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開催報告

アジア経済研究所 オンライン講座『アジア動向年報2022』「刊行記念セミナー――アフガニスタン、ミャンマーの政治動向と見通し」

アジア経済研究所では、基幹事業のひとつである『アジア動向年報2022』の刊行を記念して、2022年5月31日(火曜)にセミナーを開催しました。5月31日のセミナーではアフガニスタン、ミャンマーの2カ国の2021年の政治動向を踏まえて、現状と今後の見通しについてそれぞれの国の専門家が解説しました。このページでは、講演の要旨および講演動画(「2021年ミャンマーの政治動向」のみ)を無料公開しています。ぜひご覧ください。

2021年のアフガニスタン:概観と展望(講師:青木 健太(公益財団法人 中東調査会研究員)

  • アフガニスタンでは内的要因、外的要因の様々な理由により、過去50年で6回政治体制が変わっている。国内には様々な民族がおり、常に国家統合が課題となってきた。
  • <概況・国内政治> 2021年、ターリバーンは幹線道路沿いを中心にゲリラ戦を展開し、同時多発的な軍事行動を行うなどして、国土の4分の1を2か月で制圧。イスラーム共和国政府が事実上崩壊し、パシュトゥーン人が多くを占めるターリバーン暫定政権が発足した。暫定政権による方針が徐々に発表されているが、女性の活動を制限するなど、実態は方針と異なっており、シャリーア(イスラーム法)の独自の解釈に則った社会づくりが進んでいる。身の危険を感じ国外に逃れる人が後を絶たない。
  • <国内の治安> ターリバーンによる攻撃が減少したため全体的に改善した。そのような中、アフマド・マスード率いる国民抵抗戦線が散発的な武装抵抗活動を行っている。ターリバーンによる報復殺人、少数民族への迫害等の報告も後を絶たない。
  • <経済状況> 悪化している。アメリカがアフガニスタンの在外資産を凍結し、国庫が枯渇。深刻な人道危機が到来している。国際社会は緊急人道支援をしているが、ターリバーンを通じた支援はしていない。他方、ターリバーンは援助依存からの脱却を志向し、経済的自立を目指している。
  • <対外関係> アフガニスタンは歴史上、常に大国と地域国の介入と干渉によって翻弄され続けてきた。現在の対外関係では、欧米、日本、インドなどの影響力が退潮し、中国、ロシア、パキスタン、イラン、カタール、トルコなど地域諸国の影響力が強まっている。
  • <今後の展望> あまりにも変数が多いため今後の予測が難しい。現在軍事的優位を確立しているのはターリバーンであり、ターリバーンが長期的政権を担っていくことが考えられるが、多民族国家であるが故に安定的な統治を続けるには和平への努力が不可欠。諸外国は、包摂的政権の成立、及び、女性・少数民族の権利保障の遵守を重視しているため、ターリバーンがこれらを実現できるかが着目点である。また、国際社会にとってはアフガニスタンを国際テロの策源地としないことが肝要。

2021年ミャンマーの政治動向(講師:長田 紀之(アジア経済研究所))

  •  2021年のミャンマーでは、軍がクーデタを起こし、国民が広範な抗議活動を展開したことで、大きな混乱が見られた。その背景としては、2011年の民政移管で旧軍政が終焉し、国民が政治的自由と経済発展を享受したこと、それにもかかわらず2008年憲法により軍が政治への強い影響力を残したこと、そして2016年に発足したアウンサンスーチー政権と軍との確執が深まってきていたこと、の3つが挙げられる。
  • 2021年2月のクーデタの直接のきっかけは前年11月の総選挙。コロナ禍や内戦の激化で混沌とした状況の中で実施され、アウンサンスーチーの国民民主連盟(NLD)が再度圧勝したが、軍は不正選挙だと主張した。
  • 軍は非常事態宣言の発出を通じて合法的・正当に政権掌握したと主張したが、実質はクーデタ。その後、統治を既成事実化して粛々と喫緊の課題に取り組む姿勢を見せた。2023年8月までに総選挙を行うとしているが、NLD排除の意図が感じられ、軍の影響力を色濃く残した民政復帰という青写真を描いていると考えられる。
  • クーデタ直後から広範囲で軍に対する不満がインターネット上で語られ、若者を中心に多くの人が路上でデモを行った。年上世代による市民的不服従運動(軍への協力を拒否する職務放棄運動)も広く行われた。しかし、軍はそうした非暴力の抗議運動を過剰な暴力によって弾圧した。
  • そのような中、軍政を認めない並行政府の組織として、連邦議会代表委員会(CRPH)、国民統一政府(NUG)、国民統一諮問評議会(NUCC)が発足。斬新な包摂的国家像を提示した。
  • 9月、NUGによる「防衛戦」開始宣言にともなって軍との間での武力紛争が激化。クーデタ当時37万人いた国内避難民は、2022年5月には94万人に増えている。
  • 従来の内戦の主なアクターは軍と少数民族の武装組織。主だったものだけでも約20の少数民族武装組織がある。そのうち、クーデタ後に並行政府を明示的に支持した組織は4つあり、軍との交戦が激化。
  • コロナ禍とクーデタ後の混乱により、経済規模は大幅縮減。失業の増加、貧困の拡大、教育の停滞など、複合的な危機が進行した。
  • 欧米諸国は軍政指導者などを標的とした制裁を加える一方、中国、ロシアは軍政支持。ASEANでは、島嶼部諸国が軍政に厳しい態度を取り、大陸部諸国は宥和的な態度を取る傾向にある。ASEANを通じた交渉は厳しくなり、二国間の交渉が行われている。

※解説はすべて講演時点のものです。

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