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開催報告

アジア経済研究所 オンライン講座『アジア動向年報2022』刊行記念セミナー――東アジアの政治動向と見通し

アジア経済研究所では、基幹事業のひとつである『アジア動向年報 』の刊行を記念して、2022年4~6月に連続セミナーを開催しました。6月20日のセミナーでは韓国、香港の国と地域の2021年の政治動向を踏まえて、現状と今後の見通しについてそれぞれの専門家が解説しました。

韓国:韓国―政権交代はしたけれど・・・前途多難な尹錫悦政権(講師:奥田 聡(亜細亜大学アジア研究所教授))
2021年の韓国政治
  • 不動産問題は大きなイッシューとなっている。住宅の価格が上がりすぎてしまい、若い人や低所得者層に手が届かなくなりつつある。家主側も、前政権が行った法改正により様々な困難に直面している。進歩与党は不動産問題が足かせとなり、2021年4月のソウル市長選で敗北した。コロナ渦の不況の中でも不動産価格が高騰し、有効な手を打てなかったことへの批判が高まっていた。
  • 進歩与党は李在明を大統領候補に指名した。小卒で少年工の経歴がある苦労人(最終的には大学卒)であり、ベーシックインカムを提唱している。ただし市長在任時の新都市開発事業での不透明な利益配当等の疑惑があった。
  • 対して保守野党は、36歳の新代表を選出し、大統領候補には、政治経験はゼロだが検察総長を歴任した反骨の法曹人であり、反文在寅のアイコンである尹錫悦を起用した。保守野党は、異質な3つの集団(重鎮議員、若手、尹錫悦の周囲の関係者)の寄り合い所帯であり、党内の統制・掌握が困難という課題を抱えていた。特に尹錫悦は朴槿恵投獄の当事者であり、世代対立の様相もあった。
  • コロナに関しては、韓国では年末に感染拡大した。11月にウィズコロナに舵を切ったがこれが裏目に出た。
2022年の韓国政治
  • 進歩与党は、李在明陣営の「小確幸」(小さくても確実な幸せ)を掲げて数々の奇抜な公約が出したが支持を広げられなかった。また、尹錫悦が選挙戦の中で、政権につけば前政権を徹底捜査する、と発言したことに対して過敏な反応を見せ、政治報復を恐れる進歩与党の姿を印象づけてしまった。他方で保守野党は、尹錫悦が選対を立て直し、再結束することに成功した。
  • 大統領選の選挙結果は、得票差があまりなく、尹錫悦による薄氷の勝利となった。
  • 進歩勢力の敗因は、主要な政策で成果が出なかったことや、進歩政権の政治家の身勝手さ(韓国語で「ネロナンブル」)に対する批判などが挙げられる。保守政権の勝利は敵失によると言える。
  • 尹錫悦政権の1か月の歩みを振り返ると、法相人事に進歩野党が嚙みついた経緯もあったが、首相人事をめぐっては与野党協調も見られた。
  • 政権にとっては、国会で少数与党であることや、党内の掌握などが今後の課題である。前政権は他の政権よりも高い支持を集めたまま終わっており、これが現在の反対勢力になっている。他にも、外交・統一面での課題や、コロナ後の経済運営といった課題も抱えている。
  • 尹政権は二つのジレンマを抱えている。一つは、不正を放置すればモラルハザードになるが、行き過ぎた摘発は政治報復と取られ国会での非協力を誘発する恐れがあるという点であり、もう一つは、不動産価格は高すぎても安すぎても問題、という点である。
香港:返還25周年を迎える香港政治の現状と見通し(講師:倉田 徹(立教大学法学部教授))
  • 香港では大きな抗議活動は無くなっているが、選挙制度が大きく変わっており、まもなく返還25周年を迎えるという点が注目される。
  • 2021年の香港では、突然の選挙制度改変があり、民主化は事実上終結した。国家安全維持法(国安法)が徹底され、民主派の主要な団体が次々と弾圧され消滅した。また、厳格なコロナ対策など中国式の統治の特徴がますます明らかになった。国際社会からの批判も高まった。
  • 選挙制度改変にあたっては中央政府が一方的に改変についての決定を下した。中央政府が付属文書そのものを改変することで、香港立法会での審議を形式化した。また、民主派を排除する仕組みが何重にも設けられ、候補者の審査は事実上政府の一存で決定されることになった。立法会でも普通選挙の議席が大きく減少するなど、選挙制度改変は明らかに民主化に逆行する流れであり、香港の政治学者は「民主化の突然死」と評している。
  • 民主派政界人が一斉逮捕され、メディアやNGOに対する弾圧も行われた。各種民主派寄り団体も解散に追い込また。選挙委員会および立法会選挙では民主派はそれぞれ0人となり、民主派は政界から一掃された。
  • 「ゼロコロナ」の実現を目指して規制が強化された。感染者が出たビルの閉鎖や強制検査などが行われた。また、中国シノバック製のワクチン接種が開始された。結果として感染抑制に成功していたが、規制はむしろ強化された。
  • 対外関係では悪化が見られた。民主派の逮捕や選挙制度改変に対し西側諸国から批判の声が相次いだ。こういった批判に対し、北京は口頭で非難しつつも、「反外国制裁法」を香港に適用することを棚上げするなど、香港の金融センターとしての価値を棄損したくないという意図が見えた。イギリスは香港移民受け入れを本格的に実施し、香港の総人口の1パーセントを上回る申請があった。
  • 2022年の大きな動きとしては、コロナ感染の急拡大と、行政長官の交代が挙げられる。オミクロン株による感染急拡大で検査・隔離が追い付かず、ロックダウンも実施できなかった。ワクチンの接種遅れとシノバック製ワクチンの性能が悪かったことから、高齢者の死者が多数出た。おそらくこのコロナ対策の失敗により、行政長官の交代があったのではないかと思われる。
  • 李家超(ジョン・リー)新行政長官は、警察出身であり、治安部門を担当する保安局長だった。結果を重視すると述べており、決められない政治から決別する意思を示している。これにより、公務員に対するプレッシャーが強まることが予想される。民主派への弾圧は継続するとみられる。
  • 今後については、返還25周年式典と新長官の政府運営が注目される。式典に習近平が出席するかどうかは香港の感染状況次第と思われるが、どのような講話をするかが注目される。また、李家超は中国式の「効率良い決定」を目指しているが、これが実現するかどうかが注目される。

※解説はすべて講演時点のものです。

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