資料紹介: Ethnic Diversity and Economic Instability in Africa ——Interdisciplinary Perspectives——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介: Hiroyuki Hino, John Lonsdale, Gustav Ranis, and Frances Stewart eds. Ethnic Diversity and Economic Instability in Africa ——Interdisciplinary Perspectives——
福西 隆弘
■ 『アフリカレポート』2013年 No.51、p.92
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本書は、近年しばしば議論される民族多様性と経済活動との関連について、複数の専門分野からアプローチした研究成果である。1990年代後半、開発経済学の文献で、国レベルの1人あたり所得と民族多様性を表す指標が負の相関関係にあると示されたことを契機に、民族多様性の経済的な影響が注目を集めるようになった。主たる生業や居住地域の違いなどから、異なる民族は異なる利益を追求すると考えられ、したがって、多様な民族を有する国では全体の利益となる経済政策の実施や制度の構築は困難だと主張された。その後、同様の計量経済分析がさかんに行われるようになったが、他方で、人類学、歴史学、地域研究などの研究者たちは、計量分析による研究は民族多様性と経済活動の複雑な関係を捉えられていないと批判している。本書は、こうした研究の流れの中で、経済学者を含む複数の専門分野の研究者を集めて、学際的な議論の中から、経済における民族多様性の影響を明らかにしようとするものである。

本書は、民族問題を歴史、法律、政治の側面から検討し、民族多様性はそれ自身が対立を生み出すものではなく、政治や経済などのその他の要因の影響があったときに対立が生み出されるとの立場をとる。いくつか提示される論点の一つが、経済的な停滞と民族間対立との双方向の関係である。経済的な停滞の下では生活を守るために民族への帰属意識が高まり、国の統治機構よりも強い影響力を持つ民族コミュニティーが形成される。その結果、民族間の格差(「水平的な不平等」と呼ばれる)を原因とした対立が先鋭化しやすく、対立は民族間の交流や交易を妨げるため経済活動が停滞すると説明されている。

本書の随所から、それぞれの専門家がお互いの分野を理解しようと議論を交わした過程がうかがわれる。この点が、他の類似する文献との大きな違いであると感じる。それは、民族多様性が与える影響について、地域や時間に固有な側面とそれらを超えた普遍的な側面の両方を把握しようとする試みといえよう。本書では、まだ両者は十分に融合しているとはいえないが、今後の研究を誘発する重要な先行研究と位置づけられる。


福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)