CLV開発の三角地帯の課題

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.26

石田 正美
2013年9月13日

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はじめに
カンボジアとラオスとベトナム、これら3カ国はミャンマーとともに1990年代にASEANに加盟している。これら3カ国のなかで最後にカンボジアが加盟した1999年、3カ国首脳が会談し、これらの国の国境が交わる「CLV開発の三角地帯」を設立することで合意、三角地帯は2004年に設立されている。

当初はカンボジアのストゥントレン州、ラタナキリ州、モンドルキリ州の3州、ラオスのサラワン県、セコン県、アタプー県の3県、ベトナムのコントゥム省、ザーライ省、ダクラク省、ダクノン省の4省が対象とされた( 図1 濃灰色部分)。その後、2009年にそれぞれ3カ国のクローチェ州、チャンパサック県、ビンフォック省が加わった( 図1 淡灰色部分)。

日本の経済協力のなかでは、2004年11月に小泉首相により表明されたCLV諸国への15億ドル支援並びに2006年に設置された日・ASEAN 統合基金(JAIF)において、CLV開発の三角地帯は重点支援対象地域として位置付けられている。ここでは、開発の三角地帯の現状を報告するとともに、今後の政策課題を論じることとしたい。


人口希少な貧困地域の開発の可能性
表1 は、13の州・県・省の人口密度と1人当たり州・県・省内総生産(GPP)とそれらの国内での順位、少数民族の構成比を示したものである。まず、ベトナムのビンフォック省、ラオスのチャンパサック県とサラワン県を除けば、いずれの州・県・省も国内では人口が希少で、1人当たりGPPの低い貧しい地域である。また、ラオスのチャンパサック県はラオス国内では人口密度も1人当たりGPPも2番目に高いが、人口密度はベトナムで下から3番目のコントゥム省より低く、カンボジアの4州はいずれもそれを下回っている。加えて、州・県・省によっては、少数民族が過半数を占める地域もあり、言語などの面で更なるハンディを背負う。さらに三角地帯は内陸部に位置し、港湾へのアクセスも良くはない。

表1 開発の三角地帯各州・県・省の人口密度、所得水準、少数民族構成比
国州・県 人口密度(人/km2) 順位 1人当GPP(米ドル) 順位 少数民族比(%)
Cストゥントレン州 10.1 23/24 n.a.   9
Cラタナキリ州 13.9 20/24 n.a.   57
Cモンドルキリ州 4.3 24/24 n.a.   67
Cクローチェ州 28.8 19/24 n.a.   14
Lサラワン県 35.1 4/17 805.0 7/17 50
Lセコン県 13.1 15/17 460.0 16/17 88
Lアタプー県 12.6 16/17 881.0 15/17 40
Lチャンパサック県 42.9 2/17 1,262.0 2/17 15
Vコントゥム省 46.8 61/63 610.5 49/63 53
Vザーライ省 85.1 55/63 662.1 41/63 44
Vダクラク省 135.0 45/63 688.6 35/63 33
Vダクノン省 79.1 56/63 669.9 39/63 32
Vビンフォック省 131.7 48/63 983.8 11/63 20
注: 1)Cはカンボジア、Lはラオス、Vはベトナムを示す。
  2)Cは2008年、Lは2011年(少数民族比は2006年)、Vについては人口密度と1人当りGPPが2010年、少数民族比が2009 年の調査に基づく。
出所: カンボジアとベトナムは国の統計、ラオスは県の統計による。


図1 カンボジア・ラオス・ベトナム開発の三角地帯
図1 カンボジア・ラオス・ベトナム開発の三角地帯
(出所)筆者作成。

このようにハンディはあるものの、開発の可能性がないわけではない。具体的には、農業や鉱業のほか、それらの産物を原産地周辺で加工する原産地加工型の製造業、水力発電、観光産業などの可能性が高い。実際、キャッサバ、コーヒー、天然ゴム、カシューナッツなどの栽培が行われ、キャッサバのエタノール工場も立地されている。また地域によってボーキサイト、金、銅、ニッケルなどの探査・採掘が行われ、ダム建設も進められている。さらに、これらの地域は、湖沼や滝、野生動物、遺跡など観光資源にも恵まれ、三角地帯であるがゆえに、短期間で3カ国やタイを含む4カ国の周遊ツアーも考案されている。


地域開発の課題
このようにポテンシャルは決して低くはない。だが、持続可能な手段でポテンシャルを現実化させるには、以下のような課題があげられる。(1)農産物や鉱物資源の港湾や市場への輸送、さらには観光客の輸送に、道路インフラの確保が条件となる。また3カ国や4カ国の物流や観光の実現には、トランジット輸送も今後の課題である。(2)カンボジアやラオスでゴム園の投資が増えているが、これら地域が人口希少であり、植えられた木が収穫できる数年後に、労働力が確保できるのかも留意が必要であるし、有害なラテックス廃棄物処理にも配慮する必要があろう。(3)鉱業も金属採掘の場合、有害廃棄物による土壌・水質汚染の対策にも注意が必要である。この点で、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による3カ国の現地語に翻訳した鉱害防止マニュアルの配布などは効果的と言えよう。(4)水力発電所の建設に関し、カンボジアのストゥントレンでメコン川に合流するセコン川水系で、電源開発が進められている。同水系はベトナムとラオスを水源とする国際河川であるが、3カ国間で十分な調整がされないまま、ダムの建設・計画が進められているため、国際水利権の調整が今後の課題となろう。

これらの点を考えると、この地域の持続可能な開発には、3カ国の中央・地方政府に加え、ドナーも含めたよりしっかりとしたガバナンスが求められよう。

(いしだ まさみ/ JETRO バンコク事務所)


本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。