貿易円滑化などで協力してきたことによって達成されている。例えば、ラオス政府は、東西経済回廊と国道13号線が交わり、タイとの国境にも近いサワン・セノ経済特区を建設し、東アジア諸国をはじめとする企業の誘致に成功した。2015年末に発足したASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community: AEC)により、ラオスがさらなる経済発展を謳歌する可能性は十分にあるだろう。

一方、ラオスの2014年の一人当たり国民総所得はおよそ$1,600であり、いっそうの経済発展を進める必要がある。しかし、ラオスは人口規模が小さく、労働集約型産業の誘致には持続可能性が乏しいので、タイやベトナムとは違った戦略が必要である。また、ラオスは内陸国であり港湾を持たないため、輸出の際にはどうしても輸送コストがかかるし、FDIを誘致するにしても、近隣のASEAN諸国と比較した場合、どうしても競り負けてしまう。このような諸条件の中、ラオスが持続的に発展するためには、どのような政策が必要であろうか。

サービスの自由化を促進するだけで、2030年までにGDPが0.31%押し上がる可能性も
地域的、又は二国間の自由貿易協定(FTA)がグローバル経済の主流になりつつあるが、実際にはこれらのFTAでは、関税撤廃など限定的な貿易自由化しか達成されない。つまり、非関税障壁やサービス貿易に対する障壁は解決されずに残る場合が多い。では、サービスの自由化を達成することがラオスの経済発展にどの程度寄与するかを見てみよう。まず、ラオスにおけるサービス自由化度であるが、サービス障壁を国毎に比較すると、ラオスでは障壁が非常に高いことが分かる。具体的な障壁としては、手続きの煩雑性、現地パートナーを見つけることの困難さ、文化的差異性などが挙げられる。

では、サービス自由化を達成することがラオスにどのような影響を与えるかを、アジア経済研究所が開発した経済地理シミュレーション・モデル(Geographical Simulation Model: IDE-GSM)を用いて分析してみよう。IDE-GSMは空間経済学を元にしたシミュレーション・モデルであり、地域レベルでの貿易・交通促進措置の影響を分析するものである。シミュレーション結果は、サービス自由化がラオス経済にとり、ポジティブな影響を与えるというものであった(図1)。例えば、2016年から2025年にかけて、ラオスがサービス障壁のレベルをカンボジアのレベルにまで引き下げた場合、2030年にはGDPを0.31%押し上げる効果があることが示された。

図 1
図 1
(出所):Calculated by IDE-GMS.

このようにサービス自由化はラオス経済に利益をもたらすと予想されるが、このようなサービス自由化は、現時点でTPPに参加する予定のないラオスのような国にこそ重要な政策になる。なぜなら、中国が上海自由貿易試験区においてサービス自由化を積極的に進めており、この施策を中国全体に広げようとしているからである。我々の分析では、中国がサービス自由化を進め、近隣諸国がサービス自由化を進めない場合、中国のサービス自由化政策がネガティブな影響として近隣諸国に波及することが分かっている。このような観点からも、ラオスにとりサービス自由化の達成が喫緊の課題となっている。

投資手続きの簡素化はやる気次第ですぐにでき、経済効果も高い
投資には事務的な手続きから必要な認証やライセンス、証明書の取得など、多くの作業とコストが伴う。実際に現地でビジネスを行うまでの時間や労力、費用などのコストはサンク・コストとして、企業に重くのしかかることになる。

ラオスの投資手続きについてであるが、ラオスでビジネスを始めるまでには、平均で92日間を要しており、189カ国中で154番目とのデータがある。同じデータによるとタイは28日間、ベトナムとフィリピンは34日間であり、他のASEAN諸国と比べても、倍以上の日数がかかっている。もちろん、企業が投資をする場合、その市場規模や潜在性なども考慮して意思決定を行うので、投資手続きが煩雑であったり、日数が多くかかったりするだけで、投資を諦める訳ではない。しかし、市場規模などは短期的には大きく変わるものではないが、投資手続きを簡素化する政策を打ち出すことは、比較的短期間で、かつ低コストで実現できる。我々のシミュレーションでは、投資手続きをより簡素化することで、より多くの企業がラオスに参入するという結果が出ている。

複雑で多くの書類を入手しなければいけない手続きを簡素化することは、やる気があれば短期間で達成できる。そして、その効果が大きいことが見込めるのであれば、ラオス政府は投資手続きの簡素化にいっそう真剣に取り組むべきである。また、いつくかのセクターではネガティブ・リスト方式による規制方法が適切なのはその通りであるが、できるだけ明確な条件と定義を設定、周知することも、投資に対するハードルを下げることに寄与するだろう。一方、投資案件を無条件にすべて受け入れることはすべきではない。特に環境や健康への負の影響が大きいと考えられるものなどは、規制を明確にした上で、慎重な承認手続きが必要である。

まとめ
ラオスの経済発展に向けた提言として、本稿ではサービス自由化と投資手続きの簡素化に焦点を当てて説明してきたが、この他にも人材育成や産業立地など、ラオス政府が検討に値する施策は数多くある。内陸国であり、人口が少ないという特徴を持つラオスにとって、国際的、地域的にどのようなニーズがあり、何が起こっているかを正確に把握し、その対応を適切にとっていくことが重要となる。投資手続きについて他の近隣諸国より手続きが煩雑であれば是正し、中国のサービス自由化政策の負の影響を受けそうであれば、ラオス自身も早急にサービス自由化を進めていくべきであろう。このような冷静な状況判断が今後もおおいに求められる。

(いしだ まさみ/開発研究センター長、かたおか まさき/研究企画部研究連携推進課)



本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。