食品安全規制遵守のためのサプライチェーン管理

2013年9月19日 (木曜)
ジェトロ本部 5階展示場

>>開催案内・プログラム

主催:ジェトロ・アジア経済研究所、国際連合工業開発機関(UNIDO)

第I部 講演  |  第II部 パネル・セッション

第II部 パネル・セッション
モデレーター:

鍋嶋郁

パネリスト:

グエン・ホアイ・ナム(ベトナム水産輸出加工協会事務局次長)
塚原裕紀(イオン株式会社 品質管理コーディネーター/海外品質管理マネージャー)
ブー・ホン・ナム(ベトナム貿易大学講師)
山田七絵 (ジェトロ・アジア経済研究所研究員)

ベトナムの水産輸出-機会と挑戦-

グエン・ホアイ・ナム(ベトナム水産輸出加工協会事務局次長)

ベトナム水産輸出加工協会は、企業の輸出支援を行う団体である。ベトナムにとって漁業・水産業は、5~6%の国内総取引高を占める重要な産業である。その輸出額も衣類、電子製品、原油、靴についで第5位と大きい。2013年、ベトナムには567の水産加工工場があり、すべてがHACCP(ハサップ)含む国内衛生基準を満たしている。EUへの輸出資格を持つ工場は2000年には17工場のみであったが、415工場と大幅に増加しており、輸出相手国の規制遵守への取り組みを着実に進めている。日本は2012年ベトナムからの水産物輸出額の17.9%を占める重要な市場である。うちエビが6割のシェアを占める。ベトナム水産加工業者の課題は多い。まず、輸出相手国の食品安全規制の厳格化がある。一例として、2012年5月以降日本でエトキシキン(抗酸化剤の一種)の規制が導入されて、この規制を満たすことが難しいため、日本向けの輸出量は減少している。また、顧客によるトレーサビリティに対する要求の高まりをうけ、垂直統合が進める必要がある。さらに食品安全規制遵守に加えて環境や社会に対する責任も果たす必要がある。品質、環境、社会に関する顧客の要求はGlobalGAP, BRC等多くのプライベート・スタンダードに落とし込まれており、プライベート・スタンダードの認証取得が取引のために必要になっている。一方でプライベート・スタンダードはより複雑に、また種類が増加しており、認証取得はコストを増大させている。

報告資料 (3.1MB)

グエン・ホアイ・ナム(ベトナム水産輸出加工協会事務局次長)

グエン・ホアイ・ナム
(ベトナム水産輸出加工協会事務局次長)

UNIDO AEON 共同プロジェクト概要

塚原裕紀
(イオン株式会社 品質管理コーディネーター/海外品質管理マネージャー)

イオンはUNIDOと官民パートナーシップを行い、マレーシアでサプライヤーとなる中小企業の能力向上プロジェクトを行っている。UNIDOとのプロジェクトではステークホルダーが協力し、それぞれに有益な結果がもたらされることが期待される。マレーシア政府にとっては国内産業育成、サプライチェーン拡充、雇用機会の創出が期待できること、UNIDOにとっては持続可能な産業基盤構築、貿易能力向上、官民連携が達成できること、またイオンにとってはアジアシフトを後押しし、GFSI(Global Food Safety Initiative)のアジアでのリード役を果たし、さらには安全な食材提供をめざすことができる。そしてマレーシアのサプライヤーにとっては、参入機会と輸出機会の拡大を図ることができる。サプライヤー支援は実験フェイズ、拡大フェイズ、能力向上プラットフォーム確立の3フェイズに分かれており、それぞれ25社、100社、最終的には全サプライヤーの能力向上が図られるよう設計されている。現在は実験フェイズであるが、サプライヤーのレベルには大きな開きがある。技術面の課題は、食品安全にかかわる情報が文書化されていないこと、システムはあるが実施されていないこと、施設レイアウト、プロセスフローが基本チェック項目を満たしていないこと、また責任者の食品科学・食品安全の知識、経験が不足していることなどがある。これらの課題の改善が、規制遵守可能なサプライヤー育成につながる。

報告資料 (2.3MB)

塚原裕紀(イオン株式会社 品質管理コーディネーター/海外品質管理マネージャー)

塚原裕紀
(イオン株式会社
品質管理コーディネーター
/海外品質管理マネージャー)

エビとパンガシウスのバリュー・チェーンから見る食品安全規制の課題

ブー・ホン・ナム(ベトナム貿易大学講師)

ベトナムから輸出されるエビが規制を満たすためには、サプライチェーンの各所での課題解決が必要である。養殖業者によるエビのサプライチェーンをみると、稚エビや成魚の養殖時には、密度の高い養殖池での飼育に起因する水質汚染の影響を受けるため、病気が発生しやすい。そこで病気を防ぐための化学物質や動物用医薬品が使われる。使用可能な化学物質が業界団体等から示されているが、農家は何を使っているのか、どのように使用すべきなのかを理解していない。さらに、養殖業者から買い集める収集業者は目視による検査しか行わないうえ、収集の過程で多くの養殖池のエビを混ぜてしまう。収集業者からエビを買い取った加工業者は検査機関等で検査を行うが、ランダムサンプリングなのですべての違反を検知することはできない。土地の制約の大きいエビ養殖では、小規模な養殖業者に依存せざるをえず、収集業者を含めたトレーサビリティ管理の問題が大きいことがわかった。このため、養殖農家向けの検査機関設立は重要である。そして情報、技術、制度的な支援が必要であろう。一方、養殖ナマズの事例では、多くの加工業者が大規模化しているほか、養殖場を規模別にみても、規模の大きな養殖場のシェアが高まっている。小規模農家は縮小または撤退する傾向がみられる。多くのプライベート・スタンダードの導入も加工業者にとって重荷となっている。プライベート・スタンダードのハーモナイゼーションの重要性も指摘したい。

報告資料 (2.6MB)

ブー・ホン・ナム(ベトナム貿易大学講師)

ブー・ホン・ナム
(ベトナム貿易大学講師)

中国産輸出向け野菜に関するケーススタディー

山田 七絵 (ジェトロ・アジア経済研究所研究員)

ケーススタディの対象として冷凍野菜を取り上げ、サプライチェーンにおける安全性・品質管理のための取組みをみた。生鮮・冷凍野菜は近年中国の主要な輸出向け農産物となっており、主な輸出先は伝統的な日本、EUなどの先進国、最近増えつつあるASEANや韓国である。日本における輸入野菜・果物の基準違反件数のうち中国産が占める比率は減少傾向にあるが、申請件数が多いため依然全体の約3割を占めている(2010年)。中国産農産物・食品は国内外の市場で安全問題を発生させてきたが、2002年の冷凍ホウレンソウの残留農薬問題後日中政府間の協議が行われ、輸出向け農産物の安全管理に向けた制度構築の契機となった。中国政府による対応として、第一に輸出加工企業および農場の登録制度が導入された。第二に生産プロセスにおける検査体制が強化され、企業によるHACCP等による品質管理のほか、契約農場における農薬、肥料投入のコントロール、企業による原料野菜の収穫前の自主検査が行われている。輸出時には中国検査検疫局(CIQ)と企業による出荷前の検査が行われている。輸出向け農産物の流通チャネルは国内市場向けとほぼ完全に分離されており、登録された大規模農家から直接輸出加工企業を経由して輸出される。一方、大半を占める国内市場向け農産物は小規模農家によって生産され、多様かつ複雑なチャネルにより流通するためトレーサビリティが確保しにくい。中国政府は国内向け農産物・食品の安全性を向上させるため、企業への支援を通じた農業インテグレーション、契約農業の普及に対する支援を行っており、国内の農産物流通システムの改善に取り組んでいる。今後は健全な農地取引市場の発展、危険性のある農薬など投入財の流通コントロールも重要であろう。

報告資料 (296KB)

山田七絵(ジェトロ・アジア経済研究所研究員)

山田七絵
(ジェトロ・アジア経済研究所研究員)

今回のUNIDO・アジア経済研究所の共同研究の成果は、途上国の開発政策、援助機関、農産物・食品貿易にかかわる企業に有益な情報となることが期待される。また、途上国支援と国際貿易政策の議論に資するため、今回の国際シンポジウム以外にも様々な場で成果普及を行っている。2013年3月ベトナム、ハノイでのワークショップ開催、5月には上海における8th South-South GATE Convention、6月ジュネーブWTOのAid for Tradeで発表を行っているほか、2013年12月バリで開催されるWTO閣僚会議のサイドイベントでも発表が予定されている。

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