資料紹介:バッタを倒しにアフリカへ

アフリカレポート

No.56

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050155

資料紹介:前野 ウルド 浩太郎 著『バッタを倒しにアフリカへ』

■ 資料紹介:前野 ウルド 浩太郎 著『バッタを倒しにアフリカへ』
児玉 由佳
■ 『アフリカレポート』2018年 No.56、p.20
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本書は、昆虫学者である著者が、2011年からの2年間モーリタニアに滞在し、サバクトビバッタの調査を行ったときの経験を綴ったものである。前著書である『孤独なバッタが群れるとき――サバクトビバッタの相変異と大発生』(東海大学出版部、2012年)でもサバクトビバッタを扱っているが、研究室での実験が中心であった。本書では、モーリタニアの野生のサバクトビバッタが対象である。

モーリタニアでの生活や所属していた国立サバクトビバッタ研究所の人間模様も興味深いが、この本をより魅力的にしているのは、バッタ博士を名乗る著者のサバクトビバッタとの格闘である。研究テーマを見つけるために試行錯誤している様子は、研究論文になる前に理系の研究者がどのようなことを考え、行動しているのかが伺えてとても興味深い。途中でサバクトビバッタの大群に巡り合えずにゴミムシダマシという甲虫の研究に寄り道してしまうのもご愛敬である。また、写真がカラーも含めて多数掲載されており、現地の様子だけでなく、サバクトビバッタやほかの昆虫たちの姿や生態を垣間見ることができる。ただ一つ残念なことがあるとすれば、現地での研究上の具体的な発見については、論文の発表前ということで、本書ではまだ明かされていない点である。

本書で並行して語られるもう一つの重要なストーリーが、研究と生活のための資金獲得に奔走する著者の姿である。子どものころからファーブルにあこがれ、夢見ていた「昆虫博士」になったものの、生活が安泰になることはなく、モーリタニアで調査していること自体もネタにして資金獲得を目指すところに、研究を続けることの難しさと著者のバッタの研究を続けるための懸命さが伝わってくる。

本書からは一貫して、著者のバッタへの愛が十分に伝わってくる。著者の小学生時代からの夢の一つが、雑誌で読んだ大量発生したバッタを見に行った観光客の緑の服がバッタに食われてしまったという記事の再現であった。その夢をかなえ、ついに本書の最後で全身に緑をまとってバッタの大群の中にたつ場面は、おかしくも不思議な感動をもたらす。時として表現が上滑りしてしまっているところもあるが、モーリタニアでの生活も織り込み軽妙な文体で楽しく読み進めることができる。

児玉 由佳(こだま・ゆか/アジア経済研究所)