中小部品サプライヤーの経営実態とアジア展開の現状・課題
アジ研ポリシー・ブリーフ
No.13
ジェトロ海外調査部 アジア大洋州課
2012年9月20日
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近年、日本企業のアジア市場重視の戦略がますます鮮明となり、消費財メーカーを中心にその生産・販売活動をアジアへシフトする動きが加速している。セットメーカーに部材を納入する中小サプライヤーにとっても、「アジアへの事業展開をいかに図るか」、そして「新興市場の需要をいかに自社の成長に取り込むか」が最も重要な経営課題の一つとなっている。
他方、ASEANや中国、インド市場には、同地域に収益・利益の源泉を求めるグローバル企業の参入が相次ぎ、市場シェア獲得のための競合はますます熾烈化する。部材や機械などのサプライヤーレベルでは、コスト競争力を武器に台湾や中国企業が台頭。ユーロ安を追い風にドイツを中心とする欧州企業もアジア市場への進出を本格化させており、日系サプライヤーの置かれる立場は厳しい。取引先からのコスト引き下げ圧力も高まるなか、主要国で2ケタの伸びが見込まれる人件費や、インフレの高進に伴う部材コストの上昇が収益を圧迫する状況が続く。
このような状況下、ジェトロでは2011年7月~2012年1月にかけて、アジア主要国への販路開拓に取り組む日系サプライヤー約200 社に対しインタビュー調査を行った。サプライヤーの立場から見た近年のアジアの市場環境や取引先との関係の変化とは。また、新規販路開拓や部材調達の効率化に向け、いま具体的にどのような取組みが進められているのか。
大手メーカーの調達方針に柔軟化の動き
中国やインド、ASEANにおける近年の市場環境について、日系部品サプライヤーが共通して口にするのが、「地場企業との競合激化」や「(取引先からの)地場企業と同水準のコスト要求」といった言葉である。取引先の日系メーカーに売り込む際に、もはや「日系同士」のメリットはなく、台湾系や中国企業、ローカル企業と同じ競争条件の下で、コスト・品質・納期でのトータル・メリットを出していく必要がある。
他方、調達側の企業(セットメーカーやTier1メーカー)からは、サプライヤーに求める条件として「自社では内製化できない部品を提供できること」との声が多く聞かれる。海外への新規投資や設備増強にあわせ、外注部品の内製化切り替えでコストやリードタイムを削減する動きも加速している状況下、「単工程で独自技術を持たないサプライヤーとの取引可能性はない」との厳しいコメントも聞かれた。
特筆すべき動きとして、中国やインドなどの新興市場を中心に、セットメーカー各社が材料などの調達条件を現地市場に合わせて柔軟化させつつある点が挙げられる。その背景には、自動車や家電、機械等の最終製品レベルでも、ローカル企業との価格競争により従来の指定材料に拘れなくなっている事情がある。とりわけ安全性や機能面に影響が出ない部品に関しては、徐々に鉄鋼やプラスチックなどの品番指定や規格を緩和する動きが出始めている。ただし、指定材料の変更は原則サプライヤーからの提案ベースであるため、品質テストを入念に行い、見積もり段階で納入先に認めてもらう必要があるようだ。
円高で競争劣位に立たされる日系メーカー
中国やインドの現地日系自動車部品メーカーの多くは、自社製品の価格をローカル製品に比べ少なくとも2割増と評価する。日本からの輸入品については(製品にもよるが)5 割以上の開きがある部品も多い。工業製品の場合、国内販売を目的に輸入される部材へ2012年の関税(平均10%前後)や関税に乗じて賦課されるVAT(中国では増値税、税率は平均10~20%)もコストアップ要因となる。一部製品は強制認証制度へ適合するための許認可手続きが障壁になっているケースも聞かれた。単純加工の製品では差別化が図れず、競争力はない。難加工素材や金型技術での差別化を模索する企業が目立った。
また、かつて日本からの輸入製品が主流であったASEANの工作機械・設備市場でも、近年の円高を背景に、日本製機械の価格が高騰。低価格帯では、コスト競争力のある台湾や中国製が急速に台頭している状況が見られる。出展企業の評価によると、台湾製の価格は、同様のスペックで比較すれば、日本の2分の1程度のものが多く、中国製はさらに安い価格帯の製品が多い。測定機や検査機などの高付加価値市場では、昨今の円高(ドル・ユーロ安)を背景に米国製やドイツ製の機械の巻き返しが目立つ。
コスト引き下げは部材調達と生産効率から
今後のコスト引き下げの具体策として、多くの企業は、部材調達の現地化・効率化の推進、生産効率改善を挙げる。特に輸入部材は関税と輸送費だけで25~30%近いコスト増になるため、現調化によるコスト抑制効果は大きい。素材関連は、日本の基準による品質・硬度検査を済ませた上で現地産に切り替える流れが加速。ユニット部品でも、安全性・機能性に影響がないパーツを手始めに、スペックをある程度落とし、ローカル部品の導入を試みる企業も増えている。一方、日本からしか調達できない部材としては、制御システム、油圧関連部品(バルブ等)、モーター用クラッチ、半導体関連部品などが挙げられた。
また、近年の急激な人件費の高騰と労働者不足の深刻化により、生産現場での自動化ニーズも拡大している。しかし、工場のフル自動化はコストが嵩み、納入先の仕様変更などに柔軟・迅速に対応できないリスクも指摘される。そのため、装置やラインはフルカスタマイズ方式ではなく、機能部分を可能な限り標準化し、据付のみをカスタマイズする形でコストダウンを図る納入形態が主流となりつつある。
複数工程の組合せが競争力のカギに
日系サプライヤー各社の特徴的な販路開拓手法・手段についてまとめた( 表 )。日系サプライヤーの課題は、品質・技術力や仕様変更への対応力での差別化のみならず、試作品(オーダーメイド)と汎用品の両方に対応できる体制の整備である。複数の工程を組み合わせ、一括受注することで競争力も高まる。コスト競争力の強化に向けては、すり合わせ方式による開発・納入から脱却し、工程をある程度モジュール化するとともに、汎用性の高い部品をメーカー側に逆提案していくような営業手法も求められよう。
一方、他の製造ラインとの調整・据付け、メンテナンス、修理対応などは、現場レベルでのサポートが不可欠である。サービス・メンテナンスを担う地場代理店の発掘、現地エンジニアの技術教育・育成もカギになる。代替品で即応できる仕様設計、さらには段階的な自動化や、一部工程のみに限定した小規模自動化ニーズを充足する対応力も求められる。
このような状況下、ジェトロでは2011年7月~2012年1月にかけて、アジア主要国への販路開拓に取り組む日系サプライヤー約200 社に対しインタビュー調査を行った。サプライヤーの立場から見た近年のアジアの市場環境や取引先との関係の変化とは。また、新規販路開拓や部材調達の効率化に向け、いま具体的にどのような取組みが進められているのか。
大手メーカーの調達方針に柔軟化の動き
中国やインド、ASEANにおける近年の市場環境について、日系部品サプライヤーが共通して口にするのが、「地場企業との競合激化」や「(取引先からの)地場企業と同水準のコスト要求」といった言葉である。取引先の日系メーカーに売り込む際に、もはや「日系同士」のメリットはなく、台湾系や中国企業、ローカル企業と同じ競争条件の下で、コスト・品質・納期でのトータル・メリットを出していく必要がある。
他方、調達側の企業(セットメーカーやTier1メーカー)からは、サプライヤーに求める条件として「自社では内製化できない部品を提供できること」との声が多く聞かれる。海外への新規投資や設備増強にあわせ、外注部品の内製化切り替えでコストやリードタイムを削減する動きも加速している状況下、「単工程で独自技術を持たないサプライヤーとの取引可能性はない」との厳しいコメントも聞かれた。
特筆すべき動きとして、中国やインドなどの新興市場を中心に、セットメーカー各社が材料などの調達条件を現地市場に合わせて柔軟化させつつある点が挙げられる。その背景には、自動車や家電、機械等の最終製品レベルでも、ローカル企業との価格競争により従来の指定材料に拘れなくなっている事情がある。とりわけ安全性や機能面に影響が出ない部品に関しては、徐々に鉄鋼やプラスチックなどの品番指定や規格を緩和する動きが出始めている。ただし、指定材料の変更は原則サプライヤーからの提案ベースであるため、品質テストを入念に行い、見積もり段階で納入先に認めてもらう必要があるようだ。
円高で競争劣位に立たされる日系メーカー
中国やインドの現地日系自動車部品メーカーの多くは、自社製品の価格をローカル製品に比べ少なくとも2割増と評価する。日本からの輸入品については(製品にもよるが)5 割以上の開きがある部品も多い。工業製品の場合、国内販売を目的に輸入される部材へ2012年の関税(平均10%前後)や関税に乗じて賦課されるVAT(中国では増値税、税率は平均10~20%)もコストアップ要因となる。一部製品は強制認証制度へ適合するための許認可手続きが障壁になっているケースも聞かれた。単純加工の製品では差別化が図れず、競争力はない。難加工素材や金型技術での差別化を模索する企業が目立った。
また、かつて日本からの輸入製品が主流であったASEANの工作機械・設備市場でも、近年の円高を背景に、日本製機械の価格が高騰。低価格帯では、コスト競争力のある台湾や中国製が急速に台頭している状況が見られる。出展企業の評価によると、台湾製の価格は、同様のスペックで比較すれば、日本の2分の1程度のものが多く、中国製はさらに安い価格帯の製品が多い。測定機や検査機などの高付加価値市場では、昨今の円高(ドル・ユーロ安)を背景に米国製やドイツ製の機械の巻き返しが目立つ。
コスト引き下げは部材調達と生産効率から
今後のコスト引き下げの具体策として、多くの企業は、部材調達の現地化・効率化の推進、生産効率改善を挙げる。特に輸入部材は関税と輸送費だけで25~30%近いコスト増になるため、現調化によるコスト抑制効果は大きい。素材関連は、日本の基準による品質・硬度検査を済ませた上で現地産に切り替える流れが加速。ユニット部品でも、安全性・機能性に影響がないパーツを手始めに、スペックをある程度落とし、ローカル部品の導入を試みる企業も増えている。一方、日本からしか調達できない部材としては、制御システム、油圧関連部品(バルブ等)、モーター用クラッチ、半導体関連部品などが挙げられた。
また、近年の急激な人件費の高騰と労働者不足の深刻化により、生産現場での自動化ニーズも拡大している。しかし、工場のフル自動化はコストが嵩み、納入先の仕様変更などに柔軟・迅速に対応できないリスクも指摘される。そのため、装置やラインはフルカスタマイズ方式ではなく、機能部分を可能な限り標準化し、据付のみをカスタマイズする形でコストダウンを図る納入形態が主流となりつつある。
複数工程の組合せが競争力のカギに
日系サプライヤー各社の特徴的な販路開拓手法・手段についてまとめた( 表 )。日系サプライヤーの課題は、品質・技術力や仕様変更への対応力での差別化のみならず、試作品(オーダーメイド)と汎用品の両方に対応できる体制の整備である。複数の工程を組み合わせ、一括受注することで競争力も高まる。コスト競争力の強化に向けては、すり合わせ方式による開発・納入から脱却し、工程をある程度モジュール化するとともに、汎用性の高い部品をメーカー側に逆提案していくような営業手法も求められよう。
一方、他の製造ラインとの調整・据付け、メンテナンス、修理対応などは、現場レベルでのサポートが不可欠である。サービス・メンテナンスを担う地場代理店の発掘、現地エンジニアの技術教育・育成もカギになる。代替品で即応できる仕様設計、さらには段階的な自動化や、一部工程のみに限定した小規模自動化ニーズを充足する対応力も求められる。
手法 | 具体的手段 |
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加工領域・受注の 柔軟化 |
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本社機能の活用 |
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新規販売ルートの開拓・拡充 |
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部材調達の工夫・ 効率化 (コストダウン) |
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本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。