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資料紹介: Ethnic Divisions and Production in Firms

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:Jonas Hjort, “Ethnic Divisions and Production in Firms”
福西 隆弘
■ 『アフリカレポート』2015年 No.53、p.30
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人々は民族の違いをどのように意識し行動に反映させるのか。本論文はその一側面を鮮やかに切り取っている。観察の対象はケニアのバラ農園で働く労働者900人あまり。3人でチームを組み、上流の1人が花束の材料となる花を集めて下流の2人に流すという工程に注目し、チームの民族構成が生産に与える影響を分析している。下流の労働者は出来高払いなので、上流の労働者が花の供給量を変化させれば下流の2人の賃金を操作することができる。上流の労働者は下流の労働者が自分と同じ民族かどうかによって供給する花の量を変えるのか、またその違いは紛争の発生によって変化するのかを推定している。

民族意識が経済活動に与える影響をミクロレベルでみた先行研究はあるが、それらは村や自助グループといった組織の意思決定における影響をみており、組織の幹部の意向が強く影響されている可能性がある。他方、本論文では上流の労働者の意思決定を対象としているが、上流・下流の配置はランダムに決められているので、花束生産工程で働くすべての労働者の平均的な傾向を明らかにしている。つまり、政治的な影響力を持たない一般的な人々の、日常的で些細な意思決定における民族意識の影響が分析されている点で、先行研究と決定的に異なっている。

民族が同質なチームに比べて、異質なチームは生産量が平均4~8%低くなっていた。また、下流の労働者のうち1人だけが上流の労働者と民族が異なる場合に、彼女の生産量は民族が同質なチームと比較して18%も少なく、逆に、同じ民族の労働者の生産量は7%多くなっていた。この傾向は2007年末以降の紛争期間にはさらに強くなり、紛争発生後9か月が経過しても効果は持続していた。また、賃金をチーム全体の生産量による出来高払いに変更し、下流の労働者の賃金に差が生まれないようにすると、下流の労働者間にみられた民族帰属による生産量の差は解消された。上流の労働者による操作が明らかにされている。

本論文は、一般の人々も自民族の同僚を日常的に優先していることを示した。もちろん、ケニアやバラ農園の労働者といった観察対象を超えて同様の傾向があることを示したわけではないが、特異な例であるとも思われない。ミクロ計量分析は研究対象地域の理解に貢献していないと批判されることが多いが、本研究には大きな貢献があると感じる。評者は、若者が上流工程を担当する時には供給操作が少ないという結果に、若干の希望を感じる。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)